監禁生活

「レ、レオン王子!!私、セシリアですよ!?」


「・・・うん分かっているよ。それがどうかしたの?」


「ですから!私ニーナではありません!!」


「・・・・・そんなの当たり前じゃん。何で僕がセシリア姉様をニーナと間違えないといけないの?」


「え?じゃあどうしてこんな事を?」


「それは勿論セシリア姉様を閉じ込めておくためだよ?」




 そう言って意味が分からないと言った顔で私を見てくるレオン王子を、私も意味が分からないと言った顔で見返したのだ。




(一体どういう事!?ここはニーナを監禁する用の部屋じゃ無かったの!?それが何で私が監禁されてるの!?)




 先程のレオン王子の狂気じみた笑顔を思い出しながら、どうしてこんな事態になってしまったのか困惑したのである。




「・・・・・ねえセシリア姉様、もしかして僕とニーナの関係を勘違いしてない?」


「勘違い?だってレオン王子とニーナは恋人同士なんですよね?」


「・・・・」


「あ!もしかしてまだでした?でもお互い惹かれ合っていますよね?」


「・・・・・やっぱり勘違いしてた。どうして僕がニーナなんかに惹かれないといけないの?」


「え?」


「正直ニーナの事は全く興味が無いんだけど?ただ『天空の乙女』だから王子の立場上相手にしてただけだよ。僕が昔っから興味があったのは・・・セシリア姉様ただ一人だけだよ」




 レオン王子はそう言うと再びあの狂気じみた笑みを私に向けてきたのだ。




「っ!!だ、だってレオン王子はニーナの事を好きなんじゃ・・・」


「さっきも言ったけどニーナの事なんてなんとも思ってないよ。・・・しかし相変わらず鈍感だね。セシリア姉様は。まあそのお陰であいつらの気持ちにも今まで気が付かなかったんだろうけどね」


「あいつらって・・・もしかしてカイゼル達の事ですか?じゃあやっぱり気が付いていなかったの私だけだったのですね・・・」




 私は告白してき時の皆の様子が一気に頭の中で駆け巡り知らず知らずのうちに顔が熱くなっていたのである。


 すると鉄格子を握っていた私の手を突然レオン王子が上から被せるように強く握ってきた。




「っ!レ、レオン王子痛いです!」


「・・・そっか、あいつら告白したんだ・・・僕より先に・・・」


「レオン王子離してください!!」


「許せないな・・・でもその様子なら誰かのモノにはまだなっていないね。まあなっていても・・・奪うけど。・・・じゃあ僕もハッキリと言うね」


「な、何を言うのですか?」


「そりゃ僕の気持ちだよ。僕がセシリア姉様を好きだって言う気持ち」


「す、好きって・・・」


「ああ勿論姉を慕う好きって言う意味じゃなく、一人の女性としてセシリア姉様を好きって事だよ」


「なっ!?」




 思ってもいなかったレオン王子の告白に私は固まってしまったのだ。




(え?え?レオン王子が私を・・・好き?どうして!?だってニーナはレオン王子ルート入っているんじゃなかったの!?それならレオン王子が私の事を好きになるはず無いんだけど!?これは一体どうなってるの!?)




 そんな事を考えて激しく混乱しているとレオン王子が鉄格子越しに顔を私に近付けてきた。




「だから・・・・・セシリア姉様はこのままここで僕のモノになるんだ」




 レオン王子は暗い笑みを深くしてニヤリと笑うと右手だけを私の手から離し、あまりの事に頭がついていけず呆然としていた私の頬をスルリと撫でたのである。




「っ!!」


「ふふ、恐怖に怯えたそんな表情のセシリア姉様もとても素敵だよ」


「レ、レオン王子・・・よく考えてください!私、貴方のお兄様であるカイゼルの婚約者ですよ?」


「・・・そうだね。でも今は、だけど」


「それはどういう・・・」


「実は一部の人間しか知らない事なんだけど・・・婚約期間中にどちらか一方が行方不明になり半年経過すると、自動的に婚約解消されるんだよ」


「・・・・・ええ!?」




 そのレオン王子の言葉に私は驚きの声を上げてしまった。




(な、なにそれ!?そんな事前世でやったゲーム上にも設定資料集にも一言も無かったよ!?うう~事前に知っていたら即行半年間なんとしてでも失踪していたのに・・・そうしたらこんな訳の分からない状態になる事も無かったはずなのに・・・)




 初めて聞いたその決まり事に私は心の中で大きなため息を吐いて落ち込んでいたのだ。


 すると先程まで私の頬を撫でていたレオン王子の手がいつの間にか私の後頭部に回されていて、その手にぐっと力が込められると私の顔が鉄格子ギリギリまで寄せられたのである。


 そして鉄格子越しではあったがレオン王子の顔の前で固定されてしまったのだ。


 そんな私の顔をレオン王子は至近距離でうっとりと眺め妖しく笑った。




「だから・・・セシリア姉様には最低でも半年間はここにいてもらうね」


「なっ!?そんな事・・・」


「そして兄様との婚約が解消されたらすぐに僕と婚約・・・いやもう結婚でいいや。別に式なんて正直どうでも良いしさ。婚姻届だけさっさと出して僕の花嫁になってもらうね!」


「ま、待ってください!!私結婚は・・・」


「待たないよ。だってもうセシリア姉様は僕のモノ。絶対誰にも渡さない。だから・・・僕に堕ちて」


「んん!!」




 レオン王子の手によってさらに私の顔が引き寄せられ、そして鉄格子を挟んで私の唇がレオン王子の唇に塞がれてしまったのだ。




「んん~!!んん!!」




 私はそのキスから逃れようと顔を動かそうとするが予想以上にレオン王子の力が強く動かす事が出来ない。


 さらに鉄格子に顔を押し付けられている状態でもあるから、正直当たっている部分が痛いのだ。


 私はその痛みとキスによる息苦しさに必死に耐えながら抵抗の意思を示す為、レオン王子の唇を噛んでやったのである。


 その時少し自分の唇も噛んでしまったようでピリリと痛みが走りそして血の味が口の中に広がったのだ。




「っう!」




 さすがにレオン王子はその痛みに驚き私から顔を離して一歩下がると、血が滲んでいる唇を親指で拭いその指に付いた血をじっと見つめた。


 そんなレオン王子の様子を私は荒い息を上げながら鉄格子から離れ見ていたのだ。


 するとレオン王子はその血の付いた指を見つめたままニタリと笑い私の方に顔を向けてきたのである。




「・・・痛いな~。でも・・・セシリア姉様に噛まれるのも悪くないね。それに・・・血の滲んだセシリア姉様の唇も・・・凄く良いね」


「ひっ!!」




 その明らかに危ない言動のレオン王子に私は本気で引き慌てて手の甲で自分の唇を拭った。


 それでもレオン王子は危険な笑みを浮かべながら私を見つめ、そしてペロリと自分の唇を舐めたのだ。


 さらにその様子を見て私は無意識に体が震えてしまったのである。




「ふふ、安心して良いよ。まだセシリア姉様にはこれ以上手は出さないつもり。半年後名実共に僕のモノになった時に全て頂くからさ」


「お、お願い!レオン王子考えて直してください!!」


「嫌だよ。僕がどれ程この時を待ちわびていたと思う?セシリア姉様と初めて出会ったあの6歳の頃からなんだよ?」


「え?・・・そんなに昔からですか?」


「うん。まあ全然セシリア姉様は僕の気持ちに気が付いてくれなかったけど・・・でももう今はそんな事どうでも良いや。だって漸くセシリア姉様が手に入ったんだし!!」




 そう言ってとても嬉しそうにあのいつもの小悪魔的な笑顔で笑ったのだ。




「さて・・・そろそろ僕行くね。セシリア姉様が行方不明になった噂を広めないと」


「なっ!!」


「じゃあ、また後で様子見に来るからゆっくり鉱石でも見て寛いでいてよ」


「ちょっ、レオン王子待って・・・」




 私は慌てて鉄格子に近付くとその間から手を伸ばしレオン王子を呼び止めようとしたが、レオン王子は私に背を向けご機嫌な足取りでそのまま階段を上っていってしまった。


 そしてその先で扉が開いて閉じる音が微かに聞こえ続いてカチャリと鍵が閉められる音まで聞こえてしまったのだ。


 私は鉄格子から手を伸ばした状態のまま呆然と上へと伸びる階段を見つめ、そしてそのままガックリと膝をつき両手を床に敷かれた絨毯の上について落ち込んだのである。




(何故こうなった・・・・・)




 私は綺麗な絨毯の見事な模様を見つめながらこの予想外の展開に頭を痛めたのだった。


































 レオン王子に監禁されてから多分一週間程経ったと思う。


 何故ならここは地下にある部屋の為外の光が入って来ず時間の感覚が分かり辛いのだ。


 そんな部屋での生活は・・・意外と快適ではあった。


 元々前世では長い事一人暮らしをしていたので、特に一人で生活する事には何も問題無かったのである。


 備え付けられているベッドは程よく大きく寝心地も抜群で、衣服もクローゼットの中に沢山用意されていた。


 さらにお風呂も設置されているとは聞いていたが、どういう仕組みか浴槽の中にはいつもお湯が満たされいつでも入れる状態になっているのだ。


 そしてそのお湯は循環しているらしく常に綺麗なのである。


 私はそんな環境に最初は戸惑い監禁初日の夜は絶対眠れないと思っていたのだが・・・思いの外ぐっすりと熟睡してしまったのだ。


 さすがに目が覚めた時、自分の神経の図太さに呆れたのだった。


 しかしそんな状態でもさすがに私の食事を持って現れるレオン王子を見るとどうしても緊張してしまうのだ。




「セシリア姉様、昼食持ってきたよ!」


「・・・ありがとうございます」




 笑顔で銀のトレーを持ってやって来たレオン王子にお礼を言い、一ヶ所だけ食器が通るぐらいの幅の開閉出来る鉄格子の部分からそのトレーを受け取ると用意されていた机に運んだのである。


 そして椅子に座りその食器に乗った料理の数々を見ながらチラリとレオン王子に視線を向けた。


 するとレオン王子は当たり前のように鉄格子の向こうで椅子に座り足を組んでこちらを楽しそうに見ていたのだ。




「・・・レオン王子、お願いですから私が食べる所を見ているの止めていただけませんか?」


「別に僕しかいないんだし気にせず食べて良いよ」


「いや、気になりますので・・・」


「ほらほら、せっかくの料理が冷めちゃうよ?」


「うっ・・・頂きます」




 こんなやり取りを毎回しながら私は渋々料理を食べ始めたのである。


 しかし結局食べているうちにその料理の美味しさにすっかり魅了されレオン王子の事が気にならなくなってしまうのだ。




「本当にセシリア姉様の幸せそうに食べている姿って可愛いよね」


「そ、それよりも!私が行方不明になった事で今どうなっているのです?」


「そりゃ凄い大騒ぎにはなってるよ。特に兄様達が血眼になって探しているね。まあ絶対ここは見付からないだろうけど」


「そうなのですか・・・」


「でもね・・・セシリア姉様があのアルフェルド皇子の国に一人黙って観光に行った事にしてくれたお陰で、殆どの人はまた勝手に何処か行っちゃったんだと呆れているだけみたいだよ」


「え?」


「ふふ、だから本気で探しているのは兄様達だけかな」




 カイゼル達の様子を思い出したのか口に手を当てながら含み笑いを溢した。




「・・・レオン王子は私がアルフェルド皇子の国に観光に行ったとは・・・」


「うん、思っていないよ。と言うか拐われたの知ってるよ」


「・・・やはりそうでしたか」


「正直セシリア姉様を拐ったアルフェルド皇子には凄くムカついたけど、兄様がすぐに動き出しまあ大丈夫だと思って任せたんだ。だって僕は僕でセシリア姉様が帰ってきた時の準備をしておかないといけなかったからさ」


「・・・だからレオン王子は残ったのですね」


「そうだよ。まあそのお陰でこうやってセシリア姉様を手に入れられたんだけどね」


「ちなみに・・・私の寝室にあるナイトテーブルに手紙を置いたのは・・・」


「僕が置いたんだよ。ぐっすり寝ているセシリア姉様凄く可愛かった!」


「・・・・」




 なんとなく予想はしていたが本当にその通りだった事でもうこれ以上言う気は起こらなかったのだ。


 そうして私は食べ終えた食器が乗った銀のトレーをレオン王子に返し真剣な表情で訴えたのである。




「レオン王子!いい加減私をここから出してください!!」


「絶対駄目~。じゃあまた夕食の時間になったら持って来るね」




 私の意見は即却下されそのままレオン王子は去って行ってしまったのだった。

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