35 あと一日(2)
かん高く加工された声。先手を打たれた……!
相手はクジャクの協力者しかいない。このタイミングで鍵の要求、僕の行動は筒抜けになっている。
『鍵を渡せ』
「…………依緒が先だ」
こうなったらやるしかない。
相手の鍵に対する執着は強く、僕が思う以上に重要なものに違いない。それを持っている――と誤解されている僕の方が優位。鍵を持っている
主導権を握ろう。相手から直接交渉してきたこの電話はチャンスだ。
「クジャクの部屋から依緒を出せ。じゃないと鍵は渡せない」
『解放はできない。罪人は独房に閉じ込める』
「罪人……独房? 依緒が何をしたって言うんだ」
『存在が罪だ』
「なにを言って……」
『明日中に一〇二号室のドアポストに鍵を投函しろ。一分でも過ぎたら九蔵依緒は永遠に釈放されないと思え』
電話は唐突に切れた。
「くそっ……!」
僕は立ち上がり玄関へと急ぐ。
「ぴょっ、どうするつもりぴよユート!」
「大家のところに行く、直接話をつけるしかない」
「協力者がフデムラって確証はないぴよ」
「もう決まりだ。僕の電話番号を知っているのは交換した有珠杵と那須、それに大家しかいない」
前者二人が協力者の可能性はゼロ。残る一人が協力者で確定だ。
「やっぱりあの人が依緒を……」
「とにかく一旦落ち着くぴよ、落ち着かないとこうぴよっ」
「ぉうわっ前がぁぁ!」
眉間まで降りてきたピヨが羽を広げて視界をふさぐ。思わず掴んでどけようとするが、上手いこと逃げているのか掴むことが出来ない。
「感情的になるのも分かるぴよが、現状有利なのはユートぴよ。だから焦る必要はないぴよ」
「こっちが有利?」
客観的に聞いてほしいと言って、肩の上に止まるピヨ。
「相手の欲しい物をユートが持っていると錯覚しているのも大きいぴよが、交渉材料にイオの身体を使うのも相手に余裕がない現れぴよ」
「『普通は生きているから人質の価値がある』って言いたいんだろ。分かってるよそれくらい」
魂のない身体でも成立すると踏んでの提示。僕の考えはどこまで知られているのだろう。
「一方的な要求も時間制限を設けたのも、自分の立場を上に見せたいだけのパフォーマンスぴよ。ユートから鍵を手に入れる目的が大きい以上、イオを失って困るのは向こうも一緒ぴよ」
「手ぶらとバレるまで優位を保てるし、イオの身体も損なわれない……でも現状が維持されるだけで状況は変わらない」
「だから時間を使って冷静に考えるぴよ。まずは――」
グゥゥ。張り詰めた空気を壊すように腹が鳴る。こんなときに。
「ぴぴっ、今日の疲れを癒すためにご飯とお風呂ぴよ。やみくもに動くより気力体力を充実させながら作戦を練ったほうが効率的と思うぴよ」
「……分かったよ」
僕は再びリビングに戻った。自分の間抜けさが緊張感を壊したのもあるし、ピヨの提案に逆らう余地もなかったからだ。
何かをしなければと焦る気持ちだけが身体を動かしていた。
だけどもし相手の要求を飲まなければ依緒はどうなるのだろう。身体も、魂も。
あと一日。残り一日。
残された時間でどの道を選べば望んだ未来に進めるのか。
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