第15話 vs アイドル×淑女

「ねぇ、堤ちゃん!」

「なに?」

「水着買いに行こう!!」

「イヤだ!」


to be con...


「ちょっと待ってよ!断るの早くない?」

「よく私に水着の話をふれるよね・・・」

学校から帰ろうとしたとき、みんなのアイドル、気遣い抜群の本岐詩南ちゃんの申し出を、私は速攻で断る。

「だって私たち女子高生だよ?可愛い水着の一つや二つ持っとかないと!」

彼女のことだから、悪気なんてなくてただツールとして持っておいた方がいい、ってことで誘ってくれたとは思うんだけど・・・。

「・・・あのね、分かるでしょ・・・」

私は顔を若干うつむせながらつぶやく。皆まで言いたくないんだからね・・・。

「心配しないで!ちゃんと最近の水着屋さんは堤ちゃんサイズもきちんと置いてるから!」


「そういうことじゃねぇぇぇぇえ!!」


私は身ぶり手ぶりで全力で否定する。

「違うから!私の胸のサイズ、マイノリティだから店にないだろうなぁ、じゃないからっ!!」

「え、違うの?」

「違うわ!」

そんな意外~みたいな顔見せるなよ!

「じゃあ問題ないじゃん!」

「大アリだから!!」

逆に問題それしかないし!

「でもさ、水着はいるよ?堤ちゃん、自分一人じゃ絶対に買いに行かないでしょ?」

「・・・それはそうだけど・・・。でも、今は通販っていう手もあるし・・・」

「だーめ!水着なんてのは実際に見てみないと分からないの!」

・・・そういうものなの?

「それに大丈夫!もう一人水着を買うのが苦手って子を誘ってあるから」

「もう一人・・・?」

「トイレに行くって言ってたから、そろそろ戻ってくると・・・。あ、来た。おーい!」

「・・・ま、まさか・・・」

あれは・・・!

「あ、つつちゃんもいっしょに行くのぉ?」


巨乳、福世加奈子。


「一番誘っちゃ駄目じゃん!!」

私はぎろって本岐ちゃんを睨む。

「水着買いに行くにあたって、一番私とセットにしちゃ駄目じゃん!!」

「何で?」

「察せよ!!」

・・・ていうかこのマッチング、本岐ちゃんわざとやってるんじゃないの・・・?

「いやね、両隣のスタイル抜群のアイドルと豊満なダイナマイトに挟まれる私の気分になって!?地獄にも程があるから!」

「地獄はね、一度くぐってしまえば、後々役に立つんだよ」

「ここで名言っぽいこともいらないから!」

それで行きましょうか、にはならないし!

「良いじゃん、行こうよ~」

「いーやーだ!」

「いーこーうーよー」

「絶対に行かな・・・」


「ぐほっ」


「よーし、じゃあ行こうか!」

「・・・い、行こうか、じゃ・・・」

行こうか、って笑顔で言ってんじゃねぇぇぇええ!!と、心の中で私は叫んだ。あまりにも急なことで、声が出なかった。私はお腹を押さえながら床にうずくまる。

「・・・ど、どこの女子高生が買い物に誘う為に・・・、は、腹パンチするわけ・・・?」

「だって買い物はみんなで行った方が楽しいし!」

「そ、それは正論かもしれないけど・・・」

もっと穏便にするでしょうよ、普通・・・。武力行使とくるとは・・・。

「分かったよ・・・。行けばいいんでしょ、まったく・・・」

「やったぁ!買い物、楽しみだね!」

るんるんと足取り軽く、本岐ちゃんは歩き出した。

「大丈夫?つつちゃん・・・」

「まぁ、何とか・・・」

私は加奈ちゃんに方を借りて、ゆっくり歩き出した。

「びっくりしたぁ。本岐ちゃんって、意外とアグレッシブなんだねぇ」

「まぁ、護身術は身に着けてるらしいから、結構強いみたいだけど・・・」

「へぇ・・・」

「ねぇ、加奈ちゃん。さっきの本岐ちゃん、どう思った?」

私としては、本岐ちゃんひどいよね、みたいなことを共感してほしかったんだけど・・・。

「う~ん・・・」

加奈ちゃんはちょっと考えて口を開く。

「ギャップ萌え?」

「くそぅ・・・」

結局無敵なのね、あの子・・・。


* * *


・・・来ちゃったよ、とうとう・・・。デパートにある人気の水着屋さんらしい。そこには、たくさんの可愛い水着が置いてあって、夏、ということもあり、結構お客さんはいる。

「う~ん、どれがいいっかなぁ♪」

本岐ちゃんは何回も来ている常連の雰囲気で、楽しそうに水着を選ぶ。私と加奈ちゃんは、慣れない場所に緊張していた。

「ちょっと二人とも!表情硬いって!」

「だって、こんなところ来るの初めてだし・・・」

「別に難しく考えないでいいの!気にいったのを選べばいいんだから!」

と言われてもなぁ・・・。私なんかが着て似合うのなんて・・・。

「もー、しょうがないなぁ!じゃあ私がコーディネートしてあげるから!ちょっとこっち来て!」


* * *


「ほら、可愛い!」

「・・・む」

本岐ちゃんは、私と加奈ちゃんにそれぞれ水着を選んでくれた。さっそく更衣室で着替えると、鏡には、水着を着ていつもとは違う雰囲気の私が映っていた。そういえば、ビキニを着るなんて初めてなような気がする・・・。確かに、自分で見ても少しは女の子っぽくて可愛かった。

「水着は胸がすべてじゃないよ?堤ちゃんはスタイルいいんだから、それだけで十分可愛く着こなせるんだって!」

・・・まぁ、悪くはない、けど・・・。

「つつちゃぁ~ん、本岐ちゃぁ~ん」

「あ、加奈ちゃ・・・ん・・・」

ドンっと言った効果音とともに登場したかと思うほどだった。思わず、私はその圧倒的な差に、絶句するしかなかった。

「ど、どうかなぁ・・・。似合ってるかなぁ・・・?」

「あ・・・あ・・・」

はち切れんばかりの圧迫感、ダイナマイトと呼ぶにふさわしい存在感。

「・・・ねぇ、本岐ちゃん。やっぱり水着ってさ、胸がすべてだろ・・・」

「・・・えーっとね・・・、いや、そんなこと・・・ない・・・よね?」

「自信無くなってるじゃん・・・」

みんなに等しくフォローする本岐ちゃんまでもが、言葉を失いかけていた。私たち、加奈ちゃんが巨乳ってことは既知の事実だけど、実際にその威力が発揮される水着を見たのは初めてだもんね・・・。

「ねぇ、泣いていい?」

「・・・今は海じゃないから、水で誤魔化せないよ」

さっきまでの、あれ?私もちょっとは可愛くなるんだ!って思った気持ちを返上したい・・・。井の中の蛙とはこのことだね・・・。

「あのさ・・・加奈ちゃん」

「ん~?」

「殺生だよ・・・」

「あ、あれ、つつちゃん!?」

「その胸はもはや凶器だって・・・。いつもは制服で隠れている胸が、水を得た魚のように主張しきってるし・・・。周りのお客さんもちらちら覗き見てるし・・・」

「えっ、うそっ、や、恥ずかしい・・・」

今更何を言っているのかとは思うけど、加奈ちゃんは胸を手で隠す。

「逆効果だし!余計いやらしくなってるしぃ!」

水着を着た時点で、もう何をしても女の魅力が発揮されるだけになってるし・・・。

「・・・よし、もう帰ろ・・・」

「ちょっと堤ちゃん!まだ来たばっかりじゃん!」

「やー、もう帰る!これ以上格差社会にいたくないしぃ!」

「もうちょっと頑張ろうって!」

更衣室で水着を脱いで帰ろうとする私を止めようと、私の腕を本岐ちゃんが掴む。体がもつれあってその行ったり来たりを何回か繰り返す。そして、事件は起きた。

「待ってってば!」

本岐ちゃんは咄嗟に私の服を掴んだ。・・・って、服?あれ、今私が来ているのって、水着だよね・・・。

「え、ちょっ・・・」

彼女の手は、私の水着の結び目の部分を掴んでいて・・・、って、え!?これ、このままじゃ・・・。


どてーん。


「いたたた・・・」

私たち二人は一緒に床に倒れこんだ。

「ちょ、つつちゃん!」

すると、私たちの攻防を見ていた加奈ちゃんが慌てた様子で私の名前を呼ぶ。

「へ・・・?」

辺りを見渡すと、はらりと私が付けていたトップが床に落ちていた。

「きゃっ!」

ばっと露わになった胸を隠す。きっと顔は真っ赤になっている。いろいろ言うべきことはあるかもしれないけれど、私は、店内の雰囲気を即座に察して叫んだ。


「『お前じゃねぇよ』みたいなオーラ出してんじゃねぇぇぇええええ!!」


to be continued...

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