第14話 vs 直球男子×担任
「先生」
「・・・」
「三冬先生!」
「・・・ん?あぁ、堤か」
私たちのクラス、2年5組の担任、
「夏休みだってのに、学校に来るなんて物好きだな」
「まぁ、やることは意外とありますし」
今日は明るいうちに帰ろうと、教室の鍵を職員室に返しに来た。そうしたら先生がいたので、一応挨拶しておこうかな、って思ったんだけど、何だか上の空みたいだな・・・。
「どうしたんです?ぼーっとしちゃって・・・」
「ん、そう見えたか・・・。いやな、ちょっと考え事だ。お前ら生徒のことについてな」
「私たちの・・・?」
私のクラスは色は強いけど、非行って意味じゃ問題ないと思うけど・・・。
「何かあったんですか?」
同じ仲間がもし何かしていたら、と思うと、少し気になる。
「織戸がいるだろ?」
「えぇ、あのデリカシーのかけらもない」
「ふ、ひどい言いぐさだな」
直球系男子、織戸琴雄。とにかく女の子が大好きなんだよね、彼。アプローチが度を過ぎていて、周りに引かれてる、って分かってると思うんだけど・・・。
「そんなあいつにこの前会ってな。その時頼まれたんだよ」
「頼まれたって?」
「『先生、女性の体を俺に教えてください!!』ってな」
「・・・はぁ」
あのバカ・・・。私は頭を抱える。
「とうとう先生にもその毒牙が来ましたか・・・」
教師と担任って一番一線超えちゃいけないとこじゃん・・・。そりゃ、先生も呆れかえるよ・・・。
「大丈夫でした?あいつ、口で言うだけで無理やり迫ることはしないと思いますけど」
「あぁ、私も冗談言うなよ、って軽く受け流したからな」
「ですよね。ホント、すいませんね、先生・・・」
「ん、何でお前が謝るんだ?」
「いえ、何となく」
よくよく考えてみれば、担任ってたった一人で私たち40人と相手するんだよなぁ・・・。これって生徒が考えているよりも大変だよ・・・。ウチのクラスなんて特にだし。
「災難でしたね、先生。まぁ、あいつには私からガツンと言っておきますんで」
「うん?私は別に、あいつの言動を怒っていたんじゃないぞ」
「へっ?そうなんですか?織戸くんのセクハラ発言に閉口してたんじゃ・・・」
「いや、まぁ、織戸のことっていうのはそうなんだが・・・」
・・・?じゃあ何の・・・。
「なぁ、堤。やっぱり私を抱かせてやった方が良かったか?」
「はい!?」
「あいつは私のことを教師ではなく女として、真剣にアプローチしたってことだもんな。だとしたら、その想いには真摯に応えてやるべきだったんじゃないかと思って」
「いやいやいや、はい!?悩んでたのってそこですか!?」
まさかの先生の方が加害者パターン!?
「いや無視でいいですよ!ガン無視してくださいよ、そんな戯言!!気にする方が間違ってますから!!」
「でも、私が断ったとき、あいつ、物凄く悲しそうな顔をしていてな・・・」
「いいんですよ、させておけば!どう考えても自業自得ですから!」
「それにな、私って担任だろ?夏休みは一時の感情に流されて間違いがよく起こる。それを防ぐためにも、私が直接教育を、な」
「生徒に対する情熱の向け方がおかしい!!」
てっきり織戸くんの問題発言に辟易してるから上の空だったのかな、って思ったのに・・・。まさかの、ひどいことしたなぁ、っていう罪悪感かよ。・・・なんやかんや、先生って私たちのクラスの担任って適任だよね、多分。
「とにかくほっとけばいいんですよ、そんな無茶な申し出なんて。一回許したらすぐ調子に乗るんですから、彼。それに先生にだって大事な人が・・・いるんでしたっけ?」
「・・・堤。その発言はなかなかに失礼だぞ」
「あ、す、すいません・・・」
そういえば先生に男の人の影って一切しないな・・・。
「彼氏、ね。・・・いたことはあったが、それも昔の話か」
先生は物悲しそうに言う。あー、私まずいこと言っちゃったかな・・・。
「先生って今・・・」
「28だ。アラサーってやつだよ。そろそろ身持ちを固くした方が良い気もするが・・・」
28なんだ。口調とかクールな感じとか、もっと大人かと思ってた。
「まぁ、織戸には悪いことをしたな。生徒にとって、教師ってのは一番近くにいるオトナの女性だったりするからな」
・・・だとしても、普通カラダを教えてなんて言わないし、それに真剣に応えないと思うけどね・・・。
「それにあいつの気持ちは分からんでもない。私も初恋は高校の担任だったからな・・・」
「えっ、そうなんですか?」
結構珍しい、先生が自分の恋愛を語るなんて。私は普通に興味があった。
「一目惚れだな。最初からその人は結婚してたから、叶わない恋だったんだが。それでも少しでも気に入ってほしくて、無茶もやった」
先生が話す顔は楽しそうだった。そっか、先生もいろいろあったんだ、何かかわいいな。
「先生のシャツにキスマークをつけて離婚を促したりな・・・」
「全然可愛くない!!」
めっちゃ必死で強奪しようとしてるし!!
「奥さんとドロドロな恋愛になってもいいと思っていたんだが・・・」
「昼ドラかよ!!」
女子高生の発想じゃないし、絶対・・・。
「若気の至りってやつだよ。堤、お前も本気で好きな奴ができたら、これぐらいやった方がいいぞ?」
「いや、危ない橋に促さないでくださいよ・・・」
私は横恋慕なんてしないし・・・多分。
「若いうちはいろんな無茶やってもいい思い出になる。後先なんて考えなくていいんだよ」
「それどうなんです?担任として・・・。じゃあ先生も、その時の恋はいい思い出なんですか?」
「ああ、そりゃあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろん」
「間ぁ長っ!!」
絶対何か奥さんからの報復あったでしょ!!という私の質問には、かたくなに答えなかった先生だった。
to be continued...
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