第57話  何度でも繰り返す

 草平は自分の筒袖や綿入れをカネヒコに着せた。


「さぁさぁ寒いから風邪をひかないようにな」

「うん、あったかい。カネヒコ、これ好き」

「そりゃよかった」

「カネヒコ、そうへいのことも好き!」


 カネヒコは嬉々として草平に抱きついた。


「おいおいおいおい!」


 犬八は慌ててカネヒコを抱き抑え、草平から引き離した。


「先生が迷惑してるだろ!」

「犬八、僕は大丈夫だよ」


 カネヒコに抱きつかれてまんざらでもなさそうな草平を、犬八はじっとりとした目で見つめた。


「そういう問題ではありません」

「え、あれ? なにか悪いことでもした? 犬八怒ってる?」

「いいえ」犬八は素っ気なく答えた「さぁ、カネヒコ。昼飯だぞ!」

「えーけんぱち嫌い! でもひるめし好き!」


 カネヒコは犬八に背中を押しやられながらケラケラと笑った。


 カネヒコを茶の間で膳の前に座らせ、草平と犬八は厨で相談した。


「先生、あいつ体は立派な大人ですが、心はからきし子供みたいですぜ」

「どうやらそうみたいだね」

「昨日は痩せ衰えた老人だったのに」

「そうらしいね」

「先生、覚えていないんですかい?」

「う~ん、いわれてみればそんなだったような気もするのだけれど、どうも確信が持てなくてね」


 むむむ、もしかして先生は、人外のカネヒコからなんらかの影響を受けているのかもしれない、と犬八は不安になった。これは増々警戒しなければ。


 二人で茶の間に戻ると、カネヒコは手で昼飯を食い散らかしていた。


「コラ、カネヒコ! ちゃんと箸を使え!」

「? はし?」


 犬八は嘆息しながら、これからどうします? といった様子で草平に顔を向けた。


「ま、まぁ、仕方なかろう。いったん乗りかかった船だ」


 草平の気負った表情の中に、犬八は少しだけ陰りが見えた気がした。

 先生は、繰り返すんですよね、何度でも。

 それが厄介な結果をもたらすかもしれないとわかっていても。

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