第38話 vs 故意系ヒール

「アンタさぁ、最近調子のってるよね?」

「え?」


出席番号22番、あん千夏。


「ホント、目に付くっていうかさ」

「そう?そんなつもりないけど・・・」


人間舐められちゃおしまい、っていう理念か親の教育かは分からないけど、そういった信念を持っていて、どんな人に対しても上からものを言ったり悪態をついたりする。内容も理不尽なものも多くて、普通はいっしょに過ごしていたら嫌だな、って思うタイプ。うん、普通はね。


「いい加減にしてくれない?見てて鬱陶しい。アンタって、自分が中心に世界が回っているとか思ってるでしょ?そういうの自惚れだから」

「いやそんなことは・・・」

私いっつも、思いっきり振り回されてるだけだと思うけど・・・。

「周りのみんながアンタに相談するから勘違いしてるのかもしれないけど、別に誰でもいいんだからね、話を聞いてもらうのなんて。ただ、アンタが一番楽で都合がよくて使いやすいってだけだから」

「・・・」

私は黙ってちょっと落ち込む、雰囲気を見せた。

「・・・ま、まぁ?理由はともあれ相談されやすい体質っていうのは人していいところだから、そこは認めてあげなくもないけど?」

「・・・だからもう少しは粘ればいいのに・・・」

私はぼそっと小さな声で言う。この子、人に悪口言った後、相手がちょっとでもしゅんとして落ち込んだ素振りを見せたら、すぐにかばうためにフォローを入れてくる。簡単に言うと、キャラがぶれっぶれなのだ。当の本人は自分はクラスの中で悪役のポジションにいたいらしいんだけど、根が良い子だから、クラスの誰も彼女のことを嫌に思う人はいない。


「ねぇ、いい加減その悪態つくキャラ止めたら?」

「はぁ!?別にキャラじゃないし!素だし!」

「いやいや、千夏ちゃんって本当はいい子じゃない」

「違うし!ってか、馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ!別に対して仲良くもないのに!!」

「え~、いいじゃん、千夏。可愛くて」

「イヤなの!!」

「・・・どうしても?」

「・・・そ、そんなに呼びたいなら呼んでもいいけど・・・」

押しに弱いなぁ・・・。まだ大して押してないのに。

「ただ!あたしはアンタのことなんて大っ嫌いなんだから!」

「・・・ホントに?」

「・・・その、大ってのは言い過ぎたけど・・・、とにかく、全然なんとも思ってないし!」

・・・この子人気あるんだよね。これがツンデレって奴なのかな・・・。


「こうも馬鹿にされるなんてね・・・」

「ん?」

彼女はぐいっと私に距離を詰めてきた。

「ふんっ、見なよ。いい子の女の子が胸ぐらなんて掴まないでしょ?分かった?あたしがいい子なわけ・・・」

「いや、ちょんだけど!?」

親指と人差し指で、私の制服をほんのちょっとだけ摘んでいるだけだから!

「・・・だって、がっつり掴んだらシワとかできるかもだし・・・」

「やっぱいい子じゃん!!」

「勘違いしないで!これはアンタの汚い制服に触りたくないだけだし!」

汚いって・・・。洗濯は頻繁にしてるっての。

「ふん、余裕があるのも今のうちだし。あたし口よりも先に行動に移すから、アンタの荷物、どうなってるか分からないよ?」

「え?」

荷物って、いつの間にか何かされたの?私は言われるがまま、かばんを確認する。

「筆箱の中がどうなっているかなんて知らないから」

・・・ヒントを出すのが早いなぁ・・・。でも、筆箱の中に虫のおもちゃとか入れてたら結構軽蔑するかもね・・・。私は少しだけ恐れながら筆箱のジッパーを開ける。

「・・・?」

特に何も変わってないけど・・・?

「ふん、気づかないならそれでもいいし。困ればいいんだから!」

流石にここは教えてくれないのか。何が変わったんだろ、別にシャーペンの本数も何も変わってないし、芯も取られて・・・。って、あれ?シャーシンケースが、0.5ミリのじゃなくて、2.0ミリのになってる・・・。

「・・・」


「地味!!」


これだけ!?めっちゃくちゃ地味な嫌がらせ!ダメージ限りなく0に近いけど!?

「いや、もっと酷い嫌がらせしなよ!って私が言うのも変だけどさ!」

「・・・きゅ、急に大きな声出さないでよ・・・。びっくりするから・・・」

「だから可愛いっての!」

と、いいつつ、少し小さな声にする私。


「・・・仕方ないね。アンタ、あたしが女だからって、何もされないって思ってるんでしょ」

「何もって・・・」

「あたしヤリ手だから。あたしが本気だしたら、がくがくってアンタの足震えさせてみんなの前で恥かかせることだってできるんだから」

「ってか、言ってる本人が無理してるよね!?」

ぷるぷるって身体震えてるし!

「はっ、そんなことないし!見てなよ・・・」

そう言って、彼女は自分の右手の人差し指の腹を唇にあてる。え、何するつもりなの・・・?

「ほらっ!」

掛け声と共に、彼女は人差し指を私の唇につけてきた。・・・はい?

「・・・どうっ!?」

「いや、どうって・・・」

今ので何をどう思えと・・・。

「な、何で全然動じていないわけ・・・!?」

そんな驚天動地みたいな顔されても困るけど・・・。

「だって、特に何も・・・」


「淫乱!!」


「いや、絶対違うから!それだけは絶対違うから!」

ことこのクラスに限り、私が淫乱なわけないから!!それだけは譲れないよ!

「だって間接キスだよ!?知ってるでしょ、キスしたら赤ちゃんできちゃうって!その一歩手前の行為なのに!!」

「そのレベル!?」

え、そのレベルなの!?高2だよ、私たち!女子校の生徒かよ!

「・・・それ、冗談で言ってる・・・?」

「なに、冗談って・・・。何言ってるわけ?」

「あ、いや、何でもない・・・」

あんだけ顔真っ赤にしてるしな・・・。うわー、現実に存在するんだね、コウノトリガール・・・って表現があるか知らないけど・・・。


「ふん!まぁいい!今日はこれくらいにしといてあげる!」

・・・私何もしてないけどね。勝手に自滅しただけだけどね。

「最後に言っとくけど!あたしはアンタのこと認めちゃわけじゃないから!」

・・・と、自称悪役らしく捨て台詞を吐いて帰ったわけだけど、その台詞で噛むって・・・。


「最後の最後まで可愛かったな・・・」


to be continued...

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