夜空君、愛してるよ。



「咲ちゃん。どういうこと?」

「俺も気になるな。どういうことだ?」

「文字通りの意味です。お二人では、お兄ちゃんを変えられません。」


なんで?なんでそう思うんだろう。


「あのな、俺はこれでもいとこだぜ?もう少し信用してくれてもいいと思うぜ。」

「じゃあ、あなたは『あの日』、お兄ちゃんに何があったか知っていますか?」


その言葉に、わたしと天輝さんは黙るしかない。


「ね?何も知らないのに、何を変えようとしてるんですか?」

「変えるんじゃない。戻すだけだよ。前のあいつにな。」

「過去の出来事は変えられませんよ。私のこの足のように。」


咲ちゃんはそう言うと、車椅子を指先でこんこんっと叩く。


「その足、何があったの?」


わたしはその質問を言葉に出してから後悔した。

だって、そんなの簡単に答えてくれるわけじゃないから。


「それは……」


咲ちゃんは少し考えるような動作をする。


「……自分でもお兄ちゃんから聞いただけで、詳しくは分からないんです。」

「え?」

「お兄ちゃんの話では、落ちてきたガレキが私に当たったらしいです。」


どういう状況なのかはわからないけど、今のわたしが咲ちゃんから聞けるのはここまでな気がする。


「そっか。」

「はい。それで、先ほどの話に戻してもいいでしょうか?」

「わたしはいいよ。」

「俺もいいぜ。」

「僕もいいよ。」


ん?最後に違う人の声が混ざってたな。

わたし達が声の方向を見ると、そこには大翔さんがいい笑顔を浮かべて立っていた。


「いつから聞いてたんですか?」

「うわ。咲ちゃん機嫌悪いね。あ、ちなみに最初から聞いてたよ。具体的には、秋川さんが夜空君と話し始めたぐらいかな?」

「「「気が付かなかった………」」」


あれ?じゃあ会長さんはどうしたんだろ。


「あ、ちなみにすみれは今この家の探索中。なんかすごい広いから、たぶん暫く帰って来ないと思う。」


え、エスパーか何かなのかな?さらっと心読まれた気がする。


「でさ、その話、僕も混ぜてよ。なんだかんだ言って結構夜空君と仲いいし。」

「……そうですね。そこまで聞かれたのですからいいですよ。」


咲ちゃんはそう言うと、一度全員の顔を見る。


「さて、では本題に入りましょうか。」


咲ちゃんはそう言うと、夜空君にそっくりな笑みを浮かべた。


「本題?どういうことだ?」

「天輝さんは鈍いね。これから話すのは、夜空君を変えるための具体的な方針、でしょ?」

「流石大翔さん。やはり天輝さんとは違って物分かりが良いですね。では、説明を始めましょう。ですが、ここで皆さんにこの話をするうえで言っておかなければならないことがあります。」


咲ちゃんはそう言うと、真剣な目でわたしを見る。


「千雪さん、貴女はお兄ちゃんのことを本当に好きですか?愛していますか?」

「ふえ!?」


急に何を聞いてくるんだろう!

わたしは一瞬誤魔化そうかと考えたが、咲ちゃんの真剣な表情を見て、本心じゃないといけないと思った。


「うん。夜空君が大好きだよ。愛してるよ。」


言った後でわたしの顔が赤くなるのを感じる。


「そうですか。千雪さん。この作戦が成功するまでの間に、貴女はお兄ちゃんの優しくない一面も、暗いところも、弱いところも、お兄ちゃんが……いえ、深星夜空が、星空深夜という架空の存在を作り上げてまで守っている心までもに触れることになると思います。そこで『深星夜空』という人間が、精神を守るためにどのような反応をするかわかりません。

これは賭けです。そして、成功にしろ、失敗にしろ、貴女は貴女の知らない『深星夜空』に触れることになります。



貴女はそれでも、何があっても、『深星夜空』という人間を愛することができますか?知ってしまったことに後悔はしませんか?」






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