16#羽ばたく大勢のハクチョウ家族達
コブハクチョウのフッドとレミの間に、3羽の“みにくいアヒルの子”が生まれた。
「ほぉら、気を付けて!!どこかに危険が潜んでいるかも知れないからねえ。」
レミは、ヨチヨチ歩きの“みにくいアヒルの子”に優しく声をかけた。
「あら?貴女方は・・・」
「あっ、初めまして。あたしは貴女の夫の知り合いのスウです。
あっ!また逃げないのっ!!」
スウにも“みにくいアヒルの子”が3羽生まれた。
「あらスウ、ひさしぶりね。どう?私の可愛い我が子。どう?」
「何言ってんの!?ミキちゃん!!あたしの我が子の方が可愛いでしょ?」
「違うよランちゃん!!あたいの坊や達の方が可愛いのよ!!」
「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」「私の!!」「あたしの!!」「あたいの!!」
「しゃらーーーーーーーーーーーーっぷ!!」
そこに現れたのは、妻のミエコとイチャイチャしまくっているコブハクチョウのユジロウだった。
「あんたらが可愛い雛ちゃんそっちのけに言い合ってたら、もう何が何だかメチャメチャだよ!!ああっ!!俺達の愛の結晶も!!おいこら!」
レミの雛も、ランの雛も、ミキの雛も、スウの雛も、そしてユジロウの雛までもごちゃ混ぜになって一緒にはしゃぎ回って大騒ぎして誰が誰の雛か訳が分からなくなってしまった。
「ほぅら、言わんこっちゃない!!たまったもんじゃないねー!!」
「ねー!!」
ユジロウとミエコはお互いニッコリと顔を見合せた。
「そこでなにしてるの?みんなして。」
コハクチョウの三姉妹の母のチエミはも、3匹の“みにくいアヒルの子”を連れてやって来た。
「ユジロウさん、「ねー!!」って言ってる場合じゃないじゃん。
もう何がなんだかさっぱり・・・」
しかし、その時“みにくいアヒルの子”達は、同じ雛の集団を見つたとたん、
「わぁーーーーーい!!」
と、いきなり雛の集団に駆けていって紛れ込んだ。
「あっ!こらぁーーーーーー!!」
「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」
6羽の雌ハクチョウ×3羽ずつ=18羽の“みにくいアヒルの子”達は縦横無尽にもみくちゃしっちゃかめっちゃかに走り回り、どの雛が誰の雛なのか訳が分からなくなり、どの雌ハクチョウでもてにおえなくなってしまった。
「坊や達!!大人しくしてなさい!!」
「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」「わーい!!」
「しゃらーーーーーーーっぷぅーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
コブハクチョウのユジロウは、思いきり息を吹き込んで渾身を込めて大声を張り上げた。
するとどうだろう。
全部の雛がシャキーン!と気をつけをして各々の親ハクチョウに整列をしたのだ。
「凄いわぁー!また惚れちゃった!!」
ユジロウとミエコは翼で互いを抱きしめ、嘴でキスをした。
「ヒューヒュー!!お熱いねぇー!バックにハートまで膨らんできたよ。」
ミキは、野次を飛ばした。
「ん?バックにハート!?」
チエミは、ユジロウとミエコの後ろを確かめた。
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぷぷぷ・・・
コハクチョウのチエミの夫のケチーロが、上を向いた状態で頬をパンパンに膨らまし顔を真っ赤にしてハートの形の赤いゴム風船を嘴で必死に膨らましていた。
「あんたなにやってンの!?」
「ぶっ!」
ケチーロはビックリして思わず嘴から、膨らましていたハート型の風船の吹き口を離してしまった。
ぷしゅーーーーーーーっ!!
しゅるしゅるしゅるしゅる・・・
「うわぁっ!!せっかく拾ったハートの風船がぶっ飛んだぁーっ!」
慌てて萎みながら吹っ飛んでいく風船を追いかける夫のケチーロを横目で見ながら、妻のチエミは
「全くもぅ・・・」
と呟いた。
「うわっ!!息腐っ!!」
風船から吹き出したケチーロの吐息に前にいたユジロウとミエコは思わず嘴の鼻を翼で抑えた。
「そんなにみんなでケーチロさんを責めないでよぉ。」
水面からぷはっ!と上がってきたフッドがやって来た。
「チエミさんは、ケーチロさんのドジでも献身的な愛に惹かれたって言ってたじゃん!!・・・あれ?あの3羽は?」
「ああ・・・またやってんの?毎度のことじゃん」
ランは呆れ顔で言った。
「僕がイケメンだ!!」
と、ランの夫ハクチョウのテルヒー。
「違う!俺がイケメンだ!!」
と、ミキの夫ハクチョウのカズーオ。
「いや、俺がイケメンだ!!」
と、スウの夫ハクチョウのユッキオ。
それぞれ3姉妹のハクチョウをめとった雄ハクチョウだ。
「ああやって、私達を嫁の取り合いっこしてたんだよ。で、適当に。」
ミキは苦笑いした。
「あっ!あんたの父さんが向かって行ったよ。」
スウは、フッドにひそひそ話をした。
「だまりゃっしゃーーーーーい!!」
フッドの父ハクチョウのユジロウは、言い合い喧嘩の婿3羽に向かって逞しい鰭脚で脚蹴りをお見舞いした。
「パパー!相変わらずだねー!」
フッドは溜め息をついた。
「フッド、なんか言った?」
「何でもないっ!・・・ん!?やべ!!
」
ハクチョウ達のいままでのやり取りを、周囲の他のハクチョウ達やカモ達、サギ達にじーーーーーっと凝視されていた。
「ぷーっ!」
「くっくっく!」
周囲から苦笑いが漏れていた。
「あ・・・」ハクチョウ家族は恥ずかしさの余り、ぎくっと固まった。
ハクチョウ家族達は各々の雛達に生きていく術を教え込んだり、飛ぶ練習や渡りをする為の基礎体力を鍛えさせたりして幾日か経過していった。
雛ハクチョウ達は、“みにくいアヒルの子”から嘴の白身がかかった灰色の身体の若鳥となった。
やがて・・・
「みんなぁー!期は熟したぞぉー!いよいよこの日がやって来たんだぁー!
みんなぁー!行くどぉー!地の果ての鳥の楽園の湖へ!!」
ケーチロはラッパのような声で、ハクチョウ家族達は一斉に集まった。
「ケーチロさん、みんないつでも準備万端よ。」
チエミはこの旅立ちの日をワクワクしていた。
チエミだけでなく、全てのハクチョウ家族達が期待と不安でまるでゴム風船のように胸が膨らんだ。
特に、始めての旅立ちになるハクチョウの雛達だ。全員無事にこの晴れの舞台に立っていた。
「山の向こうはどうなってるのかなあ?」
「きっと素敵な風景が広がっているんだよぉー!」
「どんなのかなあー。早く飛びたいなあ。」
「えーと、それはねえ・・・」
「おい、ユッキオ!!雛にネタバレは駄目だよ。」
「すんません、カズーオさん。」
「おお我が雛よ」
テルヒーは雛を抱き締めた。
「僕はもう雛じゃないやい!!」
「ごめん。我が子よはぐれず行こうや。」
「大丈夫だよ父さん!!つーか父さん大丈夫なの?」
「何で知ってるの?」
「母さんが・・・」
「ぎくっ!!」
テルヒーは、過去を雛に分かってしまい青ざめた。
「あっ!!まだあの時のハート風船持ってるの?」
チエミは、夫のケーチロの嘴に萎んだハート型のゴム風船をくわえているのを発見した。
「気に入ってるから、持っていこうと思って・・・。」
「でも、飛んでる時に膨らまさないでね。割れるとビックリして隊列崩れるし、気圧が・・・」
「だいじょーーぶ!!」
ケーチロは、ぷぅっとハート型の風船に息をちょっと吹き込みながら言った。
「だから膨らまさないでよぉー!」
チエミは耳の孔を塞ぐように翼で頭を抱えた。
「ねぇ、フッドさあん。」
「なあにミキちゃん!!」
「昔、風船の紐が絡んだ脚は大丈夫なの?」
「大丈夫だよん。ほら、この通り!!」
フッドは湖を泳ぎ掻いていた片一方の脚をぽーん!と伸ばした。
バシャッ!!
「げぇっ!冷てえなあ!!」
ユッキオは、フッドに脚で湖の水を思いっきりかけた。
バシャッ!!
「おい、何かようか?
かかったのは、ケーチロだった。
「いいえ・・・何でも・・・」
「何でもってことねーだろ!?」
ケーチロは、声色をあらげて言った。
バシャッ!!
ケーチロは、脚で水をユッキオにいっぱいかけたが・・・
「なんじゃこりゃ・・・?」
やがて、ハクチョウ達はお互い、
バシャッ!!バシャッ!!バシャッ!!
と湖の水を仲間に掛け合いの大喧嘩が始まった。
バシャッ!!バシャッ!!バシャッ!!バシャッ!!バシャッ!!バシャッ!!バシャッ!!
「みんなぁー!せいれーーーーーーーーーつ!!」
コブハクチョウのユジロウは息を思いっきり吸い込み、渾身を込めて叫んだ。
と、ハクチョウの家族達は一斉にユジロウの前に整列した。
「さて、渡りのポディションを発表するぞ!!」
最前列は、若鳥の中で一番力強く賢いコブハクチョウのフッドの子のジュリーが選らばれた。
その後ろは、その他の幼鳥達。
そのまた後ろは、その親のフッドや3姉妹達。
最後列は、その親のチエミやユジロウ達となった。
「さあ、渡りの時がきた。みんな翼に風を集めるんだ!!」
ハクチョウノ家族達は、翼を一斉にばたつかせた。
「風向き北北東!!天候快晴!!前安全確認!!シグナルオールグリーン!!行きまーーーーーーーす!!!!!!」
先頭に立つフッドの幼鳥のジュリーが号令をかけると、ハクチョウ家族達は一斉に翼を羽ばたいて湖という名の滑走路を脚鰭で駆けていった。
すると、ハクチョウ家族達はふうわりと宙に浮いて・・・・
「あっ!ちょっと待ったぁ!!」
いきなり空中で、ケーチロが引き返した。
ハクチョウ家族は全員ずっこけた。
「僕のハート型のゴム風船がない!」
「なん・・・だと!?」
「鳥騒がせだなあ。」
「みんなで探さなきゃ!!」
ハクチョウ家族達は騒然となった。
「あっ・・・!あった!!僕の翼にくっついてた!!」
「いい加減にしろぉーーーー!!」
ハクチョウ家族はケーチロを袋叩きにした。
その光景を嘴をあんぐりと開けて、カモ達は呆れ顔で見ていた。
「あ・・・また見られたはっはっは!!それでは、テイク2!」とジュリー。
カモ達は「???」となった。
「さあ、渡りの時がきた。みんな翼に風を集めるんだ!!」
「またかよ・・・」
ハクチョウノ家族達は、翼を一斉にばたつかせた。
「風向き北北東!!中略!!行きまーーーーーーーす!!!!!!」
先頭に立つフッドの幼鳥のジュリーが号令をかけると、ハクチョウ家族達は一斉に翼を羽ばたいて湖という名の滑走路を脚鰭で駆けていった。
すると、
親ハクチョウ4羽
その仔ハクチョウ8羽
そして、その幼鳥18羽
総勢30羽のコハクチョウとコブハクチョウの種族を越えた絆で結ばれた、ハクチョウ家族達はふうわりと宙に浮いた。
湖を後にしたハクチョウ家族達は目的地の遠い国、地の果ての湖を目指して飛んでいった。
野を越え、
山を越え、
海を越え、
街を越え・・・
移り変わる遥か下界の景色を楽しみながら、
移り変わる天候の試練を乗り越えながら、
みんなで助け合いながら、
苦しみも楽しみも分かち合いながら、
ハクチョウ家族達は遥かなる旅を通して、
お互いの絆を深めていった。
「前方!!何かが迫っています!!」
先頭に立つリーダー役のジュリーは、みんなに注意を呼び掛けた。
「これは・・・ふ・・・風船だあ!!
大量のゴム風船の群れだあ!!
みんなぁー!突っ込めーーーー!!♪」
「わぁーーーーーい!!♪
風船だぁーー!!風船だぁーー!!」
ハクチョウ家族達のゴム風船好きのDNAがみなぎった。
我先に風船をいっぱい捕まえようと、みんなで風船の群れに突っ込んでいった。
ランスウミキの3姉妹も
チエミも
ミエコも
レミも
ケーチロも
テルヒーも
カズーオも
ユッキオも
そして、その幼鳥も・・・
「お前ら隊列崩すなぁーーーー!!
おい!!ジュリー!!お前もか!!
フッド!!フッド!!お前また脚に風船が絡んだらどうするんだ!!聞いてるのか!?」
「パパーーー!!この風船は紐付いてないよぉーーー!!
僕こんなに風船ゲットしちゃった♪」
「何ぃ!?お・・・俺も!!♪」
ユジロウまでも我慢出来ず風船の群れに突っ込んでいった。
嘴いっぱいくわえ、鰭脚で掴み、夢中で飛んでいる大量の風船と戯れた。
「ん!?霧だ!!」
「でもどっかで見たようなシュチュエーションの霧だ・・・」
ハクチョウ達は風船に夢中になりすぎて、視界に立ち込めてきた霧に今まで気付かなかった。
やがて・・・
バサッバサッ・・・
一羽のマガモが、もう持ちきれない程嘴いっぱいに風船をくわえ鰭脚にもいっぱいの風船を掴んだユジロウの目の前に近づいて来た。
「あれぇ・・・お久しぶりねー!ハクチョウさん達。
あっ!お子さんまで連れてきたんだ。また湖に寄ってきてよみんなー!みんなで持ってるこの風船で遊ぼうよ!!」
ハクチョウ達は、霧の下の風景を眺めた。
そこには、湖のほとりにオオハクチョウとガチョウとオオワシが翼を振って、
「みんな来てねーーーーーーー!!」
と、ハクチョウ家族達を呼び掛けていたのだった。
「まさか・・・ここは・・・?!」
~6羽のハクチョウと青い風船~
~fin~
6羽のハクチョウと青い風船 アほリ @ahori1970
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