第39話 VSイチガヤ レイタ

 

「ルールは単純。どちらかが降伏した時点で勝負は決着とする!」


 ギルド前の通りで、わたしはフェニクシアの青年剣士と対峙していた。

 今思えばかなり短絡的な返答だったが、これも研修の内と考えよう。


 鋭く尖った剣先を互いに向け合った。


「そういえばあなた......名前は?」

「言ってなかったか? 本名はイチガヤ レイタ。訳あってこの国に来たんだが、今はフェニクシアで冒険者をしてる」


 変わった名前だ、やはりこの国の人間ではないらしい。

 彼のスキルや魔法はまだわからない、でもそれは相手も同じだ。

 この際遠慮などはかなぐり捨てる――――!!


 剥き出しの刃を輝かせ、地を蹴った。

 レベルが60を超えた今、わたしは砲弾のような速度で肉薄。一気に接近した。


「速えっ!!?」

「だああああッ!!!」


 連撃を叩き込んだ。

 イチガヤは即座に防戦へ移行したのか、その両手剣でことごとくを防ぐ。

 さすがはフェニクシアの上級冒険者だ、でも――――


「剣がダメなら......! これでブチ抜くッ!!」

「うぐぉっ!?」


 連撃で空いた隙間へ蹴りを打ち込む。

 軽く吹っ飛んだイチガヤは体勢を立て直すと、同時に剣も構え直した。


「すげえな......、あのイチガヤが押されてるぞ!」


 戦闘を見学するギルドメンバーの1人が声を上げた。


「そういえばあの金髪、こないだの新聞で見たぞ!」

「俺も見た! あいつ、一面に載ってたアクエリアスの英雄じゃねえか!?」


 ここにきての身バレ。

 恥ずかしいけど、今は注意を逸らすべきじゃない。

 並みの人間なら肋骨を粉砕するはずの蹴りだったが、彼には微塵も効いた気がしなかったから。


「都市を救った英雄か......、結構やるじゃねーか王国軍! なら――――俺も本気出さなきゃ釣り合わねえよなあッ!!!」


 きた! 両手剣が一気に魔光を放ったということは、おそらく攻撃魔法!

 ここからだ、全神経を集中させろ。


「教えてやるよ騎士さんッ!! 上位剣士職セイバーロードの力を、トップギルドの実力をなぁッ!!」


 真横に一閃、飛び出した斬撃魔法が超高速で飛翔した。


「『イージス・ブレイク』!!!」


 同じ上位剣士職セイバーロードのベルクートとは比べ物にならない一撃だ。

 練り上げられたステータスの暴力と言っていい攻撃魔法へ、わたしは石畳を踏みつけ、叩き切るように剣を振り下ろした。


「はあああぁぁぁぁぁッッ!!」


 相殺の衝撃で道路が砕け、なんとか防ぎ切ったわたしは数メートルほど後退。

 しかし、そこで砂埃を破ったイチガヤが視界を埋めてきたのだ。


 ――――互いに剣先を瞬かせ、陽光の中で剣舞を繰り広げる。


「このコンボを防がれたのは初めてだ! 軍ってのもやるじゃねえか!!」

「こっちこそ! あの蹴りを受けてピンピンされるとは思ってなかったわ!!」


 アクエリアス事件前のわたしなら、おそらくこのイチガヤという冒険者に手も足も出なかっただろう。

 あらゆる上級冒険者と戦ったからこそ、こうして互角に持ち込めているのだ。


 斬撃をかわし、再び回し蹴りを放つ。


「剣技と体術か、いい組み合わせだが、もう見切った!!」


 脚を掴まれるが、地面へ叩き付けられる前に空いた左脚を突き刺すように振り上げ、すぐさま脱出。

 一旦距離を取って――――――――


「もらったッ!!」


 マズいことに空中のわたしへ、重い両手剣が振るわれた。

 とてもじゃないけどガードは間に合わない、ここで負けたらせっかくのチャンスが全て失われる! せっかく来れた憧れの場所。


 曲がりなりにも騎士として――――元冒険者として、ここでなんて負けられないッ!!!


「『レイドスパーク』ッッ!!」


 閃光が走る。

 わたしの放った上位電撃魔法レイドスパークはイチガヤに直撃し、互いに吹っ飛んだ。


 黒煙が立ち込める。

 僅かに期待するが、くっきりと現れた人影はそんな淡い期待を一瞬で裏切った。


「ビックリしたぜ、まさか魔法を使ってくるとは想像してなかった。王国軍騎士を舐めてたよ」

「ハハッ......、そりゃどうも」


 さすがに手強いか、わたしがここからどうやって有利に持ち込むか思考していると、イチガヤは両手剣をアッサリ焦げた地面へ落とした。


「えっ?」

「――――"良い勝負だった、今回は"俺の負けだ。実はちょうど『パーティー』を組んでくれるヤツを探しててさ、俺と組んでくれないか? お前の実力ならあのクエストもいける筈だ」


 突然の戦闘終了とお誘いに、思考がこんがらがる。


「まさかイチガヤ......、その為にこんなティナを試すようなことしたの?」


 外野で観ていたフィオーレが、呆れた様子で詰め寄った。


「いやいや悪かったって! っつかなんならお前も来いよ、面白そうなクエスト見つけたんだ!!」

「まったく......、騒がした分はちゃんと奢ってもらうからね」

「そう来るか、まあ依頼こなせたら奢ってやるよ」


 こういうトップ冒険者というのは、きっとどこかがおかしいものなのかもしれないと、心の中のメモ帳に記入。

 こうしてわたし、イチガヤ、フィオーレの3人パーティーが電撃的に結成された。


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