舞浜アンフィシアター
それから2週間後、今度は聡美と千葉を訪れていた。
今日は6月17日…この日がきてしまった。
“解散”と言うワードは、どこかしっくり来ない。ただやたら朝から動悸がうるさい。
会場に到着すると、仙台の時と比にならないくらいにファンで溢れている…
「みーちゃん、一人で居なくならないでね」
聡美は不安げに私の腕を掴んでいる。
『離れないようにそのまま掴まってて』
「みーちゃん…今のドキっとしちゃった」
『バカ』
そんなバカ話を出来たのは入場までのこと。
入場し、ここぞとばかりにグッズを買い漁り…会場に入ると自分達の席が思った以上にメンバーと近くて驚いた。さすがFC席だね。
会場は真っ暗になり…今までとは全然違った緊張感がはしる…
ラストライブの会場は、舞浜ということがあってかすぐ近くにある夢の国を連想させるようなメロディが会場に流れた。
スクリーン場に2012年1月10日に行った始動ライブの入場直前のメンバーの舞台裏の映像を始め、過去5年半の映像が映し出され…
【1986日間、これまでの感謝と愛を込めて】の文字の後…
白い衣装を身に纏ったメンバー五人がステージ上に現れ…
あぁ…もうダメだ。泣く。
そして始まった“カメレオ”最後のライブ…泣いてばかりじゃいけない。ちゃんと耳に目に記憶に残さなきゃ。
いや…最後くらいは、恥も何も気にする必要も無いのかな?
私は思うがままに音楽にノリながら頭を振ったり振り付けを全力で踊った。
だが、後半に向かうに連れて…左横にいる聡美は涙を拭いてるのが視界にチラチラと映って。私まで涙が止まらなかった。
水商売歴7年の内、5年はカメレオを聞いていたな…そう言えばムカついたり悲しいことがあったり、そういう時に何をしてたかな?って…
私はカメレオの音楽を聞いていたよ。
音楽は、記憶を蘇らせる効果があるんだろうか?
これを聞いていた時はあれに悩んでいたとか、あれをしてた時にこれを聞いてたとかね。その時の思い出が全部フラッシュバックするんだ。
そうか…私の過去五年間はカメレオがいつもいたんだね。
全48曲、約4時間。
メンバーがステージから退場し…その後戻ってくることは無かった。
その瞬間に本当の悲しさが込み上げて、私は聡美に抱きついて一緒に泣き崩れた。
“かけがえのない”ものをなくした。それは失恋をした感情とは違う。
どちらかと言うと卒業式の感情に近い物だった。
前に進みたくない…そんな勇気は湧かない。けど強制的に前に進まなきゃいけない。
『聡美、行こう』
「無理…キツイ…」
しゃがみこむ聡美に手を差し伸べたが断られた。
『このままじゃ終電逃すよ?』
「そうだね…」
聡美は私の手を掴んでゆっくり立ち上がった。
お互いにメイクは全部落ちていて、目は酷く腫れている。
周りを見ると自分達のように泣き崩れてる人たちばかりだった。
【人は何かを失って何かを見つけて、その繰り返しなの?
メンバーさんや、此処に居る人たち、自分も含めて明日からどのように生きていくのだろう。見えない。今は何も見たくない。】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます