第43話  今年の汚れ、今年の内に

「さて、今年も残すところあと一週間となった。大晦日に向けて、少しずつ掃除をしていこうと思う」


 草平は朝餉を食べ終わると、立ち上がり、帯を力強く絞めなおして宣言した。


「はぁ、まぁそれはいいんですが、掃除は俺が毎日していますからねぇ」


 側に控えていた書生の犬八が、決まりが悪そうにいった。


「え、それは、うむ、有難いのだが、なんというか・・・」


 普段掃除などまったくしていない草平は、暗に責められている気がして、恥ずかしさから動転してしまった。


「違う違う、そうじゃない。いつもは出来ないような所を掃除するんだ。去年は確か、実家に帰っていてしなかったんだよな」

「そうでしたっけ?」

「さぁやろうじゃないか!」

「では、まず俺は朝餉の片付けをしてきますね」


 そういって犬八は膳を台所に運び始めた。


「う、うん、そうしてくれ!」


 家のことは犬八に任せっきりだからな、なんだか遣り辛い。

 草平は急に熱くなってきて、火鉢から離れた。


「そうだ、ならば今日は厨から掃除を始めるとしよう」


 丁度犬八が台所へ行ったことで思い立ち、勇んでそちらに向かった。


「え、ここから始めるんですかい?」


 犬八は大きな体を屈め、流しで器を洗っていた。


「そうしようと思うんだが・・・、なにから始めようか・・・」

「先生ぃ、掃除は俺がやっておきますから、散歩でも読書でもして、ゆっくりしていて下さい」


 犬八は苦笑いを浮かべた。

 しかしそうまでいわれると、なんとしても役に立ちたい。


「ぼ、僕にだってやれることはあるはずだ。なんでもいってくれ」


 そうだ、いつも犬八に任せているから、こういうときこそ犬八の助けになりたいのだ。

 草平はいきり立って犬八に迫った。


「はいはい、わかりました。では、竈の掃除でもしましょう」

 犬八は軽く溜息をついたものの、どこか嬉しそうでもあった。

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