Ⅱ 有象無象の結晶探し
15 悪魔の声(1)
「なっ、孔雀荘の室内に
憂鬱な一週間の始まり。昨日の出来事を相談しようと、帰りのホームルームが終わってから路希先輩が常駐する部室を訪ねた。
最初の一言で想像通りのリアクション。期待を裏切らない人だ。
「ついに求めていたものが……みみみ見たい、早く私に見せてくれぇぇ!」
「ここにはないです! 部屋には入れませんでしたし、正確には取り憑かれた人がいたかも、って段階ですから!」
禁断症状のように興奮する路希先輩をなだめて詳細を話す。と言っても僕自身も分からないことだらけなので「見えないけれど気配だけ感じた」の一文に集約される。
「結晶にはまだまだ謎が多いぴよ」
対面のスタンドミラーには、僕の髪の毛を伸ばしたり曲げたり手遊び、いや羽遊びをするピヨが映っている。やめなさい。
ちなみに今朝、改めてピヨが神さまに問い合わせたところ「調査が進展次第、再度連絡してほしい」と言って質問を受け付けなかったそうだ。
いやそっちの管理物なんだから詳細くらい教えてくれよ。
「この一件、超自然現象研究会の最優先活動として動くよりあるまい」
僕の話を聞き終えた路希先輩は即決した。
「本日も校外活動だ。
「いや先輩、元々の予定を変更してまで協力してもらうのは」
「結晶探しより重要な活動などあるわけがないだろう!」
机を叩いてまた立ち上がる。忙しい人だ。
「最も未知の現象にしてオカルトを象徴する物質、
「熱意は伝わりまし……いま面白いって聞こえたような」
「空耳だこだわってはいけない。それより話を聞いていて気になった点がある」
三度、席に戻った路希先輩は足を組み、目深に下がった黒い三角帽子を持ち上げる。やはり魔女の格好をしていてこそ先輩だ。
「まずドアの投函口から室内を覗いたとき、玄関に靴はあったか?」
「……そういえば見てませんね」
さっそく盲点をつかれる。靴の確認なんて思いもつかなかった。ただ角度的に
「ピヨも部屋の中ばっかり気にしてたぴよ」
「まあ不法侵入だとして靴を脱ぐとも思えないからな。あくまでも情報のひとつだ。それとピヨ、『気配を感じる』という状態をもう少し具体的に教えてもらえるか?」
しっかりと視線を定めて僕の頭の上に問いかける。本当は見えているんじゃないかと疑ってしまうほど自然な行動だ。
「上手い例えは思いつかないぴよが……温度を調べる
「……だそうです」
ピヨの説明を復唱しながら、僕もへぇそうだったんだと初めて知る。気配が強いほどまぶしくなるのだろうか。
ちなみにピヨの言葉を誰かに伝える場合、語尾は省略する。恥ずかしいから。
「その表現に則れば、部屋全体がきらめいていたわけだな」
「反応にムラがなかったから、発生源が特定できなかったぴよ」
「あの部屋の間取りで死角になる場所はトイレか浴室、台所のシンク下も該当するか……ちなみに結晶の大きさは均一なのか?」
「神の話では特別大きいものはないように聞こえたぴよ」
機能性を考えれば、片手に納まらない水鉄砲なんて撃ちにくくて仕方ない。それに今さらだけれど、あの形にしたのはどんな理由があるのだろう。
「反応の大きさと結晶の体積は比例しないのかもしれない。それは悪霊にも当てはめて考えていいのか?」
「そこに関しては結晶以上に謎だらけぴよ。神も詳しい話はしてくれなかったし、そもそも本当に幽霊なのかどうかも不明ぴよ」
「便宜上呼んでいたに過ぎないからな。ふむ……」
路希先輩が視線を右上に向けることしばし。
「ではこうしよう」
沈黙を切って捨てると羽織った黒いケープをひるがえして、火の球でも出しそうな勢いで右手を僕に突き出した。
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