第15話 アンソニー編⑩ 二人で迎えた朝

「おはよう、カレン」


 アンソニーのれたコーヒーの香ばしい香りが部屋中に漂っていた。窓の外からは気持ちの良い陽射しがさしこんでいる。


「……おはようございますぅ」


 うわっ。私……アンソニーと朝まで一緒に過ごしちゃったんだ。

生まれたままの姿に急に恥ずかしさを覚え、シーツを体に巻きつけてみる。


「カレン。僕が朝食を作るから、君はシャワーを浴びてくるといいよ」


「ありがとう」


 シーツを巻きつけたまま……いそいそとバスルームへと駆け出す。

シャワーを浴び、キッチンへ戻るとテーブルの上には、メープルシロップがたっぷり添えられたスウェーデン風パンケーキとフルーツサラダが並べられている。


「カレン、コーヒーに砂糖入れる?」


「砂糖は入れません。牛乳を少しだけ入れてもらえるとうれしいです」


 二人で向かい合って食べる朝食は、恥ずかしくてアンソニーの目をまともに見ることができない。まるで少女のようだ。


「アンソニー、すごく美味しい朝食を作ってくれてありがとう」


「このパンケーキは、普通のパンケーキと違ってロールケーキみたいに巻いてあるだろう。Lingonberry (リンゴンベリー)っていうジャムが巻いてあるんだよ。カレンになら、毎朝作ってあげてもいいよ」


 そんな甘い言葉をかけられたら、朝からドキドキしちゃうよ。頬が赤くなってきたのを隠すように全く違う話題を投げかける。


「そうだ、アンソニー。今日は何か予定とかある?」


「いいや、今日は仕事を入れてないから、1日中カレンにつきあえるよ。何かしたいことあるの?」


「ショッピングに付き合ってもらってもいいかな? 新しい洋服を買いたいの。このドレス……実は、デビットからのプレゼントなの。やっぱり、私が持って着た服じゃ、アンソニーと一緒に歩くのに迷惑かけちゃいそうだから……」


「そうだったんだ。でも、カレンは、どんな服を着てても可愛いよ。本当は、服を着ていないカレンが、一番可愛いけどね」


ゴホッ……ゴホッ……。


「ちょっと、アンソニーったら・・」

思わずむせてしまう。


「どこのお店に行きたいの? 決めてるお店はあるの?」


「Tシャツ店やお土産屋さんは知ってるんだけど、どこで買い物したらよいのかわからないの」


「そう……じゃ、僕に任せて」


 ポケットからスマートホンを取り出し、慣れた手つきでデビットにカレンの服をどこで購入するのがよいか、テキストを送る。デビットは、元スタイリストが経営している、町外れのPetitサイズ専門セレクトショップを勧めてくれた。店主のリンダにこれから行くことも伝えておいてくれるという。


 朝食を終えた二人は、サンフランシスコの街をぬけ、セレクトショップへと車を走らせる。




◇ ◆ ◇


「いらっしゃいませ。私はリンダよ。デビットから事情は聞いてるわ。よろしくね」


 お店に着くと、リンダが笑顔で出迎えてくれる。


 元スタイリストのお店らしく、センスのよい服や小物たちが所狭しと並べられている。リンダは、私の全身を上から下へ目線を移し見渡すと、店の中を駆け回り、テキパキと手際よくドレスを選び運んできた。


 「これと……これと……このドレスに合わせてこのネックレスも選んだから、カレンは今からこれ全部を試着してね。私たちは外で待ってるから着替えたら出てきて、見せてちょうだい」


 リンダは、元スタイリストだけあり、素敵なコーディネイトを惜しげなく披露してくれる。選ばれたドレスたちは、シーンに合わせて着られるようにと組み合わせも様々だった。仕事用スーツもリンダがコーディネイトしたものは、Co-Coの女性らしい大人のラインで、スーツの胸元がふわふわとしている。


 最初に試着したのは、爽やかな薄ピンクのサマードレス。サイズもぴったりでスカートの丈がくるぶしまであるロングドレスだ。


「あのっ……着てみましたが……どうでしょうか?」


 恐る恐る、試着室から出て行くと、二人の視線が同時に私の体に集中する。試着室の前には、豪華なソファーが置かれており、アンソニーが座り、その横にリンダが立って、二人で雑談をしていた。


「カレン、すごく可愛いよ。君にぴったりだ。そのサマードレスを着て、一緒に海岸を散歩しよう」


アンソニーが目をキラキラとさせて答えてくれる。


「カレン、似合ってるわ。私の目に狂いはないわね。さぁ、次の服もどんどん着てみせて」


 急かされるように、次々と着替えては、二人から感想を聞く。どれもが可愛く、決めることが難しい。


 値段のタグを見ると、洗練された高級品だけあり、私の予算をはるかにオーバーしている。ここの洋服は値段が高いから、2着買うのが私の限度だな。リンダが選んでくれたドレス一式をすべて着終え、試着室で密かに考えていた。


 うーん。最初に着たサマードレスとスーツにしよう。サマードレスを着て、アンソニーと一緒に海岸を散歩したいしな……。


 「このサマードレスとスーツを買います」

リンダに会計をお願いすると……


「あら、カレン。お会計ならアンソニーがすでに済ませてあるわよ。この洋服全部、あなたのものよ」


「えっ? それは困ります」


「カレン、心配しないで。僕からのプレゼントだよ。さぁ、サマードレスに着替えて二人で海岸を散歩しよう」


 こんな高い洋服をプレゼントしてもらうわけにはいかない。


「あのっ……気持ちは嬉しいですけど、アンソニーに買ってもらうわけにはいかないの」


「ハハハ……カレンは面白いこと言うね。まっ、そんなカレンだから、好きになったんだけどね」


リンダは、二人の会話を聞いて呆れ返っている。

「買ってくれるって言ってんだから、黙って受け取ればいいのよ!!」



 リンダの強い口調に少し戸惑いながらも、サマードレスに着替えアンソニーといっしょに海岸へと移動する。





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