第32話 激辛海軍カレーです!
「――――まさか、あんたたちもフォルティシアの部下だったなんてね」
エプロンを纏ったミーシャが、席に座ったわたしたちにお冷を出しながら呟く。
「なんでここに?」
「アクエリアス事件の
全く知らなかった......、じゃあ今回中佐がわたしたちにこのお店の券をくれたのも関係あるのかな。
ふと、ミーシャはチラリと横目でクロエを見た。
「あの......その、こないだはゴメン。乱暴しちゃって......」
たぶん、アクエリアスの列車でクロエと戦った時の話だろう。
「許さない――――――――なんて冗談、事情があったんでしょ? 罰を受けてちゃんと謝ってくれたんだし、わたしからは何も言わないよ」
一瞬ビクリと震えたミーシャだが、後半の言葉を聞き安堵の表情を見せる。
「いらっしゃい。ああ、君たちが"アルマ"の言っていた騎士か。アイツの辛いもの嫌いは健在のようだな」
奥から出てきたのは、エプロンを着た金髪の若い男。
どこか鋭い目付きと引き締まった筋肉の持ち主で、一瞬現役の王国軍人かと思ってしまった。
中佐を名で呼ぶなんてよっぽど仲が良いのかな。
「あっ、初めまして。フォルティシア中佐にここの半額券をいただいて来ました、ティナ・クロムウェルです」
「初めまして、店長のイグニス・ハルバードだ。アルマのヤツから若くて労働意欲のあるバイトを派遣すると言われて送られたのがコイツでね。どこかぶっきらぼうだが、まあ仲良くしてやってくれ」
グシグシとネコミミの上からミーシャの頭を撫でる店長。
「ちょっ、店長! 子供扱いしないでくださいよ」
「ほお、今ここで割った皿の数を暴露してそのプライドを打ち砕いてもいいが、まずはお客様のご注文に答えようじゃないか」
「うっ......!」
途端静かになるミーシャ。
メニュー表には様々な激辛料理が並んでいるけど、最後のページに載っていたとある料理が気になった。
「じゃあこの――――"夏季限定の激辛海軍カレー"を3つお願いします」
「......かしこまりました、オーダー!! 46センチ主砲3基!
厨房に大声で叫ぶ店長。
同時に、ミーシャも奥へと駆け込んでしまった。
凄まじい調理音が響いた後、器用に3つ皿を持ったミーシャがやって来る。
「おまたせしました、夏季限定【46センチ3連装砲カレー・激辛スペシャル】です。喉と胃の
ドカンっと机に乗せられたのは、ご飯部分に国旗と海軍旗、王都の都旗が砲身のように連なった海軍カレー。
圧倒的な巨砲と激辛スパイスの香りに、思わず退きかける。
「なんという大艦巨砲主義ッ! しかもスパイス入れすぎて黒くなってるッス......!」
とりあえずスプーンを取る。
「フッフッフッ、これを見た陰謀論者が『実は海軍は46センチ砲を積んだ戦艦を極秘に造ってるんじゃないか』とか面白いことを言ってたわ。今造ってるのは"40センチ"らしいですよね店長?」
「......ん、ああ。40センチと聞いている」
正直海軍のことはよく知らないけど、ひとまずは――――
「では......いただきます」
恐る恐るカレーを乗せたスプーンを口に運び、3人揃って頬張る。
「かっ......
お冷を即流し込むも、ベロの上が砲撃されたようにヒリヒリと痛んでよだれが止まらない。
これがこの店の激辛料理......!
「喉が焼きたゃだれるッス! こんにゃのどう攻略すればッ!?」
セリカが断末魔を上げる、クロエに至っては無言でプルプル震えているレベルだ。
「はっはっは! 昔アルマにこれの試作品を食わしてね、今の君たちと同じく「かりゃいかりゃい」と叫んでたよ。部下を身代わりにするとは薄情なヤツだ」
なるほど......、中佐は既にこのカレーの威力を味わってたのね。
じゃあこの店長、知ってて中佐に半額券3枚もあげたんだ。
「アイツの反応を久しぶりに見たかったが、君たちもなかなか良いリアクションをする。味わってもらえて嬉しいよ」
「食べ切ったらデザートが1品無料になるわ、頑張って」
せめてものオアシスであるデザートを目指して、わたしは46センチ主砲の攻略に取り掛かった。
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