変わる王家
第一王子の勢力が弱体化する一方で第二王子の勢力が盛り返している王家では、ミクの王家帰還は一部の反対を除くと難なく承認された。王家の
議員とはいえ彼らは貴族で、多くの人間を養う存在だ。かつて移民排斥を主張してきた議員に不満をもつ国民が、その議員の勢力が弱くなっているからといってその議員に暴力で対峙しては、移民排斥の暴力の矛先が変わっただけでなんの解決にもならない。そう考えた第二王子は、邸宅前の広場での演説で王子を支持する観衆に自制を求めた。それが一層の事王子の評判を高めることになった。
ミクは自室が何も手を加えられないままミクのために取り置かれていたことに感激し、一年ぶりの我が子との対面を果たした。未だ自分が母親であるとは明かせないままだったが。
「ゼノン様、お初にお目にかかります」
「マー、マー」
「ファオン様、お久しゅうございます」
「お元気でしたか」
にこやかに微笑む彼女はどう見ても、格下の妃に男児を産まれてしまった正妻のものじゃなかった。ミクは胸が熱くなり言葉を失ったが、ファオンはそれを咎めず、隣を通り過ぎるついでにミクの耳元で「母親ににて聡い子ですよ」と囁いた。
家畜舎は新しく建て直されており、様々な種類の羊が呑気に寝そべっている。邸宅内を王子と共に歩きながら、ミクは王子の言葉に耳を傾けた。
「急な話ですまないが、明後日にナン大国の大統領が来国される。ファオンと共に晩さん会に参加してくれるな」
「はい」
子を身ごもってしまい満足に「外交官」として働けなかった分の借りを返そうと思った。やや所作に不安はあったが、ミクは力強く頷く。
「そして、できればナン大国で盛んに栽培されているトウモロコシという作物のことについて大統領に伺いたく思います」
「ほう、作物に関心があるのか。わかった、詳しい者を連れてきてくれるよう頼んでみよう」
「急なお願いですが大丈夫でしょうか?」
「ああ、あちらには売国勢力にいいように使われた兄上の妃を輩出した負い目があるからな」
ミクは少しだけ悲しい面持をする。
「それは……お妃さまは悪くありませんでしょう?」
「あ……すまない」
陸軍総帥シンの慰みものにされた妃の名誉は、彼女自身が被害者であるのになかなか回復されない。
「いえ、過ぎたことを申しました。……今夜、私の部屋に来て下さいますか?」
「ああ」
「私がここに流れ着いた訳を話したく存じます。原始の砂漠の向こうで何が起こっているか、本来は一族の恥であるため話せないのですが、この大陸の存亡がかかっていると存じますので」
「……わかった」
ミクの伏せられた目に並々ならぬ決意を感じ、王子は気圧されたように頷いた。
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