Schedule2 バスの中での堤さん

「よし、それじゃあ早速バスに乗り込め、お前ら」

「おーー!!」


臨海学校本番。私たちはまず海沿いの旅館に向かってバスに乗り込む。クラス一組ずつにバスが用意されて、担任とクラスメイト40人。席は自由に適当に座るってことで、隣に誰が座るかも生徒に任せるみたい。さて、私は誰と・・・。

「堤さーん!こっちこっち!」

「委員長?」

私はバスの最前列に座る委員長に呼び止められる。

「もー、堤さんったら。何でそんな後ろに行こうとするの?」

「え?だって自由席だから別にどこでも・・・」

「ダメダメ。私たち委員会は前に座ってみんなの様子を見守ってなきゃ」

「・・・私たち?」

委員長は分かるけど・・・。別に私は何にも属してないよね?

「だって堤さん、臨海学校実行委員でしょ」

「えぇ!?」

委員長がさも当然の如く言って来た。

「いや知らないけど!?何で勝手に肩書き背負わされてるわけ!?」

「・・・あれ?クラスメイトに聞いたら、もう話は通ってるって・・・」

「ちょっとみんな!?」

「堤さんって夏休みみんなに会えなくて突っ込めなくて欲求不満に決まってるから、気を遣ったんだよ」

「決まってない!!全然、フラストレーション抱いてないから!」

めっちゃ偏見持たれてるしっ!

「お願い、堤さん!私ひとりだけじゃ、みんなを統括できないから・・・。協力して!」

ぱんっ、と手を合わせて委員長からお願いされる。

「む・・・」

私ってどっちかと言えば押しに弱いからなぁ・・・。

「はいはい・・・分かったよ・・・」


結局、この臨海学校中も私の仕事はいつもと変わらないみたいで。そんなことを思いつつ、バスはタイヤを転がせる。

「移動まで結構あるみたいだし、何か催しでもしよっか。バスと言えば?」

「痴漢モノ?」

「夜行バスだったらサイレント系も・・・」

「・・・委員長。やっぱ秒でおりたいんだけど、この役職」

「そう言わずにさ、お願い」

何が嫌って、ボケじゃなくてマジで答えてるんだよな、男ども・・・。

「ほら!ここはベタに、バスといえばカラオケでしょ!」

変わり者とはいえ、いろんな才能に溢れているみんな。歌が上手い人も多数いる中、やっぱり先陣を切る人が一人。

「よし!それじゃあまずは僕から行こうか!」

歌が上手な妄想家・濁酒宇多。

軽音部のボーカル。とびぬけた才能があるんだからもっとちゃんとすればいいのに・・・ってたびたび思う。趣味は数段階に渡る妄想。

「今は変な妄想しないでよ?」

「心配しないで!もう十分過ぎるほど妄想した!」

「何を!?」

「・・・気になる?」

「あ、やっぱいいです」

絶対ろくなことじゃないし。

「それじゃあテンションあがる奴をお願い!」

「よし、分かった!」

委員長に言われ、彼は曲を入力する。ま、上手なのは間違いないし、しっかり聞くとしようかな。


-------


「うん、やっぱり上手・・・だけどさっ!!」

上手かったけど!歌手かな、って思っちゃうくらい上手だったけど!

「何でこんな曲のチョイス!?」

「え?だってテンションあがるやつって言われたから、ポップでリズミカルなやつを、って思って」

「ポップでリズミカルだったけど!!内容がめっちゃ下ネタじゃん!!」

「でもテンションあがらない?“おっぱい”って連呼されたら」

「あがらないわっ!!」

と、いいつつほとんどのみんながノリノリだったけど。

「あーそっか。・・・そういうことか」

「・・・なに、そういうこと、って」

「堤さんはもう経験済みのオトナだから、直接的な表現よりも、ぼかしていつつ情欲に溢れているものが好きなんだ。・・・エロいね」

「いらんレッテルはるな!!」


みんなそれぞれ好きな曲を歌って、バスは大いに盛り上がった。にしても、みんな歌上手いなぁ・・・。私は何か歌わないの?ってリクエストあったけど、私の腕は大したことないのでパス。

「おい、堤」

「はい?あ、もしかして先生も歌いますか?」

「そうじゃない。盛り上がってるところ悪いが、ちょっと一人紹介させろ」

「・・・紹介?って、一体誰を・・・」

「おい、挨拶しな」

先生の導きのもと、一人の女の子が陰から出てきて・・・え?

「皆様、本日はよろしくお願いします。この度このクラスで共に過ごさせていただきます─」

・・・何で?

「切舞玲です。どうぞ、お見知りおきを」


「妹ぉぉぉぉおおおお!?」


切舞慶くんの義理の妹、重度のブラコンの玲ちゃんがそこにいた。

「ちょちょちょ、何してんの、玲ちゃん!今日、普通に学校でしょ!?」

「サボタージュした」

「そんな堂々と言われても・・・」

何だかバスガイド風の服を着て、しっかりお洒落してるし。

「あのね、いくら兄に会いたいからって、学校サボってまで来るなんて非常識にも程が・・・」

「うわーん、お兄ちゃん、会いたかったよーー!!」

はい、無視。玲ちゃんは一心不乱に兄に抱き着き、兄は兄で、クラスメイトの前だというのに一切動じていない。

「うぅ、会えて嬉しい・・・。3時間ぶりだね!」

「全然経ってないじゃんっ!!」

バスに突如現れたブラコン丸出しの美人妹。そんなある種同類な彼女をクラスメイトが見過ごすわけもなく。

「「「うわー、可愛いーー!!」」」

私は前から知っていたけれど、玲ちゃんの存在を初めて知る人も多い。みんながわらわらと玲ちゃんに注目する。

「お兄ちゃんのこと好きなの?」

「はい。子供は3人くらい欲しいです」

「質問の返しになってないし!!」

「おいおい、玲、適当なことを言うな」

「そうだよね、慶くん!ほら、お兄ちゃんからもびしっと言ってやって!!」

「3人だと費用がかかるだろ。1人にしろ」

「そこじゃねぇ!!」

何で子作りすること容認してんの!?

「ちょっと先生っ!いいんですか、これ!?」

「そんなこと言われてもな・・・。いつの間にか乗り込んでたし、バスもだいぶ来てしまったし、仕方ないだろ。ん、旨いなこれ、切舞妹」

「買収されとる!!」

先生は高そうなチョコレートを幸せそうにほおばっていた。計画的犯行だな、これ・・・。

「せっかくなので、私も歌います」

「お、いいね~!」

「『法律を変えて兄と結婚するまでの純粋な道ピュアロード』」

「どんな曲だよ!?ってか、ないでしょそんな曲!!」

「作詞作曲・私」

「自分で作った曲かい!!」


この異常事態を全然異常だと思っていないみんなも流石だよなぁ・・・。玲ちゃんのお兄ちゃんラブがバス中に響き渡りつつ、私たちは海へと到着したのだった。


to be continued...

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