第13話 vs オタク×告白

「堤くん一人かい?」

「ん?ああ、中尾くん」


自他共に認めるオタク、中尾拓也。


「なら丁度いいか」

「・・・?」


今日は早めに教室から誰もいなくなり、最後の私も帰ろうかと思っていたとき、教室の外から話しかけられた。何だろ、丁度いいって。大事な話でもあるのかな。

「・・・じ、実はね」

「どうしたの?」

珍しい。いつも言いたいことははっきりと言うのに、何か言葉に詰まってる感じ。

「僕としたことが。いざ伝えるとなると緊張するな」

彼は顔を赤らめながら・・・、え、赤らめながら・・・?

「ふぅ・・・」

あれ、これって・・・。夏休み、誰もいない教室で二人きり、顔を赤らめながら一世一代のことを言おうとしている雰囲気って。まさか・・・。


「付き合ってくれ!」


言ったぁ!?ホントに言ったぁ!?え、これっていわゆる告白ぅ!?

「あ、え、いや・・・」

いや嘘でしょ!?夏は確かにテンションが上がってカップルが増えるとは言うけどさ!え、中尾くん、私のことそんな風に思ってたの・・・?全然気づかなかったんだけど・・・。

「・・・みくん」

中尾くんのことは嫌いじゃないけど、それでもやっぱり友達っていうか・・・。

「・・・つみくん」

でもここで私がすぐに断ったら中尾くんを傷つけてこれから今まで通りに接することだできなくなって・・・。

「堤くん!」

「ふぁいっ!?」

いやベタか、私・・・。テンパって声裏返っちゃうって・・・。

「どうだ?考えてくれるか?」

「えーと、その・・・」

あーもう、こういうときどうすれば・・・。ていうか、何で中尾くんはこんなに平然としてるわけ?普通、告白ってされる方よりもする方がどぎまぎするもんなんじゃ・・・。私に話があるって言ったときも、一切動揺してなかったし。これじゃあ、あたふたしてる私が馬鹿みたいじゃん・・・。

「好き合ってくれることについて」

「・・・へ?」

あれ、聞き間違い・・・?

「ねぇ、今のもう一回言ってくれる・・・?」


「だから、僕と好き合ってほしいんだ!」


「・・・好き合う・・・?付き合う、じゃなくて?」

「ああ、サ行だ。僕と好き合ってほしい!」

「・・・あー、そっか・・・」

付き合う、じゃなくて、好き合う、ね。あーなるほど・・・。


「まぎらわしいわぁぁぁぁああ!!」


「な、何だ、急に・・・」

「びっくりさせんなよ!!不覚にもドキっとしちゃったじゃん!」

「おお、そうかい、ドキっとしたか!いやー、告白する主人公のシーンを最近見て、どんな気持ちが知りたくなってね」

「・・・ごめん、一発でいいから殴らせてくれない?」

「御免被る!」

あの緊張した面持ち全部演技かい・・・。完全に躍らされたわ・・・。

「・・・で、何て?好き合う、って何なワケ?」

「よし、きちんと説明しよう。いいかい?」

・・・出たよ、中尾くんの『いいかい?』が。これが出たら今から語りますよモードだもんね・・・。

「例えば君が、声優、女優、ああ、あとセクシー女優になりたいとしよう」

「どれにもなるつもりはないし、思い出したようにR18を付随しなくていいから」

「これらの仕事の共通点、それは、『好きでない人を好かなければならない』ということだ」

「あぁ・・・。まぁ、なるほどね」

確かに、役とはいえね。

「虚構であっても、相手を心から惚れなければならない。その矛盾、自分すら偽れる人間が役者という職業なのだよ」

「・・・何か、すごい大変そうだね、それを聞くと・・・」

若干大げさな気もするけど、間違ってはなさそう。

「そしてだ!ここからが本題だが、声優と女優の違い、それは何だと思う?」

「違い?2次・・・」

「違う!!」

「ほとんどまだ何も言ってないよ・・・」

答え聞く気ないでしょ、これ。

「それはズバリ、男性を女性が演じるということだ!」

「・・・男子を?」

「そう!キャラは男にも関わらず、声優は女。これは男の娘であるという意味ではない。そこは分かっているね?」

「あー、うん」

あんま分かってないけど、面倒だからこのままにしておこう。

「きちんとした男子を女性が演じる。これが声優の特殊性であり特異性だ。つまり声優とは・・・」

「あのね、『好き合う』って何って聞いてるんだけど」

声優とは、じゃないから。

「まったく、せっかちだね。まぁいい。つまりだ。堤くん、君には男になってほしいんだよ」

「文脈!!」

『好き合う』の意味聞いたら性転換要求されたけど!?

「男性役として、僕に告白してほしいんだ。僕が女性役をするから。台本も用意してる」

「・・・」

当たり前のようにカオスすぎる状況を求められたんだけど。そりゃ黙るわ。

「これさ、断る権利・・・」

「無い」

「無いの!?」


「・・・んんっ」

私のクラスのみんなに共通することはね、とにかく折れないんだよね・・・。今だって、信じられないほどお願いされたからしぶしぶOKしちゃうしね、私・・・。私は咳こんで喉の調子を整え、台本片手に台詞を読む。

「・・・お、オレ、じ、じつ、実は・・・」

「カット!!たどたどしいよ、堤くん!」

「当たり前でしょ!!」

オレ、なんて言ったことないし!たどたどしくならない方が問題でしょ!

「心からなりきるんだよ、その役に!男になりきるんだ!」

わー、熱意溢れる目だこと。これさっさと終わらせないと永遠に続くね・・・。はぁ、腹くくるか・・・。


「クミ。話がある」

「・・・?なに、堤くん」

「いつか言おう言おうと思ってたんだがな、結局卒業式の日になっちまった。へっ、オレも臆病だったってことだな」

「どうしたの?」

「・・・好きだ、クミ。ずっとずっと前から」

「・・・えっ・・・」

「聞こえなかったか?何度でも言うさ、オレはお前が好きなんだ、クミ」

「・・・実は、私も・・・」

「・・・クミ・・・」

「・・・堤くん・・・」

そして、二人の顔は徐々に近づいていき・・・。


「じゃねぇぇぇぇええ!!!んだよ、これ!!」


* * *


「・・・恥ずかしすぎる・・・。もう嫁にいけないよ、これ・・・」

「いやー、流石だなぁ、堤くん!!」

にこにこしてるし・・・。人の気も知らないで・・・。

「あー、もう・・・。こんな暑い日にさ、もっと汗かいちゃったし」

今回はなかなかにぶっとんだ要望だったな・・・。

「大体、中尾くんも女の子演じるって恥ずかしいんじゃないの?」

「何を言う。可愛い女の子をアニメで見ると、たまに自分自身が女の子になってみたくなってな。堤くんにも協力してもらった」

「え」

超分かりやすくドン引きした私だった。


「まぁ、オタクならば誰もが通る道だな」

「絶対違うでしょ、それ!!」


to be continued...

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