第16話



志乃の突然の疑問に驚いて動揺を隠せない。

それはきっと、その事が事実だと思うから。

自分でもそれは分かっていたんだと思う。けど何かが邪魔をして自分の中で嘘を付いてたんだと思う。


「な、……なんで?……澤にはっ!サナちゃんが……っ居るじゃん」


なんで、言葉が上手く出てこないの?これじゃあ、まるで図星だと思うじゃない。


図星でも、認めたくなかった。

それじゃあ、誰かを傷付けるような気がしたから。


志乃は横になりながら頭だけを動かしてゆっくりと私の瞳を見る。

志乃は気付いてる。私が澤のこと好きだってこと。

そうじゃなきゃ、こんなこと聞いてこない。


「……恋人が居ようが、好きな人が居ようが、好きでも良くない?俺はずっとあさを見てるから言うけど。あさ、澤のこと凄く見てる。」


志乃の言葉が私の中の何かを消した。それはきっと、私の中にずっとあった邪魔なもの。それはサナちゃんということではない。


志乃がまた真っ直ぐ私のことを見つめた。その顔はどこか切なくて今にも消え入りそうだった。


「……俺は、あさが好きだよ。俺の好きな人は、あさ。でも片思いのままでいいんだ。」


「えっ……?」


私はその言動で一瞬、思考が停止した。だってこれは2度聞いた言葉だったから。

そして、思いもよらない事だったから。


「……ん〜、そろそろ試合始まるんじゃない?俺寝るわ。おやすみあさちゃん」


衝撃的で私が一点を見つめたままのとき、志乃は上手く話を逸らして私に背中を向けて挨拶をする。

きっとこれは、志乃の優しさだと思った。


私はイスから立ち上がって、無言でベッドから離れる。

そのときに、志乃の言葉がかすかに聞こえた。


「…………俺、…かっこわる……」



私は複雑な気持ちのまま保健室をゆっくり出ていった。
















それから志乃の言葉が離れなくて、試合に集中出来なかったが、なんとか私たちのクラスは優勝した。

志乃が居なかったぶん、澤や彩葉、友達がたくさん頑張ってくれたから。


球技大会が終わって、みんなで保健室へ向かう。


「志乃ーーー!!!!!」


ドアを開け澤が大きな声で名前を呼ぶと、"うるせー"とカーテンの奥からだるそうに聞こえた。



「優勝したーー!!!!!!!!」


志乃はゆっくりと身体を起こして、優勝の賞状を見て目をまん丸にして喜んだ。なんだか先程より体調が良くなっているように見えて嬉しくなった。

けどやっぱり、気まづいことは気まづい。


志乃と目が合った気がするけど、私から逸らしてしまった。


「彩葉、顔どうした」


「それがさ〜、バレーで顔面にボール直撃して打撲。でもすぐ回復したんだよね。」


志乃はそんな私をお構い無しに楽しく話している。

なんだか自分だけ浮かない顔をしていたから志乃に腹が立った。

でもこれが志乃にとっては、優しさなんだろうと思ったからこそ、何も言えなかった。

こんな優しさいらないのに。







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