第45話 初めてのダンジョン!

 

 ダンジョンと呼ばれる空間に入ったのは初めてで、わたし自身どんなものか入ってからやっと理解するレベルだった。


 明かりの乏しいダンジョン内部は、幾重にも広がる石造りの通路や部屋からなり、徘徊するモンスターのうめき声が不気味にこだます。


 その通路脇に設置された扉を開けると、中は個室程の広さを持つ廃れた部屋、腐った机や椅子が置いてあるだけで罠一つ無い。


「宝もトラップも無しかよ、やっぱこの辺はもう漁られてるみたいだな。依頼のマナクリスタルは上の階を探ってみるか」

「そうね、トラップのデパートみたいにもっといろいろ飛び出すと思ってたんだけど......」


 イチガヤとフィオーレが、あちこち部屋を見て回る。


「何も無いに越したことはないわ。わたしたちより前に来た上位冒険者が、もう罠を解除してたんじゃないかしら?」


 っとなると、イチガヤが言っていた勇者のアイテムも既に取られている可能性すらある。

 やっぱりただの噂だったのかな。


「っしゃーねえ、上の階に行くか!」


 埃しか入っていない引きだしを開けるイチガヤ。


「今わたしたちがいるのは2階、すぐ近くに階段があったし、そこから上がってみましょ」


 現在まで大きな負傷者を出すことも無く順調に探索を続けている。

 だが、それはここに至るまでモンスターに出会わなかったからに過ぎない。


 下層部分だけなら初級向けと言っていいとすら思っていた。

 しかし、その認識は通路に戻った直後、腕を横に伸ばし、止まるよう指示したフィオーレによって改められる。


「待って、......なにか来てる」


 フィオーレは光属性魔法の使い手らしく、リザードマンを蹴散らした『高速化魔法メテオール』の他に、僅かな光を増幅させて視界を確保する『暗視ナイトビジョン』を会得している。


「「「「ギイイイイィィィィイイイイイッッ!!!」」」」


 通路へ戻ったわたしたちを、奇声とも言うべき不快音が迎えた。

 目も慣れてきた頃だっただけに、全身を真っ赤に染めた怪異はすぐにわたしにも見えた。

 体格はゴブリンに似た、ダンジョンに巣食う危険指定【D】ランクの敵対生物。


「『グレムリン』だ!! こっちに来るぞ!」


『グレムリン』は下級だが決して侮れない、ここは推奨レベルが55以上のダンジョンなのだから。

 イチガヤの火力は高いけど、通路の狭さからアドバンテージは活かせないだろう。

 なら――――――!


「フィオーレ!」

「了解!!」


 レイピアを携えたフィオーレが先頭に立ち、グレムリンを迎え撃った。


「はああッ!!!」


 レイピアの痛撃が決まった瞬間、入れ替わりでCQC(軍隊格闘)を展開。

 敵を床へ叩きつけ、わたしは流れるように腰のナイフをグレムリンの心臓へ突き落とした。


「グギャッ......ガッ!?」


 確実に決まった。

 そう手応えを感じた時、グレムリンの断末魔がダンジョン中響き渡った。


「ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!!!」


 あまりにもけたたましいそれを、フィオーレがとどめを刺すことによって終わらせる。

 しかし、一歩遅かった......。


「なあフィオ......、俺の気のせいだったら悪いんだけどよ。これって色々マズくないか......?」


 数回、振動が足元を伝う。

 音の反響しやすい屋内で、同胞の断末魔を聞いた者が、なにを根拠に無反応であると言えるだろうか。


「いやぁ〜......、も少し手早く倒すべきだったかな」


 明らかな動揺を見せるフィオーレ。


 ポツポツと......闇に赤い斑点が浮かび上がる。きっと『暗視ナイトビジョン』を使うフィオーレにはハッキリ見えてるんだろう。

 わたしたちは武器をしまうと、言うが早いか背を向けて床を蹴った。


「撤退! 一時撤退〜ッ!!!」


 声を聞き付けて通路の向こうから押し寄せてきたのは、おぞましい数のグレムリンだった。

 分が悪いなんて話じゃない、わたしたちは攻略前から早速出鼻をくじいてしまったようです。


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