騎士団の訓練所
ラッセルが捕まって数日が経ち、その間にラッセルは取り調べを受けたのだが次から次に余罪が発覚したそうだ。
そうしてある程度調べが終わると次にランドリック帝国での取り調べがある為、昨日ランドリック帝国に向かって護送されていったらしい。
そんな話をダリアから聞き本当に終わったのだとホッとしたのだった。
ちなみにあの一件以降ダイハリア侯爵はヴェルヘルムに頭が上がらなくなり、城の中で会うと何度も頭を下げて腰が低くなっているそうだ。
そしてレイティア様も結果的に助けてもらった手前、不機嫌そうな顔はするがヴェルヘルムに突っ掛かる事はしなくなったのである。
まあ思っていた以上に大事にはなってしまったが、それでも問題は無事に解決した事で私は再びヴェルヘルムの相手をすると言う仕事に戻る事になった。
「今日は何処を案内してくれるのだ?」
「えっと・・・もうほぼほぼ主要な場所は案内致しましたし今日はお城の中をのんびり散歩致しましょう」
「散歩か・・・たまにはそれも良いかもしれんな」
「ではいきましょう!」
そうして私とヴェルヘルムはお城の中を並んで散歩をする事になったのである。
(・・・ヴェルヘルムってもう私が案内しなくてもお城の中を把握してる感じなんだよね。それに私もそこまでお城の中の事を分かっているわけじゃないし、正直今回散歩で納得してくれて助かったよ)
私はそう内心思いながらも、それを面に出さないように愛想笑いを浮かべつつヴェルヘルムの相手をしていたのだった。
心地よい風を肌に感じながらお城の二階部分にある外に面した廊下を歩いていると、遠くの方から大勢の男性の掛け声が聞こえてきたのである。
「・・・あの声は?」
そう言ってヴェルヘルムは不思議そうな顔をしたので、私は手すりに近付きその声が聞こえてきた方を覗き見た。
「・・・ああ、あそこですね」
「あそこには何があるんだ?」
「騎士団の訓練所ですよ。あそこで騎士達が訓練をしていまして時々こうして掛け声が聞こえてくるのです」
「なるほど・・・ふむ、よしあそこを案内してもらおうか」
「え!?」
「そう言えばまだ騎士団関連の場所には行った事が無かったからな。せっかくだセシリアに案内してもらおう」
「う~ん・・・他国の方を案内して良いのか分からないのですが・・・」
「大丈夫だろう。まあ行ってみてもし駄目だと言われればすぐに引き返せば良い事だ」
「はぁ・・・」
そうして多少強引ではあったがヴェルヘルムと共に私達は騎士団の訓練所に向かう事になってしまったのだ。
その騎士団の訓練所は城に隣接しておりさらに近くには騎士団の寄宿舎も建っている。
私はその寄宿舎を眺めながら一人呆けた表情をしていたのだ。
何故ならここに来るのが今回が初めてだったから。
「・・・ビクトルにここのお話は聞いていましたけど、まさか実際に足を運ぶとは思っていませんでした」
「まあ、セシリアは騎士でもないそれも貴族の令嬢だからな。それは仕方がないだろう」
「あ~そう言えば、ビクトルにいつでも見学しにきてくださいと言われていたの今思い出しました」
ビクトルからの誘いを思い出し私は苦笑いを浮かべながら頬を指で掻いた。
そんな私をヴェルヘルムはじっと見つめスッと視線を訓練所の方に向けたのである。
そして何故か哀れんだような表情になったのだ。
「・・・多分毎日来るのを待っていたのだろうな」
「え?何か言われましたか?」
「いや何でもない」
何か呟いたように聞こえたヴェルヘルムに私は問い掛けたが、ヴェルヘルムは小さく首を振ってそのまま訓練所に向かって歩みを進めたのである。
私はそんなヴェルヘルムを追い掛けるように早足でついていった。
そうして漸く訓練所に到着すると、そこには想像していたよりも多くの騎士達が綺麗に整列し一心不乱に練習用の剣を振りながら声を出していたのだ。
(うおお!!!確かビクトルのスチルの背景にこんな感じの絵があったの思い出した!!!)
脳裏に浮かんだゲーム画面と目の前に広がる光景が一致して私は心の中で興奮していたのである。
するとその騎士達と向かい合うような位置で立ち、鋭い視線で騎士達を見回しているビクトルの姿を発見したのだ。
そのビクトルは普段私に向けている表情とは違い凛々しい騎士団長としての顔をしていたので、不覚にも私は格好いいと思いながらドキッとしてしまった。
(いや~ゲームの中のスチルで見た騎士団長の仕事をしていたビクトルも良かったけど・・・生はやっぱり良いね!!こんな事ならニーナの恋の邪魔にならないようにと遠慮せずこっそりと見にこれば良かったな~)
そう思いながらも騎士達に指示を出しているビクトルを眺めていたのだ。
「・・・面白くないな」
「え?」
なんだか不機嫌そうな声で呟いたヴェルヘルムに私は驚いていると、ヴェルヘルムは無表情のままスタスタとビクトルの方に近付いていってしまったのである。
私はそんなヴェルヘルムに戸惑いながらも慌ててヴェルヘルムの後を追い掛けた。
するとビクトルが近付いてくる私達の存在に気が付き鋭い眼差しのままこちらを見てきたのである。
「ヴェルヘルム皇帝陛下、何故貴方がここに・・・・・ああ!姫!!来てくださったのですね!!!」
ヴェルヘルムの姿を見てビクトルは眉間に皺を寄せたが、すぐに私の姿を見付けると一気に顔が崩れ嬉しそうにこちらに駆け寄ってこようとした。
しかしビクトルは途中でピタリと立ち止まりゴホンと咳払いをすると、再び騎士団長の顔に戻り騎士達の方に振り返ったのだ。
「テオ!ダグラス!続きはお前達に任す!!」
「「はっ!」」
よく見たら訓練している騎士達の間をテオとダグラスが歩いていて、ビクトルの指示を聞いて同時に返事を返したのである。
だがその顔はなんだか笑いたいのを必死に我慢しているようにも見えたのだ。
そしてそれは他の騎士達も同じようで中には我慢出来ずニマニマと顔を崩している者もいた。
そんな騎士達の様子にビクトルは気が付いているようだが敢えて無視し、顔を強張らせながら私達の方に向かって歩いてくるのだ。
しかしよく見るとビクトルの耳がほんのり赤く染まっているように見えたので、どうやら部下達の前で恥ずかしい自分を見せてしまった事を恥じているようであった。
「ビクトル・・・突然来てしまってごめんなさいね。なんだか迷惑掛けてしまったようで・・・」
「いえ!とんでもございません!姫が来てくださるならいつでも大歓迎です!!」
「それなら良いのですけど・・・」
私はそう言いながらもチラリと騎士達の方を見ると、騎士達が訓練している振りをしながらもチラチラとこちらを見ている事に気が付き苦笑いを浮かべたのである。
するとそんな私の様子に気が付いたビクトルが騎士達の方に振り返り、背中に黒いオーラを漂わせながら恐ろしい表情で睨み付けた。
その瞬間、騎士達から小さな悲鳴が上がり顔を青ざめて先程よりも早い速度で素振りを始めたのだ。
そんな騎士達の様子を見てからビクトルは私達の方に顔を戻したのである。
「部下達が失礼致しました。それで・・・本日はヴェルヘルム皇帝陛下とご一緒に見学にきてくださったのですね」
ビクトルはそう言いながらチラリと私の隣に立っているヴェルヘルムに鋭い視線を送った。
そしてヴェルヘルムもそんなビクトルの視線を受けながら無表情でじっとビクトルを見ていたのである。
「え、ええ、ヴェルヘルムがこちらを見たいとおっしゃられたのでご案内したのですが・・・駄目でしたでしょうか?もし駄目でしたらすぐに戻りますよ?」
「いえ、見られて困る物はございませんので大丈夫です。しかし・・・私としては出来れば姫お一人で来て頂けた方が嬉しかったのですが・・・」
「あ、ごめんなさい!また今度時間がある時に見に来ますね!!」
「はい!是非ともお待ちしております!!」
寂しそうな表情をしたビクトルを見て私は慌てて約束すると、すぐに嬉しそうな表情に変わったのだ。
その様子にずっと私が見学に来るのを待っていたんだと察しそして心の中で反省したのだった。
「まあ、俺は一人で行かせる気はないがな」
「・・・ヴェルヘルム皇帝陛下のご意見はお聞きしておりませんので」
「ちょっ!ビクトル!?」
隣国の皇帝であるヴェルヘルムに対してのビクトルの言い方に私は驚き焦ったのである。
しかし言われた方のヴェルヘルムは全く動じずむしろふっと笑いながらビクトルを見たのだ。
「皇帝である俺にその言い方か・・・良い度胸だ」
「私の忠誠は姫にのみありますので、ヴェルヘルム皇帝陛下にどう思われようと気になりません」
「そうか・・・ふっ、セシリアの事が無ければ俺の国にスカウトしたいほどなのだがな」
「それはとても光栄ですが辞退させて頂きます」
「まあそうだろう。それに俺もセシリアの側にずっとお前がいる事になるのも気に入らんからな」
「私は一生姫のお側におります!」
「一生、か」
キッパリと言い切ったビクトルを見て嘲笑うかのような表情をヴェルヘルムはした。
「それは無理な願いだな。お前は俺の国に来ない。そしてセシリアは俺の国で俺の妃となる。その時点でその願いは叶わない事が確定しているのだ。諦めろ」
「いいえ、諦めません!私の姫に対する思いはそんな物ではありませんので!!」
「ふっ、口だけなら何とでも言えるが現実は変わらんぞ」
「くっ!」
なんだか険悪な雰囲気になってきて私は二人を見ながらオロオロしていたのである。
「ふ、二人共落ち着いてください!!」
「私は至って冷静です」
「俺も落ち着いている」
「いやいや、どう見ても平静じゃ無いですから!!」
私はなんとかこの場を収めようと間に割って入るが、どちらも全く引いてくれる様子がなかったのだ。
するとその時、別の方からさらに話をややこしくする声が届いてきた。
「団長!!負けないでください!!」
「そうだそうだ!セシリア様にはビクトル団長の方が相応しい!!」
「剣の腕だってビクトル団長の方が上に決まってる!!」
そんなヤジがテオやダグラスを含めた騎士達から飛んできたのだ。
(おい!こら!!あんた達煽るんじゃない!!!)
完全に訓練を中断して集まりこちらに向かって声を上げている騎士達を見て私は心の中で叫んだのだった。
するとそんな騎士達の方を見ていたビクトルとヴェルヘルムがゆっくりと顔を見合せ、そして同時に口角を上げたのである。
「ヴェルヘルム皇帝陛下、是非ともお手合わせお願い致します」
「ああ、良いだろう」
そうして二人は揃って騎士達が訓練していた場所に向かって歩き出してしまったのだった。
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