第32話「第一章 エピローグ」

 あれから数週間が経って、僕たちの関係は大きく変化を遂げた。


 まず朱莉だが、学校でも普通に話しかけてくるようになったのが大きな変化の一つだろう。

 といっても以前のように僕に対してアプローチをかけるような感じではなく、普通の兄妹としての距離感で。

 あの後、朱莉は僕の事を『一人の兄として慕う』ことにしたらしい。

 盗撮や盗聴はもう辞めて、以前まで書いていた『お兄ちゃんノート』も全て破棄したそうだ。

 僕としては悩みの種であった朱莉の行動が落ち着いてホッとしているけど、それにしても随分と思い切りの良い行動っぷりだなと驚いてもいる。

 あれほど僕の事を好いていたんだ。表面上は普通だが、実際は相当な決断だったに違いない。


 そして、それに合わせて『計画』云々も全て水に流れたので、もう僕と変に距離を取る必要は無いと、日常生活でも『普通の兄妹』として仲良く接する事となった。

 まだ若干ぎこちなさはあるが、朱莉は

「お兄ちゃんのことを、一人の兄として好きになるまでには時間がかかると思うけど……でも、お兄ちゃんとまた距離を取るのはもっと辛いから、だからそれまで我慢して私が隣にいるのを許してね?」

 と言っていた。

 そんな事を言われたら僕も断る訳にはいかないだろう。

 というか、普通の兄妹として接する分には僕も全く問題ないし、むしろまた朱莉と仲良くなれて、ちょっと嬉しかったりもする。


 まあでも不思議なもので、朱莉が変わろうとしてくれるのは喜ばしい事のはずなのに、どこか寂しさを覚えている自分もいたりして……。


 今はそんな感情の変化に戸惑いながらも、朱莉との新しい関係を築くために頑張っている。


 そして七海とは、今まで通り幼馴染として接する事となった。

 あの後、七海から

「優介が今まで通りを許してくれるなら、私からもぜひお願いしたいな。多分優介の事を好きだって気持ちは変わらないと思うけど、それでも良い?」

 と問われ、僕は首を縦に振った。

 むしろ今まで通りを望んだのは僕のほうだし、断る理由が無い。

 それに七海は本気で反省しているようで、もう二度とあんな事はしないと約束してくれた。

 結局何も解決していない気もするんだけど……少なくとも僕はこれで良いと思っている。


 ただ……

「優介が振り向いてくれるように、今度は正々堂々アプローチしていくからね?」

 って言葉には、結局返事出来なかった。


 いや、なんて返せばいいんだ……。


 そんな訳で、最近は以前より距離が近くなった幼馴染のアプローチを受けつつ、普通の兄妹になろうと頑張っている妹と、それなりに楽しく過ごしている。

 何もかも元通りに……とはいかないけど、それでも以前までの生活に少しの変化を加えた、そんな新しい日常が始まろうとしていた。



「でもそれは、妹として、だよね?」

「……うん」

 その返事を聞いた瞬間、私――並木朱莉の心は、喜びで埋め尽くされていた。

 よし、ここまでは予想通り。だけどそれを表情に出す訳にはいかない。

 今はまだ落ち込んでいる様子を見せなければ……。


 ……よし、そろそろいいかな。

「……ねえ、お兄ちゃん。一つだけお願い、聞いてもらってもいい?」

 私の言葉に、お兄ちゃんは首を縦に振る。

 そして私は、新たに考えた『計画』を始めるべく、こう告げた。

「これからも"ずっと"大好きなお兄ちゃんの隣にいることを許してね?」



「優介が振り向いてくれるように、今度は正々堂々アプローチしていくからね?」

 涙を流した後、私のことを許してくれた優介に向けて、そう告げる。

 だけど、何となくこうなる事は予想出来ていた。

 優介は優しい。その優しさは、こうしている自分ですら心配になるほど。

 だけど、そんな優介の事を知っているからこそ、私はこうして次の『計画』に移ることが出来た。

 約束はしたよ? もう二度とこんな事はしないって。

 そう、"こんな事"は、ね?









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【少しだけあとがき】

『妹がブラコンであることを兄は知っている』を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。

 人生で初めて小説というものを書いたので、後から読み返すと「これは酷い」と思うような部分も多々あり、そもそも勢いだけで書き始めたため、後から物語の整合性と取るために勝手に書き換えたりもして、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしました。

 恐らく読んでいて疑問や違和感を覚えたり、矛盾点を見つけたりされていることと思います。何か疑問に思う事がありましたら、小説、近況ノートなどのコメント欄に書き込んで頂ければご対応いたしますので、よろしくお願いします。

 さて本編ですが、当初はここで終わりの予定でしたが、ふと「こんな展開書きたいな」と思い浮かんだ物語がありまして、もう少し書き続けることにしました。

 新作も用意しているので、そちらと合わせて引き続き頑張って更新していきたい名と思っております。

 これからもどうぞよろしくお願い致します。

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