【異世界王国軍の日常】〜パーティーから追放された平凡少女は、王国軍に転職してレベル0から本気でやり直してやると決意したようです〜

第53話 VSフィリア・クリスタルハート

「王国軍騎士......国家に隷属（れいぞく）する哀れな人形、思考の停止した暴力装置がどこまでやれるか楽しみですね」

　満身創痍となったミーシャの前に立ち、わたしは一切の躊躇なく刃を向けていた。

　もはや情けなど消滅している、わたしの親友をここまで傷つけたヤツに遠慮など無い。

　――――排除するまでだ!

「良い表情っ......、復讐に満ちた瞳、殺意を放つ剣。一兵卒にはもったいない美貌ですよ!」

「それはどうも.....、じゃあ、さっさと消えてもらえるかしら」

　後悔してもらおう、わたしが狂ったヤツによく効く意思疎通法のプロであることを。

　古来より通ずる言語を超えた意思の伝え方、わたしは全身の魔力を奮い立てながら『高速化魔法（メテオール）』を発動。

　消えてと言って通じぬなら、実力で強制執行するまで!

「はああああッッ!!!」

　剣撃と並行してCQC(軍隊格闘)を展開、連撃を叩き込み、魔法の詠唱も一切許さない。

　このまま押し潰す!

「良いッ!　良いですよ騎士さん!!　もうここへ来た目的すら忘れてしまいそうです!!　そこのキャットピープルよりも可憐でお強い、魔法杖越しにビリビリきますよ!　クラスレベルは一体おいくつで?」

　巧みに金属製の杖で攻撃を流すフィリアへ、わたしは直前に確認していたステータスと一緒に雷を叩きつけた。

「――――――『71』よッ!!　このド変態ッ!!!」

　甲高い衝突音、甲板の軋む音と共にフィリアの声が届く。

「わたくしと同じでしたか、どうりで強いわけです!!」

　杖の先端が輝いたと思うと、膨大な魔力が吹き出た。

「『上位炸裂魔法（レイドブラスト）』!!」

　後ろへ飛び退いて寸前で回避、甲板の一部が爆砕された。

　高位魔法......ワイバーンだけじゃなく、彼女自体が上級クラスの『ヴィザード』。

　あぁもう恐ろしく辟易（へきえき）する!　高レベルで特殊スキル持ちの魔導士兼ワイバーン使いとか、お話の主人公のようなスペックだ。

「あれを避けましたか、ならば面制圧で圧倒しましょう!」

　しかし、だからといって噛ませ犬に成り下がるつもりはない!　相手が主人公級だろうがぶっ倒す!

「『上位電撃魔法（レイドスパーク）』!!!」

　直撃弾だけを魔法で迎撃、右舷側から低姿勢で弾幕を突っ切り、再び肉薄を試みた。

　だが――――――

「ああ、そういえば足元にご注意くださいませ」

「えっ......!?」

　さきほどまで攻撃を打ち合っていた場所、再び踏み入ったそこは魔法陣で覆い尽くされていたのだ。

　まさか......。

「『設置式炸裂魔法（ブレイク・クレイモア）』」

「しまっ――――――」

　即席の地雷原ッ!?　回避など間に合うはずもない。爆風がモロに体を突き刺した。

「くはっ......あ"ッ!!」

　甲板に背中なら倒れる。

　うっ、立たなきゃ......っ、立って戦わないと、意識だけは離せない――――

「あぐッ!?」

　起き上がろうとしたわたしの腹部へ、靴底が叩きつけられた。

「可愛いお胸は踏みたくありませんので、お腹で我慢いたしますわ。勇者の剣はどこです?」

「テロリストに言うわけないじゃない、あんたなんかじゃあ到底扱えない伝説のアイテムよ」

「ッ......!!!」

　癪に障ったのか、それとも白状させるためか。

　フィリアは踵（かかと）に体重を乗せてきた。

「うくッ......!」

「簡単に決め付けないでください!　現にわたしはあなた方を圧倒しています!!　遺憾ですが、教えていただけないなら――――」

　杖が突きつけられる。

「剣の在り処を吐くか、血を吐くか。最後に選んでください」

「ッ......どっちもしないわ」

「残念です、二度と食べ物を消化できると思わないでください」

　杖の先端がお腹に向いたと同時、わたしは大きく叫んだ。

「クロエ!!　今ッ!!!」

　物陰からペアが飛び出す。

「なっ!!?」

　自身への驕（おご）りか、はたまた魔法を相殺するクロエの『マジックブレイカー』が予想外だったか。

　いずれにせよ、クロエが真後ろからフィリアへ奇襲を仕掛けることに成功した。

「はああああぁぁぁぁッッ!!!」

　格闘徽章を持つ彼女は、フィリアから杖を一瞬で奪い取ると、猛攻をスタート。

　お返しとばかりに、杖を取り返そうとするフィリアへ棒術を打ち込み一転攻勢。

　服をわしづかみし、磨き抜かれた体術でフィリアをその場へ押さえつけることに成功した。

「ここまでだよ......!　大人しくしてて!」

　投げ捨てられた杖が海へと落ちる。

　勝負は完全に決したと言っていい。

「確かにここまでのようですね......、ですが、近いうちにまたお会いするでしょう」

　この状況でどう逃げるのだろう、寝言を封じようと拘束に移ろうとした刹那だった――――――

『敵ワイバーン急速接近!!　右110度200!　こちらへ向かう!!』

『対空砲火間に合いません!　迎撃不能!!　衝突するぞッ!!!』

　大きく空いた艦隊の隙間から、ワイバーンが侵入。強行着艦されてしまった。

　甲板が激しく揺れ、せっかく押さえ込んでいたフィリアがクロエの腕をスルリと抜け出した。

「杖もワイバーンも無くしたことですし、一度撤退させてもらいます。ではまた近いうちに」

　言い返す前に、彼女はワイバーンにまたがり大空へ飛び立ってしまった。

　追撃など無論できない、魔導機関砲も今の戦いでほぼ破損している。

　結局、わたしたちがアルテマ海軍基地へ無事到着したのは、日が暮れる頃だった――――――