先輩、その発想すごくいい!



「……お兄ちゃん、大丈夫?」


咲がそう僕に聞いてくるけど、答えるだけの元気がない。


「水をくれないかい?」

「今持ってきたよ。夜空君、何でのぼせるまでお風呂に入ってたの?」

「大翔さんとおんなじタイミングであがりたくなかった。」


僕はそう言うと、ソファーに寝転んでいる姿勢から上体を起こして、先輩からスポーツドリンクの入ったコップを受け取る。

スポーツドリンクを飲み干すと、また横になる。


「ねえお兄ちゃん。暑いなら服脱いだら?男子なんだから、上は全部脱げるでしょ?」

「いやだ。」

「え。でも……」

「嫌なものは嫌だ。」

「………そう。じゃあ仕方ないけど、暑かったら脱いでね。千雪さん。」

「ん?何?」

「私は少し大翔さんのところに行ってくるので、お兄ちゃんの世話をお願いしますね。」

「了解!頑張るよ!」


いや、先輩?

大丈夫なの?先輩家事とかできないんだったら、世話もできないよね?

すっごく不安なんだけど大丈夫なの?


「夜空君、何かしてほしいことはある?」

「……じゃあ、まずはそこに座って。」


僕はそう言いながら、向かい側のソファーを指差す。


「座ったよ?」

「じゃあ、そのまま僕の指示があるまで止まっていてください。」

「わかった。」


ふぅ。何とか先輩が余計なことをするのを防げたかな?いやぁ、危なかったぁ……


「って、つまり何もするなって言ってる!?」


あ、そう上手くはいかなかったか。


「はぁ……気が付ちゃったか。だって千雪家事出来ないし、不安すぎる……ああ、しゃべったら気持ち悪くなってきた。」

「じゃ、じゃあ、わたし黙ってるね!」

「………」

「………」

「………」

「………」


ああ、気持ち悪い……

全部大翔さんのせいだ……









「……夜空君?大丈夫?」


むくりと上体を起こした僕に、先輩はそんな心配そうな声を出す。


「大分回復した……なんか飲み物をくれない?」

「いいよ。ちょっと待っててね。」


そう言うと先輩は駆け足でキッチンへと向かう。


ああ、大分迷惑を掛けちゃったなぁ……

まあ、全部大翔さんが悪いのだけれど。


「はい、持ってきたよ。」

「ありがとうございます。」


僕はお礼を言ってコップを受け取ると、注がれていたスポーツドリンクを飲み干す。

……何故か先輩が僕のことを凝視している。


「……なんで見てるの?」

「んんっ!!?わたし見てた!?」

「はい。こっちが恥ずかしいくらいには。」

「き、気のせいじゃない?」

「気のせいじゃないと思うけどな……」


絶対に見ていたと思う。まあ、どっちでもいいけど。


「それよりも、色々ありがとう。」

「お礼言われることはしてないよ。全部咲ちゃんの指示通りにやっただけだし……」

「それでも何かしてくれたということは変わらないからね。お礼に何でも言うこと聞くよ。」

「えっ!?じゃあ、これはお願いというか、出来たらでいいんだけど……」


先輩はそう言うと少し赤くなって眼を逸らし、少しもじもじとした様子を見せる。


「遠慮しなくていいんだよ?こっちがお礼したいだけだからね。まあ、無理にとは言わないけど……」

「…………をして。」

「え?今なんて……」

「わ、わたしたちで遊んだのを、曲にしてくれない?」

「……え?」


曲にする?


僕の体験を、曲に?


「……千雪。」

「ひゃいっ!な、なに?」

「その発想、すごくいい。」

「……へ?」

「だから、すごくいいんだよ。むしろ、なんで今まで創ろうって思わなかったのかなってくらいに。」

「じゃ、じゃあ!」


それに、僕は頷く。


「次のアルバムに入れるね。アルバムが出来たら、真っ先に聴かせるから。約束する。」

「う、うん!ありがとう!」


先輩はそう言うと、僕に飛びつくように抱き着いてくる。


「ちょ!千雪!?あったってるし、苦し……」


調子がまだ戻っていなかった僕は、そのまま意識を先輩に刈り取られる形になってしまった。



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