第43話 幸先くじかれた!?

 

 早朝の内に荷物をまとめ、穏やかなムードで【古城ルナゲート】へと向かう予定だったわたしたちは、今その足に鞭打ちながら死に物狂いでひた走っていた。


「なんなのよアイツ! イチガヤ! 一体どこから連れてきたのよ!?」

「俺が知るか! 見回りしてたらいきなり地面から出て来やがったんだよ、むしろ早期発見できたことに感謝してくれ!」


 後ろから大地を揺らし、木々を蹴散らしながらこちらをを追いかける甲殻に覆われた巨大な魔物。太い尾の先には針を持ち、2本のはさみを振り上げている。


 その姿はサソリにも似ており、同時に死神のようだった。


「キュルルルルアアァァァッッ!!!」


 奇声はわたしたちたちを追い越し、ビリビリと響き渡った。

 あの生物はヤバいと本能が警告を出す、全力で逃げろと告げてくる。


「少し待って! すぐに調べるから」


 フィオーレが走りながらお手製であろう『もんすたーでーた』と書かれたノートを取り出し、大急ぎでパラパラとページをめくる。


「あった! あいつの名称は"ファルクスコーピオン"、王国危険指定ランクは......ランクは――――」

「なんだよ! 勿体振らずに早く言ってくれ!!」


 フィオーレの顔から見る見る血の気が引いていく。

 フェニクシアというトップギルドに属する彼女が見せた表情は、恐ろしく辟易へきえきとしたそれ、言うならば厄介事に巻き込まれた時のものだ。


「【A】......、危険指定ランク【A】よこいつ!! 推奨レベル60以上!」

「はあッ!? なんでダンジョン攻略前にこんな面倒くさい相手と鉢合わせちまったんだよー!」


 嘆くイチガヤ。

 倒せないこともないが、目的は『高純度マナクリスタル』の調達とダンジョン攻略。

 よって、今わたしたちが取るべき手段は1つ......!


「可及的速やかなる撃退! もとい撤退!! とにかくお城まで走るわよッ!!」

「「了解ッ!!!」」


 今まで大分無茶な戦いを乗り越えてきたけど、挑むのは無意味かつ自殺紛いの行為であると判断。

 戦略的撤退の一択!!


 林道を抜けてすぐの所、遂に【古城ルナゲート】が雄大な姿を見せた。

 海に隔てられた古城までは立派な橋が掛かっており、ここを抜ければすぐだ。


「よし! あれを渡りましょう!」


 フィオーレを先頭に橋の上へ駆け込む。

 サソリのような魔物、ファルクスコーピオンも追撃してくるが構わず突っ走る。


 そして、橋の半分を過ぎた辺りでわたしは叫んだ。


「橋を壊す! 海に落とせば振りきれるだけの時間が手に入るわ!! イチガヤ、お願い!」


 帰りはかえりでまた考えればいい、今は目前に迫る驚異の排除が最優先だ。


「仕方がねえ――――落ちやがれサソリ野郎!『イージス・ブレイク』!!!」


 剣に魔力を付与したイチガヤが、思い切り橋めがけて叩き付けた。


 榴弾でも直撃したような破壊力に、橋を構成していた石レンガは粉々に吹き飛び、ファルクスコーピオンは大量の瓦礫を連れて海へと落下した。


「ギュルギュアアアアアァァァァァアアッッッ!!?」


 巨体を水に落とし、突然のことに混乱したのか急速に動きを鈍らせる。


「よしッ! 今のうちに行きましょう!」

「ハハッ! 最高だぜお前! こんなにワクワクしたのは初めてだ!! もういっそ騎士やめて冒険者になっちまえよ! ギルドはいつでも歓迎するぜ」


 イチガヤが興奮した様子で勧誘してくる。

 フェニクシアなら......と一瞬問答したが、今はもう王国軍の騎士。こうしてクエストに来れた時点で未練は無い。


「昔やってたからもう十分よ! それよりこっち、この入り口から入りましょう!」


 中庭の庭園まで進んだところで、わたしはお城の入り口を指差す。

 古城なだけあり所々廃れてて、不気味な様子を醸し出していた。


「とりあえず入りましょう。イチガヤ、敵は来てる?」

「いやフィオ、あいつはまだ来てねえ。入るなら今だぜ」


 ファルクスコーピオンに見られていないことを確認し、わたしたちは警戒しつつ【古城ルナゲート】の内部へ姿を消した。

 予想外の敵に遭遇して幸先に不安は覚えたけど、わたしたちに前へ進む以外の道は無い......!


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