第39話「そして二人は、再び相まみえる」
「ねえ、優介」
帰り支度をしていると、七海から声をかけられた。
以前の一件以来、ちょっとだけ気まずい空気の流れていた僕たちだけど、最近はようやく元通りといったところ。
「今度の土曜日さ、映画を見に行かない?」
「映画?」
「そそ、新しく始まったやつなんだけど……どうかな?」
映画か、そういえば最近全くチェックしていなかったけど、久しぶりに良いかもしれない。
……あ、でも。
「土曜日はちょっと予定があるんだ」
「あー、そうなんだ。予定が……」
そういえば土曜日は梔子さんと出かける予定があったんだっけ。
「……優介さ、この間も」
「ん?」
「ううん、何でもないよ。じゃあまた誘うね?」
そう言い残し、僕の元を離れていく七海。
あー、そういえば前も誘ってくれたけど、その時も断ってたんだっけ。
ここ最近、休みの日は梔子さんとの予定が多くて、七海や嘉樹の誘いは全部断ってるからなぁ……。
そのうち、何か埋め合わせでもしておこう。
*
「ん、メールだ」
学校から帰宅した私──並木朱莉は、鞄に入れていたスマートフォンを起動すると、知らないアドレスから連絡が来ていたことに気づいた。
珍しいな、私にメールなんて。
入学当初、次から次へと連絡先交換を求められ、応じるがままに対応した結果、毎日何十通ものメールが届くようになったのを思い出す。
あの時は基本的に全ての連絡を無視していたけど、段々うっとおしくなってメールアドレスを変えたんだっけ。
それ以来、誰かから連絡が来ることは滅多に無く、精々あるとすればお母さんくらいだったんだけど……このアドレスは、私の知っている相手じゃない。
最近の噂絡みで迷惑メールでも届いたか、そんな予想を立て画面を起動すると。
『こんにちは、朱莉ちゃん。春瀬七海です』
「……は?」
思わず声が漏れる。
そのメールは、全く予想外の人物からであった。
『メールアドレスは優介から聞きました。今回は、ちょっと朱莉ちゃんに相談したいことがあって連絡したんだけど……』
相談? 私に?
『とりあえずメールじゃなんだし、ラズベリーまで来てくれない? 直接話したいことがあるの』
ラズベリーというと、近所の喫茶店のことか。
そんな場所に呼び出して、私に話したいこと……?
『明日の放課後、待ってるから』
メールはそこで終わっていた。
「……どういうつもりなんだろ」
春瀬七海とは、以前の一件以来全く顔を合わせていない。
お兄ちゃんとは元の関係に戻ったみたいだけど、私には分かる。多分あの女は、前とちっとも変わってなんかいない。
私がそうであるように。
つまり私たちの関係は、前と何一つ変化なんて無い。互いにお兄ちゃんを巡る相手であると同時に、互いのことを心底嫌っているはず。
そんな相手に、相談したいことがあるなんて……。
「十中八九お兄ちゃん絡みだとは思うけど……」
とにかく、明日直接会って話をしないことには分からない。
あまり気乗りはしないけど……行くしかないのかな。
◇
「ゴメンね、お待たせ」
学校を終え、待ち合わせ場所の喫茶店までやってきた。
店内をぐるっと見回してみたが、待ち合わせ相手はまだ来ていない様子。
結局適当な場所に腰掛け待つこと十五分、ようやく彼女が到着した。
「……いえ、別に」
どのような反応を取って良いのか分からず、思わず警戒してしまう。
仮にも一度やりあった相手だ。何をしてくるか……。
「大丈夫、今日は喧嘩をしにきたんじゃないから」
「……そうですか」
そう宥められ、警戒心を少し緩める。
「来てくれないかと思った」
「……本当は来たく無かったですけど、多分お兄ちゃん絡みのことだと思ったので」
「正解、ってまぁ分かるか」
むしろ他の用事だったら怖いくらいだ。
「ねえ朱莉ちゃん。一つ聞きたいことがあるんだけど」
「……何ですか?」
「最近、優介にまとわり付いてる女のこと、教えてくれないかな?」
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