第12話 vs 新聞記者×ハーフ

「んん~~」

日差しが差し込む教室、少し暑すぎる気はあるけど、からっとした天気は気持ちがいい。私はぐーっと腕を伸ばしながら、今日は何事もなく平和であるようにと・・・。


「このちゃあ~ん!!」


がらがらがっしゃーん。はい、フラグ回収です、と。だだだと走って来た彼女は、私に会うや否や、机や椅子が倒れるのもいとわずおもむろに抱き着いた。

「・・・ど、どうしたのさ、今度は・・・」

事あれば涙を流すハーフ、ラメントル和花。泣きながら顔を摺り寄せてくるから、涙と鼻水で私の顔びちょびちょなんだけど。

「さっぎコンビニでぇ~・・・」

「あー、もう聞くから・・・。一回離れて涙を拭いて」


今はお昼時。私の高校の近くにはコンビニがある。高校が平常のときは昼休みの買い物は禁止されてるけど、今は夏休みだからね。運動会や部活の練習の合間、そこを利用する生徒は多い。で、彼女はそこで何かあったと。

「うぅ~・・・」

「どうしたのさ・・・」


「もっと日本はしっかりしなきゃ駄目だよ!!」


「スケールでけぇよ!!」

え、とうとう日本に対して泣き崩れちゃうの!?

「さっきコンビニ行ったの!そしたら青年向けの雑誌が床に落ちたから私拾ってあげたんだよ?そしたら店員が急いでやってきて、機嫌を治してくれ、って謝ってきたの!」

「・・・?どういう・・・」

「私のことを、卑猥な本を平然と置いてるコンビニに激怒して、床に雑誌を叩きつけた外国人だと思ったって言うんだよ!!」

「・・・なかなかの勘違いだね・・・」

「私日本人だから!私だってエロ本くらい見慣れてるから!!」

「和花ちゃん、その言い方は語弊があるから」

コンビニに青年向け雑誌があることは、私たち日本人にとっては自然なことなんだけど、外国人にしてみれば結構異常なことらしいんだよね。

「つまり、日本政府がコンビニにそういう雑誌を置くことを禁止すれば、私のハーフ度が際立つこともなかったってことでしょ!?」

「・・・」

それだけで泣いたの?ってツッコみたい・・・。日本に絶望する、って絶対もっと適した他の理由あるし。・・・何か、日本に絶望するってノリ、あの人みたいだな。

「もう日本はお終いだ・・・!」

そうそう、こんな感じで・・・って、え?

「もう終わりだよ、堤・・・!日本なんて・・・!」

「げ・・・」

えー、噂をすれば何だけど。面倒くさいのが来ちゃったよ、これ・・・。

絶望が日課の新聞記者・伊都式希。


「聞いてくれるか、堤・・・」

「いや、今は・・・」

「最近な・・・」

はい、会話する気ゼロ。

「・・・俺がいつも御贔屓にしているコンビニでとてつもなく重大な事件が起きた・・・!」

「とてつもなく・・・?」

「青年向け雑誌の設置を取りやめたんだ・・・!もうおしまいだろ、日本は!」

「・・・」

絶望がしょうもないんだよ、相変わらず・・・。

「何言ってるの、希くん!エロ本なんて抹消した方が良いに決まってるでしょ!」

「世迷言を・・・。性欲とは食欲に並ぶ人間に不可欠のものだ・・・。コンビニで食欲を満たせるのならば、性欲も満たせるべきだろう!」

言い合ってるし。尋常じゃなくくだらないことを言い合ってるし。・・・面倒だから、静観しておこう・・・。


「大体私は希くんに恨みあるんだから!」

「ん?俺が何かしたか?」

結局議論に決着はつなかったみたいで、話題が変わった。

「あなたが学校の新聞にでかでかと私のことを『美人ハーフ棋士』なんて取り上げるから、私のハーフ度が広まっちゃったんだからね!」

あ、そうか、伊都式くんの新聞が発端か。

「仕方がないだろう、事実なんだから。まったく、ハーフのくせに、そんな些末なことを気にするな」

「ばっ・・・」

「ハーフの、くせに・・・?」

あーあ、知らないよ、私。

「ハーフだから何だってんだよ!?ハーフが誰しもおおらかだと思うなよ!」

ほーら、スイッチ入っちゃった。ハーフなのに、とか、ハーフのくせに、とかは和花ちゃんには一番の禁句でしょうに・・・。

「まったく・・・。ラメントル、お前は周囲から見れば羨望の対象だ。もっと堂々とすればどうだ」

「ラメントルって呼ぶな!」

「嫌だな、響きが好みだから」

はぁ、伊都式くんも一歩もひかないし。あれわざと煽ってるな・・・。和花ちゃんは、クラスメイト全員のことを下の名前で呼ぶ。その代わり、自分のことも、ハーフの要素がない下の名前で呼んでほしいってことで。

「それに、基本的に全員を名前で呼ぶなんて非日本人的だと思うが・・・?」

「う・・・」

まぁ、それは思うけど。

「・・・うぅ・・・。このちゃあ~ん、希くんがいじめるぅ~・・・!」

また泣いてからに・・・。この二人、何か似てるけど合わないよね。

「こうなったら実力行使で・・・」

「こらこら、それこそ日本人的じゃないって」

暴力なんて駄目だから。

「そもそも俺には咎められることはないからな・・・」

「まぁ、確か・・・」

・・・あれ?無かったっけ、何かしらの非が彼に。・・・あ。

「・・・思い出した」

私はじーっと伊都式くんを見る。

「そう言えば伊都式くん、私を新聞に載せたことがあったよねぇ・・・」

「ああ、あの水着のモデルか」

「そうそれ。あれ、何で私をモデルにしたの?」

「そりゃあ、堤が綺麗で・・・」

「胸だろ」

「・・・」

「裏は取れてるんだよ。私の胸が良い感じに無いから、学校のモデルとしては丁度いいってことなんだよねぇ?」

「・・・あー・・・。・・・そうだ。絶妙だから、堤の無さは」

「ふぅ~~~ん・・・・・・・」

それがあなたの答え、ね・・・。


「・・・よし、和花ちゃん。二人でやっちゃおうか」

「うん!」

私たちはポキポキと指をならす。まぁ実際はならないんだけど、とにかく臨戦態勢に入って、彼に近づく。

「伊都式くん、覚悟・・・」

「ペンは剣よりも強し」

「・・・!」

「もう高校生なんだ。この言葉の意味が分からない堤たちではないだろう・・・?」

「く・・・」

伊都式くんは新聞部。つまり、もし私たちが彼に何かしたらそれを学校全体に言いふらすってこと・・・?

「ふふふふ・・・」

分かりやすく悪態ぶってるな・・・。でも確かに、これじゃあ私たちから手は出せない・・・。

「現代で最も影響力を持っているのはマスコミだ。いつの時代も、情報を制するものこそが世の中を制すものな・・・」


「ばかぁ!!」

「いたぁ!!」


「え」

あれ。はたかれたけど、伊都式くん。思い切りビンタしちゃったけど、和花ちゃん。

「え、聞いてた、和花ちゃん!?今の話聞いてた!?」

今の流れだと、私たちが動けなくて固まるっていうのがデフォルトだよね?

「聞いてたよ!だからだよ!」

「だからなの!?」

結構な勢いでほっぺたにビンタしてたな・・・。あれ痛いやつだよ、ぱちーんって物凄い良い音したし。

「だって希くんは、私たちのことを陥れるようなひどい人じゃないし!友達思いの優しい人だって知ってるもん!!」

「・・・む」

例え思っていても、言うことを自重してしまうことが多い日本人。そんな観点から見ると、自分の気持ちをしっかりと伝えることのできる彼女は、本人は嫌かもしれないけど、やっぱりハーフっぽいな、と思ってしまう私と伊都式くんだった。


to be continued...

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