夕の出会い




「ふわぁ……」


ああ、暇だなぁ……

将来何かあった時のために高校に入ったけど、三日目にして暇だ……

ああ、入学式含めたらまだ四日目か。

どっちにしろ暇だなぁ。授業とかつまんないし。

作品の構想でも練ようかな……

ああ、ほんと授業は暇だなぁ……










「……いや、それは先生の仕事でしょう?」


帰り際、首席入学者の僕に頼みたいことがあるというので先生のもとへ行ったら、ただプリントをまとめるだけの仕事だった。

そもそも、わざわざ僕に頼む仕事とも思えないし。


「いやぁ、そうなんだけどな。実は、どうしてもお前に頼まないといけないんだよ。」

「なぜですか?」

「先生、これから会議でその後娘の誕生会なんだ。」

「…………お疲れ様です。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ深星!どうしても!娘の誕生日だけは!

 可愛い娘が待ってるんだ!」

「計画的にすればよかったでしょう?」

「娘が可愛すぎて仕事が手につかないんだよ!!」

「知りませんよ!!」


だいたい、知らない娘さんのために僕の時間を使わなきゃいけないとか意味わかんないし。

その時間があったら、漫画の原稿何ページ描けると思ってるんですか?

まあ、この人は僕が『星空深夜』だって知らないんだろうけど。


「どうか!一生のお願いだから!」

「先生に一生のお願いされても……」

「じゃあ、課題、俺が担当の間は課題すべて免除してやるから!」

「それなら、まぁ。」

「よっし!じゃあ、これお願いな!俺は会議に行ってくるから!」


先生はそう言うと、さっさと書類をもって出て行ってしまった。

そして、残されたのは僕と山積みになったプリントの山。


「はぁ、やるか。」









そんな感じで三十分。

山積みだったプリントを綺麗にまとめ終わって、僕の目の前には綺麗になったプリントが並べられている。


「……よし、帰るか。」


僕はそう呟くと、誰もいない部屋を出て廊下を一人歩く。

外からは、部活動をしている人の声や、吹奏楽部の楽器の音が聞こえてくる。

あー、家に帰るのも面倒になってきた。どこ〇もドア欲しい……


「きみ!まって!」


廊下からそんな声が聞こえてきたので、僕は思わず足を止めて後ろを見る。

すると、短い髪を揺らす一人の女子生徒が僕のほうに走ってきていた。


え?何?新手のナンパ?

明らかに僕と目合ってるよね?

僕以外の誰かを呼んでるわけではないよね?

って、止まらないの?

まったく減速してないけど、ちゃんと止まれるのかな?

いや、走ってる以上は止まれるんだろうけど……

って、そんな急ブレーキしたら!

ちょ!待って!突っ込んで来られても困る!


「きゃあ!!!」

「ごふっっつ!!」


痛たああああ!!?

ちょっ、痛い!本当に痛い!

ってか、なんで僕の上に乗ってるの?

思ったより軽いけど、重い!


「ちょっと話があるから来て!お願い!」


どうして!!?

ちょ、全然話の流れが見えない!

突っ込んできておいて謝りもせず第一声がそれ!?

絶対やばい人だこの人!


「え?ちょ、それより上に居られると……」

「あ!ご、ごめん!」


女子生徒は謝ると、パッと僕の上から離れる。

よし、今のうちに逃げ……うっ、思った以上にダメージが……


「待って!!」

「うぐっ!!」


痛っ!!

死ぬ、ダメージ負っているときにそれは死ぬ!


「ちょ!なにをして……」

「ちょっと、話し聞くだけ聞いてくれない?」

「い!や!で!す!」


絶対やばい人だもんこの人!

ああ、大翔さんの言ってた『変わってる二年生』ってこの人か!

なら、なおさら逃げなければ!


「お願い!!」

「うぐっ……」


ちょ、本気でヤバイ。

死ぬ、ってか絞まってる絞まってる!

腹が絞まってる!

死ぬから、本気で死ぬから!


「ちょ、その手……放して、ください……」

「じゃあ、ちょっとついてきてくれる?」

「わかり、ましたから……手を……」


死ぬよりはこの人についていったほうがましだ!

仕方ない、仕方ないんだ!


「だ、大丈夫!!?」

「す、少し待ってください……思った以上にダメージが……」

「……ごめんね?」


……謝るならこういうことしないでくれませんかね?



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