第二部・夏休み編
第1話 vs リーダー×美少女
ピンポーン!
「・・・ん?」
今日から夏休み、というわけで、早起きする必要もなく、学校に行く必要もない、生徒たちみんな待ち焦がれた日々が始まった。部活生は夏休みも練習があるのだろうけど、部活に入っていない私は関係ない。両親が共働きで、家に一人で佇んでいたところに、呼び鈴の音が響く。
「・・・誰だろ?」
早朝ではないとはいえ、まだ午前10時。割と早い時間に訪問者。今日は郵送が来る予定も無かったはずだけど・・・。
「あ!」
私はインターホンのモニター越しから、知り合いの顔を確認し、玄関を開けた。
「堤さん!おはよう!」
「委員長!」
「・・・と、もう一人は・・・?」
「ほら、恥ずかしがらずに帽子あげなって!」
夏にぴったりな大きな麦わら帽子を、顔が半分隠れるくらいに深くかぶっている。
「・・・お、おはよう・・・、堤さん・・・」
「あ、しずちゃん!」
委員長・道引
「何でウチに?」
「音無さんに相談されてさ。内気な性格を治したい、って」
以前、私も受けたことのある相談。
「それで、堤さんにも手伝ってほしくて」
変わろうと努力している人に頼まれると、私から手伝いたくなる。
「・・・ご、ごめんね・・・。急に、来たりして・・・」
「いいよ、どうせ暇だったし」
「・・・ま、また、頼ってもいいかな・・・?」
「うん!」
私は二つ返事をする。
「流石堤さん!よし!じゃあ早速行こう!」
「・・・?行くってどこに?」
「ビデオ屋の暖簾の向こう側!」
「はぁ!?」
つまりはR18コーナー!?流れ完全に無視してるけど!?
「いやいや!その申し出、私断ったでしょ!?何でまたぶり返すの!」
「何か、どうしても気になっちゃって・・・。でも一人で行くのは恥ずかしいし、堤さんに無理やりっていうのも気が引けてたんだけど・・・。でも!今は堤さんから言ってくれたからいいよね!」
「・・・い、言ってくれたって・・・」
まさか、今回のしずちゃんの内気改善プランって・・・。そういうことね・・・。
「・・・委員長。なにしずちゃんまで使ってるわけ・・・?」
「違うよ、誤解だって!あくまでこういった解決策もあるかな、って思って音無さんに言ったら、そうする、って言われちゃったから・・・」
何でそんなこと言うかな・・・。あと、何でしずちゃんも受け入れるかな・・・。
「・・・わたし、このままじゃ駄目だから・・・。恥ずかしい思いを克服するには、それ以上に恥ずかしいことを体験しなきゃいけないと思って・・・」
「いや、そうかもだけど!それでももっとあるでしょ!?」
「・・・でも、今はこれしか思いつかなくて・・・。お願い、堤さん・・・」
「・・・む」
いつも目を隠している美少女からの上目使い、これはなかなか効くものがある。
「大丈夫!堤さん用のハンチングと伊達眼鏡も持って来たから!」
「・・・準備万端なわけね・・・」
思うけど、クラスのみんな断り辛くする術上手いんだよな・・・。
「・・・分かったよ、ちょっと準備してくるから待ってて・・・」
二人を玄関で待たせ、私は家へと戻る。私も一応普通の女子高生だからね、夏休みは何しよっかな、とか胸を躍らせていなかったわけじゃないんだよ?しかも世間から見れば、華の女子高生だなんだ言われて、いろいろ物事が進展しそうな夏休みだっていうのに・・・。
「・・・夏休みの初イベントがアダルトコーナー侵入って・・・」
どんな女子高生だよ・・・。
* * *
「・・・ねぇ、一応聞くけど、二人ともこの奥に入ったことあるの?」
「・・・無いね・・・」
「わたしも、ない・・・」
「だよね・・・」
ヤバい、めっちゃくちゃ緊張してきた。ヤバいよ、これ・・・。
知人に見られたらまずい。そういう理由から、少し離れたところにあるビデオ屋に行くことになった私たち。大体、知人に見られたくない、っていう常識があるんなら、AVコーナーに入ろうとすること自体止めて欲しいんだけどな・・・。万が一のために、申し訳程度の変装もしているけど、それでもドキドキするものは仕方がない。18歳に満たない女子高生3人は、暖簾の前で二の足を踏んでいた。
「・・・あのさ、今からでも間に合うから引き返さない?」
「何言ってるの!ここまで来たのに!」
「・・・わたしも、どうせなら・・・!」
冷静に考えろよ・・・。私たち、かなりとんでもないことしようとしてるんだよ・・・?って言ったところで無駄だろうな・・・。
「それに、今はお客さんが少ないから、絶好のチャンスだよ!」
「分かったよ・・・」
いざ、進軍・・・!
「・・・う・・・!」
入った瞬間、数多に広がる女性たちの裸体、おっぱい、おしり。でかでかと貼られたポスター。どこに目をやってもモザイクだらけのピンク色の空間・・・。
「・・・お、お・・・」
「男ってやっぱバカだろ!!」
お前らの性欲満たす空間のせいでこんな目にあってんだよ、こっちは!
「あーもういいでしょ!?早く出よ・・・」
「はひ・・・!」
「って、しずちゃん!?」
分かりやすくテンパってる!
「・・・お、おおお、女の人、裸で、いっぱい・・・」
「ちょっ、しずちゃん煙が出そうなくらい顔真っ赤なんだけど!」
「だ、男性の、あ、アレが・・・、こ、こんなになって・・・」
「委員長!しずちゃんフリーズしちゃったから!ちょっと肩貸して・・・」
「あわわわ・・・」
「って!委員長もかい!」
「つ、堤さん・・・。こ、これが、いわゆる生命の博物館・・・?」
「違うわ!性欲のるつぼをそんな高尚な感じにしないで!」
二人とも冷静さを欠いてるし・・・って、これじゃあいつも通りの私だけが耐性あるみたいなんだけど!!私だって恥ずかしいから!
「委員長もしずちゃんもあたふたしてるじゃん!ほら、とにかく帰るよ!」
「・・・ま、待って・・・!この程度で、へこたれるわけには・・・!」
「・・・わ、わたしも、負けない・・・!」
「いや、さっさと負けろよ!!」
一番無駄なプライド!!
結局もう少し滞在することになった私たちは、各々気になる場所へと向かう。平日の昼間から何してるんだか・・・。
「・・・ね、ねぇ・・・」
私が呆れていると、しずちゃんがDVD片手に声をかけてきた。
「こ、これ・・・。『内気なあの子が実は大胆だった件について』って・・・。や、やっぱりこれって、社交的になる為にはこういうことが・・・。わ、わたし・・・ここまでしないと・・・?」
「いや違うから!大丈夫だから!内気からの解脱イコール脱衣じゃないから!!」
AVを教科書代わりにするなよ!
「堤さん!」
今度は委員長か・・・。
「『真面目な委員長がちょっと誘惑しただけで男子生徒はもう・・・』って・・・!これって、やっぱりみんな、ちょっとは私をこういう目で見たことあるってことなのかな・・・」
「・・・あー、まぁ・・・」
委員長美人だし・・・加えてあの変態たちのクラスだからね・・・。
「でもこれはあくまでフィクションだから。全然気にしないでいいって」
「・・・でも、ちょっとは期待に応えられるように練習していた方が・・・」
「ここに来てその責任感いらないから!」
「だって!もしかしたら亀甲縛りのやり方教えて、なんて頼まれるかもしれないし・・・」
「そんなことある・・・かもしれないけどさ!」
否定できない自分がいるよ・・・。
「そういえば、堤さんみたいな境遇の作品はなかったの?」
「ないでしょ、普通」
「『ツッコみ少女がツッコまれた』みたいな」
「あってたまるか、んなもん!!」
全然上手くないし!!
「あ、堤さんがいるよ!」
「本当だ・・・」
「え?」
突然、二人が何かに気付いたように、ピックアップされている女優のコーナーを見つめる。そこには、『一流ドS女優、ホノミ!』と書かれていた。
「あれー、私、いつの間にこんな仕事したんだっけー、全然覚えてないなー・・・、じゃないからっ!!ノリツッコミさせんなよ!」
「え、これ堤さんじゃないの?」
「当たり前でしょうが!」
「・・・そ、そっくりなのに・・・、別人なんだ・・・」
「似てないから!・・・多分」
・・・それにしても、この人がホノミ、ね。思えば、あのラガーマンが、私のことをこのセクシー女優に似ているとか何とか言って以来、こんなハチャメチャな日常が始まったんだっけ。ホノミさん、あなたの方が年上だし、こんなことを言うのはお門違いだけどさ、あなたのせいで結構私大変な目にあってるんだから・・・。
「・・・はぁ」
ま、何故だか知らないけど、ホノミさんが誰かやっと分かったってことが、生き別れた親族に会ったような、そんな若干の感動がよぎっている私も私だけどね。
─こうして、普通の女子高生、堤の、波乱の夏休みが始まったのだった。
なんて、思っている人がいるのかな?
to be continued...
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