先輩、大翔さんが!!



そのまま暫くピアノを弾いていたけど、時間になったので交代で風呂に入ることにした。

先輩と咲がまず最初に一緒に入って、次に会長。そして、大翔さんは「最後が良い」とのことなので、僕が入ることになった。


やはり、無駄にこの風呂は広い。

たぶん五人くらいならいっぺんに入れる。

シャワーも二つあるし。

そんなことを考えながら体を洗っていると、僕の勘が不穏な空気を察した。

なので、急いで泡を流すと、半ば飛び込むように湯船につかる。

こういう時の勘はよく当たる。

案の定、風呂場の扉が開かれて、向こうから服を着ていない状態の大翔さんが現れた。


「ちょっと!なんで入ってくるんですか!!」

「いや。時間的に早く入っちゃいたいし、男同士ならいいかなぁって。」


いや、ほんと迷惑なんですけど。


「そうですか。はぁ――――――――――――――――――――――――――…………」

「ため息長いね。流石歌手。肺活量が違うよ。」

「お褒めにあずかり光栄ですよ……」


全然嬉しくないけどね!!


「はぁ……」

「夜空君は裸見られるの苦手かい?」

「苦手というか見せたくないですね。」


僕は浴槽の壁に背中をつけながらそう話す。


「まあ、見せたい人のほうが少ないよね。僕は男同士なら気にしないけど。」

「僕は相手が誰だろうと絶対に上半身すら見せたくありません。」

「ふーん。なんか理由があるの?」

「そこには触れないでくれればありがたいです。」

「じゃあそうするよ。前から見た感じは特に何もないけど……」

「何かある人のほうが少ないでしょう。」

「確かにね。」


大翔さんはそう言うと少し笑って立ち上がる。

体を流し終わったのか、湯船に入ってくる。


まあ、広いので二人入っても余裕なのだけれど。


「そう言えば、銭湯とかは別だけど、家で風呂に入る時に先に体洗う人と、入ってから洗う人居るよね。」

「らしいですね。僕の家は両親とも洗ってから入りますけど。」

「僕の家は父さんは先に洗うんだけど、母さんはまずあったまってから洗って、もう一回湯につかるんだよね。」

「ああ、なるほど。まあ、大翔さんのお父さんと僕の母は兄妹ですから同じですよね。」


そこで不意に一旦会話が途切れる。

まあ、僕たちの会話だとよくあることだ。


「ねえ、夜空君。恋の話しようよ。」

「お断りします。」

「じゃあ、僕がすみれに告白したときの状況でも……」

「前に聞きました。会長を励ますときに勢いで告白したんでしたよね。」

「かみ砕きすぎだね。そんなにあっさりしたものじゃないよ。」

「会長がいつまでたっても他人を頼らないからって叱った勢いで自虐的な発言して、それを会長が怒って謝る時に勢いで告白したんでした。これでいいですか?」

「もっと感動する話だと思うんだけどな。あれは……」

「あ、その話もういらないです。」

「ねえ、酷くないかな?」


大翔さんはふざけた様子で涙をぬぐうふりをする。


「甘ったるい話を聞かされたくないです。」

「そんな甘いかな?まあいいけど。じゃあ、次は夜空君と秋川さんが最初に話した時の状況を教えてもらおうかな。」

「突っ込んできました。」

「は?」

「だから、先輩が僕に突っ込んできたんです。」

「……どういう状況だったら女の子が突っ込んでくるの?」

「僕が聞きたいですよ。」


本当に何でだったんだろう。


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