第21話
「おつかれー」
カラオケが終わって、皆それぞれ店を出る。私と志乃は帰る方向が一緒なので、2人で並んで歩いていると、後から声が聞こえた。
「志乃ー、あさー」
2人で同時に後ろを向くと、澤が走って私たちのもとに近づいてきた。
あれから私は何かと気まづくてカラオケでも澤とはなしをしなかった。それはもちろん志乃も知っていたこと。
「ごめんね。邪魔して。俺も一緒に帰っていい?」
澤は私たちの間に入るなり、申し訳無さそうに言うと一緒に歩き出す。
私はどちらかと言うと気まづい。けど、このままでいる訳にはいかない。
「それにしても夜でもムンムンだな。あそこのコンビニでアイス買ってくるから、澤とあさ先に行ってて」
夏はやっぱり暑い。
時々、志乃はこうやってアイスを買ってくれる。多分今もそうやってやってくれたのだと思うが、これにはきっともうひとつ理由があるのかなと私は思った。
私が澤といるのは気まづいというのは知っている。けど、わかっていながらそう言った。それはつまり、話せってことなのだろうか?だろうかではなく、話すってことだ。だから二人きりにしてくれたのだと私は思って、志乃の背中が見えなくなったと同時に急に止まる。
「あさ?」
その異変に気づいた澤はチラリと私の顔を心配そうに見つめ、名前を呼ぶ。
それさえもいとおしかった。
私は今から、最低なことを言う。
私次第なんだ。きっと。
言わなきゃいけないんだ。
言わなかったら、後悔する。
言おう。
「……………澤」
私は下を向いて、小さい声で名前を呼ぶ。その反応に気付いたのか私にゆっくり近づく。
「ん?」
「私、……」
胸が苦しい。
ふと、サナちゃんの笑った顔が見えた。私はその瞬間、言おうとしていた言葉がつまってなかなか口を開くことができなかった。
心臓がドクドク鳴り、私は胸を摩った。
ゆっくりと深呼吸をして、顔を上げる。
言わなきゃ。
「……私っ…澤のことが好き。友達としてじゃなくて、好きな人として。たぶん、………澤が転入して、…すぐ、の時、かな。嘘かなて思ったけど、気付いたら澤のことずっと考えてた。」
私は言い終えたあと罪悪感と後悔という気持ちに襲われたが、言い切ってスッキリした気持ちもあった。
澤のこと見ると、切なそうな顔をして私の気持ちを受け止めた。
「……あ、ありがとう。…俺、少し気づいてた。でもサナが居たからなかなかあさに言うことができなくて、ごめんな。俺には、サナっていう彼女がいて、1番大切にしたいって思える子がいる。きっとこの気持ちは何か無い限り変わらないかなって思ってて。守りたいだいつまでも。……だからその気持ちには答えられない。…けど、………あさはいい人だから、ちゃんと人のことを見てるから、別な人と共にするのも悪くないかなと俺は思うよ。」
単刀直入に、振られた。
でもこれは分かっていたことだから。
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