第44話
「りおんさん……入って……」
鏡花が呼ぶ……。
転校生を迎える「妄想」から一転、迎えられる側に立場が変わったりおん……。
早まる鼓動、たぎる血液……熱を放つ躰……。
教室内に足を踏み入れるりおん……黒板には既に名前が書かれていた……。
ざわめく「住人達」……。
「改めて紹介します……りおんさんです。突然の転入でこの学院の事もわからない筈ですから、皆さんフォローしてあげて下さいね……」
『はぁ〜〜い……』
微妙に揃わない、クラスの意思……。
見かねた鏡花が、念を押す……。
「学級委員長のリンスロットさん、頼みますよ」
「わかりました……」
窓側、最前列に座る金髪ドリルヘアを輝かせるリンスロットがりおんを僅かに睨み、少し不満げな感情を声に乗せた……。
清楚な容姿に「おあつらえ」の髪型と色……普段のりおんなら、瞳が星形に輝き、高揚感で満たされる景色だが、リンスロットの眼圧が「楽園世界」を吹き飛ばす……。
それにしても、生徒が少ない……。
ざっと眺めても、20名弱……髪の、肌の、瞳の色が多様な生徒達……故に人数が少なく、インターナショナルクラスと表される理由なのか……。
「ではりおんさん……挨拶を……」
鏡花に促され、りおんは教卓の前に立つ。
形容し難い思いを滲ませた瞳達が、りおんを品定めする……。
「わ、わたし……りおんと申します……」
緊張と「圧力」で、声帯が高音域に振れるりおん。
「あ、あのう……正直突然の事で戸惑い、弱気になっています……」
「でも、決まった事だから早く皆さんと仲良くなりたいと思ってます……何卒、このりおんをよろしくお願い申し上げ奉ります様、お願い申し候……」
緊張と圧力の許容範囲が、限界点を突破し、りおんの言葉は迷走する……。
『…………』
無音の教室……。
あえてなのか、鏡花も助け舟を出さない……。
「あの……えっと……」
ぺしゃんこに圧縮されそうなりおん……。
なにか言わないと……焦る意識、滲み始める汗。
「りおんさん……」
たまらず、鏡花が気遣う……。
「そうだっ……好きな言葉を言いますっ……!」
鏡花の気遣いと同時に、勢い良く口を開いたりおん……。
「わたしの好きな言葉は……」
暴走するりおん……。
「好きな言葉は……」
「棚からぼたもちと、なる様になる……それと……」
「さらば……少年の日……ですっ……!」
『…………』
「こ、こんなわたしですが……」
「どうかよろしくお願いしますっ……!」
りおんが、深々と礼をする……が……
教卓の天板に「礼」のさじ加減を失ったりおんの額が尋常でない速度で衝突し、鈍い音を教室内に轟かせた……。
微動だもしない「やってしまった」りおん。
「ぷっ……あっははははぁっ……」
誰かが、りおんの滑稽な風景に堰き止めていた感情を吐き出した……。
『ははははっ……』
「ヒューヒューッ……」
笑い声と「賞賛」の口笛が、りおんを温かく迎え入れる……。
「いててて……」
額を擦り、ずれた眼鏡を直しながら身を起こすりおん……。
クラスの雰囲気が和らぐ……。
鏡花も「大丈夫……?」と、りおんに寄り添う。
りおん「らしい」波紋が、更に広がる……。
「はぁ……」
波紋の枠外で頬杖を突き、しかめ気味な目線で外を眺めひとり、リンスロットは抑制できない苛立ちの吐息という新たな波紋を孤独に広げた……。
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