夜空君の本気




「きゃ!」

「秋川さん、ちょっとお話いいですか?」

「えっと、君は……」


よく見てみると、その人は昼休みに話しかけてきた人だった。


「あの、俺と付き合ってくれませんか?」

「いや、ちょっと……わたし、もう夜空君と付き合ってるし、君のことはよく知らないから。ごめんね?

 じゃあ、わたしは夜空君と帰らなきゃだから、これで……」

「待って!!」

「痛っ……」


手首を思いっきり掴まれて、思わず声が出てしまう。


「あの……離してくれない?」

「何で、俺じゃダメなんですか?」

「いや、あのね、わたしは……」

「何で!!ダメなんですか!?」


怖い。

手首を掴まれてるから逃げられないし、筋肉があるから威圧感がある。


「何でですか!!?」

「きゃあ!!」


もう片方の手も掴まれて、思わず声が漏れる。

そして、さっきより近い。


「は、離れて……」

「何で、俺じゃなくてあんな年下なんですか!?何で!!!」

「お前、僕の彼女に何してるんだ?」


その声と同時に、わたしの手首をつかんでいた手の力が緩み、離れることができた。

すると、誰かにふわりと抱き寄せられる。


「よ、夜空君!!」


わたしが名前を呼ぶと、夜空君はわたしを抱き寄せる手に力を入れる。

でも、その目線は油断なく男の方を見ている。


「お前っ!!なにしやがる!!」

「許さない……」


いまだかつてないほど怒気が込められたその言葉は、周りの関係のない人も竦みあがらさせる。


「ひっ!!」


わたしの手を掴んだ人は、小さな悲鳴を上げて後ずさる。


「絶対に、許さない……」

「ひ、ひぃっ!!」


相当怖かったのか、一目散に逃げるあの人。

それをそのまま見逃すと、夜空君はさらにギュッとわたしを抱きしめる。


「大丈夫?千雪。」

「う、うん……」


まだ手が震えてるけど、大分落ち着いてきた。

夜空君はそのまま何も言わずに抱きしめていてくれたけど、不意に口を開く。


「遅いです。」

「ごめん。ちょっと用事があって。でも、彼を連れてきたよ?」

「お、遅れてすいません!彼氏殿!」


あ、この声、梅田君だ!

そして、もう一人誰かいるみたいだけど、誰だろう。

夜空君はわたしに見せないようにしているみたいだから、見ないでおこう。


「うん。別にいいですよ。それより、大翔さん。」

「ああ、わかってる。借りは返す主義だからね。」

「微力ながら、拙者も手伝わせていただきます!!」


だから、もう一人の人は誰なの?

って言うか、夜空君の声のトーンが低い!!


「そっか。ありがとね。僕の方でも手は回すから。」


……なんか、物騒な話をしてる気が……


「じゃあ、僕はさっそく取り掛からせてもらうよ。」

「では、拙者も!」


二つの足音がして、二人が去っていったことが分かった。


「ごめんね、千雪。怖かったでしょ。」

「……うん。でも、夜空君は悪くないから……それに、助けに来てくれた夜空君、かっこよかった。」

「そっか。」


夜空君はそう言うと、わたしの頭をポンポンっと撫でてくれる。

それだけで、幾分か心が軽くなった。



一週間後、とある男子生徒が高校を中退したという話を聞いたのだけれど、理由は誰も知らなかった。



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