第11話 vs 関西ガール×料理ベタ

「あづいぃ・・・」

「ホントにね・・・」


夏真っ盛り。日差しが暴力的な程に照る中、私たちは教室の机の上に伏せてへばっていた。教室のエアコンは夏は使用禁止だし、こんな暑い日は家にいたかったんだけど、都合悪く今日は学校で運動会の準備があって、来なきゃいけない日だった。今は準備が終わって、帰るのが億劫で教室に残っているところ。


「何やねんな、毎年毎年・・・。もうちょい涼しゅうならんもんなんか?御天道さん頑張りすぎやねん・・・」

「そんなこと言ったって仕方ないでしょ・・・」

「太陽の温度下げてこいや、堤・・・」

「私は神か・・・」

無茶なお願いを関西弁でしてくる彼女、合貝由利もいっしょにへばる。彼女も今日は準備があって学校に来たみたい。

「このままじゃ死んでまうわ・・・。何とかしてーな、堤・・・」

「死ぬって大げさだから・・・。でもま、確かにちょっと暑すぎかな・・・」

今年の夏は特に暑いよ・・・って、毎年言ってる気はするけど。

「何か冷たいモン持ってないんか?アイスとか・・・」

「都合よくないって。買いに行かないと・・・」

「動くのも面倒やな・・・」


「おっと、そういうことなら任せてもらおうか?」


「うん?」

私たちが日差しに負けて怠惰になっているとき、一人の女の子の声がする。

「里謡さん・・・」

「何や、里謡。えぇ手があるのか?」

「アタシがかき氷を作ってあげる!」

「「あー・・・」」

私と合貝は溜息交じりに互いの顔を見合わせる。

「・・・ウチたち、死ぬしかないみたいやな・・・」

「そうだね・・・」


料理の腕は壊滅的、家庭科同好会所属・里謡梨央。


「いや、ちょっとひどい二人とも。そこまで信用ない?アタシの料理」

「ないわ・・・」

「ないね・・・」

「まぁ知ってるけど」

じゃあ聞くなっての。

「でもさ、かき氷だよ?ただ氷を削るだけのこの世で一番簡単な料理じゃん?それくらいは失敗しないって」

「その発想が危ないんだよな・・・」

簡単って言ってる人ほど失敗するし。

「せや。里謡、アンタのその発言フラグ立ちまくりやで?」

「大丈夫だから!ほら、こんなところでぐーたらしてても何もならないし動こうよ!家庭科室にいっしょに行こ!」

「・・・まぁ」

確かにじっとしててもね・・・。

「分かったよ、ほら合貝、行くよ」

「ウチはえぇわ。どうせ家庭科室が最終的には爆発して終わりや」

「ひどいこと言うね、合貝っちは」

否定できない私がいた。

「でもいいの?本当に来なくて。合貝っちにいいものがあるんだけど」

「ええもの?」

「実は・・・」

里謡さんが合貝に耳打ちをする。


「ほら、何してん、堤。はよ行くで」


「えぇ・・・」

さっきまで微動だにしなかったのに、一瞬で豹変したんだけど・・・。何て言われたわけ・・・?


* * *


私たちは家庭科室に移動してきた。貸切って言い方をするほどでもないけど、一応私たち以外誰もいない。

「よし、じゃあ早速始めようか」

「氷は?ちゃんとあるの?」

「そりゃそうだよ、ほら」

「ベタすぎる!!」

「ん?」

ほら、と見せられたものに対して、私の口は反射的に動く。

「いや、ボケだよね?わざとだよね?」

「え、大真面目だけど」

「ボケであれよ!!」

きょとんとした顔を見せる彼女。里謡さんが用意していたのは、紛れもないドライアイスだった。・・・もはや料理下手っていうか軽くホラーだよ・・・。


「・・・なにこれ」

ドライアイスじゃかき氷は作れない、って教えたから、もう不安はなくなるかと言われるとそういうことはなくてね・・・。

「何って見たままじゃん。宇治のかき氷」

「氷、死にかけてるんだけど!!」

普通の氷でやることになっても、彼女の暴走は・・・、いや、平常か、彼女にとっては・・・、止まるところを知らない。

「だって宇治のシロップが無かったし」

「だからって熱々の抹茶をかき氷にかける奴があるか!」

どんな精神してるわけ!?氷を食べたいんだよ、こちとら!

「ほら、もうコントはええから。ウチが3人分作っといたからはよ喰おうや」

「好きでコントやってるわけじゃないから・・・」

いつの間にか合貝が済ませていた。私が里謡さんのストッパー役目を担ったってわけね・・・。


「どうや?美味いか?」

「うん、美味しい!」

結局、合貝に作ってもらっちゃったし。

「・・・アタシのかき氷は食べなかったのに」

「あれはかき氷じゃなくて、冷たい抹茶だから・・・」

拗ねられる筋合いゼロだからね、こちとら。

「そういや堤。何か体に異変あれへんか?」

「異変?別に普通・・・って、何その質問?」

「えっ?」

「それ、異変があるだろう、って前提の質問だよね?・・・合貝、あんた、このかき氷に何か盛ったでしょ・・・」

「な、なな何言うてんねん!んなわけあるかいな!」

「嘘下手か」

目、泳ぎまくってるし・・・。


「どうなってるんや?堤、全然変わってないやんけ・・・」

「さぁ、何でだろうね。ま、失敗作だったんでしょ、その惚れ薬」


「聞こえてるよー」

ひそひそ話って思ってるよりも伝わるからね?

「どういうこと?」

「実はね、料理に何かインパクトのある味つけられないかな、って思ってこの前柳田くんに相談してさ」

「何であのマッドな科学者に頼むわけ・・・?」

私、結構あの人にはひどい目に合わされてるよ?

「そしたら新作の惚れ薬が出来たから、ってくれてね。暇だったから使ってみたってわけ」

「暇とか気楽な感じで危ないものを使うなよ・・・」

柳田くんも里謡さんに簡単に渡すなっての。

「・・・でも分かった。なるほどね」

「な、なんや?」

私は合貝をじーっと見つめる。

「あんた、この薬を能武さんにも使えないか、って思ったんでしょ」

「ちゃ、ちゃうわ!!別にウチは能武さんのことなんか・・・」

「もういいから、それは」

分かりきってるし。合貝は同性愛者。同じクラスの能武さんのことが好きなんだよね。さしずめ、里謡さんに良い薬あるって耳打ちされた、ってことね。

「でもさ、本当に好きなら自分で自分の気持ちを伝えるべきでしょ?他の道具に頼らないでさ。無理やり心をこじ開けようとしたって上手くいかないよ?」

と、経験が無い癖に、少し上から諭してみる。

「・・・むぅ・・・」

合貝も少し反省したようで、下を向いた。

「・・・せやな。惚れ薬に頼るなんて、間違えとったな・・・」

「ま、いいや。ほら、早く食べよ。溶けちゃうし」


* * *


「ふー、美味しかったね」

かき氷を食べ終える。やっぱ冷たいものはいいね、やっと涼めたよ。

「・・・なぁ、堤ぃ」

「何?」

「お前って、そない魅力的やったっけ?」

「・・・は?」

「私も思った。堤さんって、そんなに色っぽかった?」

「・・・え」

二人は目をとろんとさせて、顔を若干赤らめて私の方を向く。え、なにこの展開。急だけど、えらい急だけど。

「な、なに二人とも・・・。暑さにやられたの・・・?」

「いや、何かかき氷食べたら急にな・・・」

「アタシも・・・」

「定番のギャグかましてんなよ!!」

これあれだろ!私に入れようとした薬を自分で飲んだんだろ!!


「なぁ、堤。抱かせてもらってええか?女やけど」

「ねぇ、堤っち。食べてもいい?料理好きだけに」


「よくないから!!」

アニメとかじゃギャグだけど洒落になってないから!!

「ええやんか、ええやんか」

「そだよ、減るものじゃないし」

「ちょ、わっ、こ、来ないで!!」

この夏の暑い日、私は全力で走って逃げる。


「何でこーなるかなぁ、まったく!!」


to be continued...

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