第十六話 野盗討伐~王(ロミオ)の想い

 日も暮れかけていた。

 夜、森の中で動くのは危険だとデイランたちはひとまず、一夜を村で明かすことになった。


 傭兵たちが巣窟にしているのは、森の奥にある洞窟だという。

 ここから二、三キロの距離らしい。


 村長の好意で、空き家を貸してくれることになった。


「この家を使って良いのか?」

 そうデイランが聞けば、


「この家の者は街へ行った。

このまま村にいてもただ殺されるだけだとな」


「あんたたちはそうしないのか?」


「街へ行ってどうなる。

確かに賊どもから逃げる事は出来る。

ぢゃが、それでどうなる? 勝手も分からぬ街で何が出来る?

わしらは山の恵みで生かされておる……。

場所を移したところで、別な問題に直面するだけぢゃ。

それに、先祖から伝えられた土地を捨てることは出来ん」


「感謝する」


 村長が出て行く。


 デイランはロミオの元へ行く。

 彼はさっきから根を詰めた顔をしていた。


 デイランは片膝を付く。

「痛むのか?」


 ロミオはデイランの存在に今気づいた様子ではっとする。

「デイラン殿……。

いえ、傷ではありません」


「傭兵どものことか?」


 ロミオはうなずく。

「私はそんなことも知りませんでした。

確かに考えてみればその通りなんですよね。

戦の時にどこからともなく集まってくる傭兵団、彼らは戦争のない時にはどこで何をしているのか……。

私は愚かです」


「そんなことはないさ。

どんな高見に昇っても、見えないものはある。

それを恥じる必要はないんだ。

俺たちに見えないものを、お前は代わりに見ているってことなんだからな。

罪深いのは見て見ぬふりをすることだ」


「見て見ぬふり……」


「お前は変えられる立場にある。

今は流浪るろうの身だがな、絶対にお前を王様に戻してやるさ。

お前には俺の忠誠心もやるって契約だしな。

いつまでも雇い主が文無しじゃ、こっちの格好もつかん」


 ロミオは微笑む。

「デイラン殿。

明日は頼みます。村の人たちの為に」


「もちろん」


 そこに村人が尋ねてきた。

 デイランを囲んだ若者の一人だ。


(確か、ヨータとか呼ばれてたな)


 ヨータは、食べ物を運んで来た。

「これ、村長と、村のみんなからです」


 マックスが驚く。

「ねえ、ちょっと。

これ、あなたたちの食べる分も入ってるんじゃないの?」


「村長からのせめてもの気持ちです。

このままいけば、村は遅かれ早かれ賊どもに潰されてしまいます……。

ですから、あなたたちは俺たちの最後の望み……。

だから、食べて下さいっ」


 デイランは頭を下げる。

「重ね重ね、色々とすまん。

俺達に賊のことは任せろ」


「はい!

ありがとうございますっ!

それから、すみません……」


「ん?」


「いきなり、あんなことをして」


 デイランは苦笑する。

「別に気に病むことはない。

お前立ちの気持ちはよく分かった。

だが、これからは用心した方が良い。

下手をすると皆殺しにされるぞ」


「は、はい。気を付けます」

 ヨータは頭を下げて出て行く。


                   ※※※※※


 空が中天に輝く。


 “死の牙団”こと、山賊たちは今や遅しと村からの貢ぎ物を待ち受けていた。

 総勢、二十人ほどである。


 洞窟の奥で酒を飲み、獣肉を食らっていた隊長、ホーゲンの元に部下が走ってくる。

「隊長!」


 全員、鎧は脱いで、半裸である。

 武器は傍らにおいてあるが、鎖帷子よろいかたびらや鎧など普段からなど着てはいられない。

 何より、自分たちを倒しに王国が動くはずもない。

 なぜなら、死の牙団こそ王国軍だからだ。

 ホーゲンたちを追いやれば、似たような盗賊稼業に励んでいる同業者たちは王国を見限り、帝国につく。

 だから王国は手を出せない。


(王国と帝国が争ってくれて、俺たちは万々歳だぜ)


 そこへ、荷車を転がす村人が現れる。

 荷車の上には見目の美しい少女がいた。

 金髪だ。


 ホーゲンは目を見開き、「ぬぉっ」と阿呆な声を出す。


「隊長、あれっ……」


「あんなのは村にゃいねえな」


「まさか連中、どっからかさらってきたんじゃ……」


「かもなあ。連中も生き残る為には必死ってことよっ」


 ホーガンはだらしない顔で近づいてくる。


 荷車を引いていた男がさっと横にどく。


「へへ、嬢ちゃん。安心しな。俺がたっぷり可愛がって……」


 瞬間、金髪の子どもが顔を上げたかと思えば、ホーガンの目に向かって、手の中に握りしめていた砂を思いっきりぶちまけたのだ。


「ぎいいいあああああっ!?」

 まともに目つぶしを食らわされ、ホーガンはうめいた。


 さらに次の瞬間(視界を奪われていたホーガンは一切気づかなかったが)。

 荷車を引いていた男が、荷車に乗せられていた剣を手に取るや、一刀の下にホーガンを袈裟懸けさがけに切り裂いたのだ。


 血が飛び散り、ホーガンはもんどり打って倒れた。


 ホーガンは意識はそこで途絶えた。


                   ※※※※※


 デイランはホーガンだけではなく、立て続けに周りにいた部下たちを次々と斬り伏せた。

 村人たちが相手と、なめてかかった賊は武器を携帯していなかったのだ。


 遅ればせながら他の部下達が剣を手に取り、デイランに迫ってくる。

 それを数人相手をして軽々と切り伏せる。


 デイランが手練れと気づいた賊たちは、身を引いた。


 デイランはきびすを返して森へ駆けだした。


 同時に、金髪の子ども――クロヴィスもまた同じように駆け出し、森の茂みへ姿を消した。


「ええい、二人とも追いかけるんだ!


 賊たちは二手に分かれて追いかける。


 だが激情に駆られた男達はたかが、ガキ一人と罠の中に自ら入っていった。

 頭上より跳ぶ矢に、自分がいつ死んだかすら分からないほど呆気なく、命を落としていった。


 次々と身体を射貫かれたのだ。


 デイランの後を追った賊たちも、背後より切り伏せられ、ただしかばねを野にさらすばかりだった。

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