第11話 集いし魔の者
見渡す限りの席を魔族によって埋め尽くされた議会場に、
「以上、国防の議、第三十七条について質問のある者は?」
複数の挙手に対し、ヴァルアリスは光線にて一人を指し示し発言を許可する。
「災害対策部所属、ダイゲスです。こちらの三十七条八十七項の記述は、防災の議九十条二十二項の記述と矛盾するのではありませんか?」
「一理ある。この件について、占星部隊の長オルガナイン。補足説明を頼めるか?」
「御意に。それでは皆様、お手元の資料177ページをご覧くださいな」
ヴァルアリスのてきぱきとした指示により質疑応答にも速やかに回答が提示され、会議は滞りなく進行して行く。
各分野の重用すべき専門家を把握し、派閥間の微妙な力関係までも考慮して適切に発言を促し、またある時は諌める。
入念な根回し、下準備もさる事ながら、何よりヴァルアリスの並外れた判断力が遺憾なく発揮されているのだ。
瞬く間に全ての議題が消化され、会議場は騒然となった。
「な、何か、他に議題は無いのか……?」
慌てたように問いかける魔王ザドゥムの言葉に、集った
「ありません」
「無いでーす!」
「皆無……かと」
「無いみたいですねえ」
かくして、閉会の言葉と万雷の拍手をもって
「信じられぬ事です、
会議終了後、ヴァルアリスの元を訪れた
「素晴らしいです。流石はヴァルアリス様ですわ……!」
人界の基準で言えば、徹夜確定の作業が午後五時で終わったようなものである。魔族達の感慨は深い。
しかし、功労者であるヴァルアリスは微笑してひらひらと手を振った。
「この程度、大したことでは無い。……それと、私は資料室へ入る。今日明日は誰も近づけぬように」
「なんと……少しはお休みになられては?」
「不要だ。王となる者として、果たすべき務めを果たすのみ」
颯爽と去るヴァルアリスを見送ったウェリゴースは心底感服し、腕組みして唸る。
「ううむ、流石はヴァルアリス様よ。我らも見習わねばな。空いた時間は自己研鑽に励むとしよう」
「えあっ……あ、はい」
せっかく訪れた不意の空き時間、魔界の中でも屈指のロマンティックなデートスポット「無惨の断頭台」にウェリゴースを誘えないかと緊張していたグレミアは、密かに肩を落とした。
「何を呆けている。修練場へ向かうぞ」
「えっ……あっ、はい。よろしくお願い致します!」
自己研鑽という半プライベートの時間を共にできる事を喜べばいいのか。共に過ごす場所が、見飽きた殺風景な修練場しか無い事を悲しめばいいのか。
揺れに揺れる、グレミアの乙女心であった。
一人会議場を後にしたヴァルアリスは、自室にてトランクへ荷物を収めていた。
それは明らかな旅支度。ウェリゴース達に資料室へ入ると言ったのは、不在期間のアリバイ作りである。
果たすべき務めを果たす、という言葉に嘘はない。
ただ、それが人界における
そして今、ヴァルアリスには一つの勝算があった。
鍵を握るのは緊張と弛緩である。
魔界においてヴァルアリスは、常にその一挙手一投足を羨望と驚異の眼差しで追われる立場。
態度は常に張り詰めており、心休まる時など存在しない。
一方で人界に降り立った時はその重圧から解放され、のびのびと活動できる。
(しかしその解放感こそが心の緩みを生み、敗北へと繋がるのだ……!)
何という徹底した自己の心理分析!
他者から指摘されることなくこのような油断の構造に気がつけるとは、さすがの
この気づきを得てからのヴァルアリスの計画立案は迅速であった。
そして、振り子が戻るように再び訪れる緊張を抱いて、人界の食物との戦いに挑むのである。
(人類よ、私は全力で緩み切ってみせる。そして、それが終わった時がお前達の最期……!)
今までとは全く異なる、心理面からのアプローチである。
これがいかなる結果をもたらすものか、誰にも想像がつかないだろう。
忘れてはならない。
この物語の題名は
しかし果たして今回ヴァルアリスが赴く地は、魔界の頂点にして至宝、戯れに竜をも屠る、絶対無敵、最強不敗の存在を打ち倒す事ができるのであろうか!?
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