キスの日らしい




「今日は、キスの日です。」


僕が学校から帰ると、「おかえり」の声の前にそんな言葉が飛んできた。

言ったのは、もちろん僕の彼女の千雪。


……っていうか、何故敬語?


「……そうだったね。」


なんか悪い予感しかしない僕は、警戒しながらも千雪の言葉にそう返す。

すると千雪は大きく頷いたあと、両手を広げてニッコリと笑う。


「キスしよ?」

「謹んでお断りします。」

「なんで!?」


僕が若干食い気味でそういうと、千雪はガーンとショックを受ける。


「だって、なんかそういうの嫌じゃない?誰かにやらされてるみたいで。」

「いいじゃん!せっかくのキスの日なんだし!」

「よくないから。っていうか、中入っていい?」


玄関で足止めを食らっていた僕は千雪にそう聞く。

すると、千雪は「あ、ごめん!」と言いながらちょっと下がって僕が靴を脱ぐスペースを空けてくれる。


「ねえ、夜空君!キスしようよ!これは、夜空君も得する話だと思うよ?」

「……僕にも得が?」


僕は脱いだ靴を揃えながらそう尋ね返す。

僕に得ね……だいたい想像つくけど。


「なんと、今ならかわいい彼女に好き放題キスできます!!」

「やっぱりそんなことだろうと思った。千雪、じゃあ僕は普段好き放題千雪にキスしちゃいけないの?」

「え!?」

「今なら、ってことはそういうことになっちゃうけど……」

「え?そ、そんなことはないよ!?もちろん、いつでもいいよ!!」

「じゃあ、わざわざ今日する必要なくない?」

「うぅ……夜空君がいじめる……」

「いじめてないし。」


千雪の反応を楽しんでたのは否定しないけど、断じていじめてはいない。

僕は「千雪」といじけている彼女の名前を呼ぶ。


「なに?夜空く……」


僕は、顔を上げた千雪の唇にキスを落とす。

あ、なんか千雪が驚いてる。

悪戯成功!かな?


「よ、よ、よ、よ、夜空君!?」

「いつでもいいんでしょ?」

「そ、そうだけど!!」


不意打ちに弱い千雪は顔を真っ赤にしながら頬を膨らませる。


「なにかダメだった?」

「だ、ダメじゃないけど……」

「じゃあ、別にいいじゃん。」

「そ、そうなんだけど……」


ごにょごにょと何かを言う千雪ほ、やっぱりいつも通りかわいい。

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