第114話 Merry Merry Merry ⑧

「ははあ、そういう経緯であの冬の試合に繋がったわけですね」

「ええ」

 

 友恵がインビクタスアムトの専属記者になってから早一ヶ月、この日はリーダーの祭から設立経緯をインタビューしていた。

 

「これからの課題はやはり実績でしょうか? 次はどこの大会やイベントにでるんですか?」

「それはコーチと相談中よ、今は新メンバーが課題になるわ」

「なるほど」

 

 程々のところでインタビューを打ち切り、友恵は帰路につく。自室のPCで内容をまとめあげて編集長へ送信すると、ようやく人心地ついて溜息を長く吐いた。

 この後はアルバイトがある。スポーツマッチは副業を認可しているので生活費には困らずにすんでいた。

 バイトへ行く準備を整え終わった頃、編集長からさっき送ったインタビューについての返信が届いた。時間に余裕あるので開いて確認すると。そこには驚くべき内容が記されていた。

 

『君がメンバーに入るんだ』

「うっそぉ?」

 

 もう一度書くが、スポーツマッチは副業を認可している。それは対象のチームに加入して活動する事も含めている。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「というわけで新メンバーの石橋友恵さんです」

『わーい』

 

 パチパチパチと拍手が響く、あれからトントン拍子に話が進んでいき、なんと三日後にはチーム加入申請がとおってしまったのだ。

 今日はそのお披露目となるのだが、少し前から取材で出入りしていたため全員既に顔見知りとなっている。今更自己紹介も何も無い。

 

「なんと友恵さんは元ラフトボーラーだったそうです!」

「でもボクがラフトボールやってたのは学生時代だから、もう二年ぐらいラガーマシンに触ってないよ」

 

 それでも経験者というだけで有り難いのである。

 

「友恵さんにはポルシェボーイに乗ってもらうわ」

「今日は試乗して調整してもらうつもりさ、何かあれば整備士長の聖に言っておくれ」

「はい、わかりました」

 

 こうして石橋友恵の、記者とアルバイトとラフトボーラーとしての二足どころか三足の草鞋生活が始まったのだ。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 更に数日が経ち。

 インビクタスアムトは大阪で開催された大会に出場していた。この日は石橋友恵のデビュー戦も兼ねている。代わりに宇佐美がレギュラーから外れ、今回はスタッフ席から観戦という形となっていた。

 

『ああっと!! ポルシェボーイがまたフロントの壁を崩したあ!』

 

 友恵はポルシェボーイの特徴であるローラーダッシュを利用して、ノーモーションで力のベクトルを変えて相手を引き倒したり押し倒したり、非常にフロント機体らしからぬテクニカルな動きを見せていた。

 倒した後は直ぐに相手の陣地に押し入ってバックスの壁となるか手近な相手を抑える。その頃にはボールを持ったカルサヴィナや、エルザレイスが投げたボールを取りに来たクイゾウとリリエンタールが攻め入っている。

 もしこれがボールを持ったハミルトンなら相性はかなり良いだろう。

 

『フハハハハ! やるではないかニューカマー!』

 

 これに対抗意識燃やしてるのがポルシェボーイの反対側のポジションにいる風の勇者ソルカイザー、つまり涼一である。

 自分と同じ役割の新入りが活躍しているのを見て火がついたらしく、彼もまた今までにない真価を発揮しようとしていた。

 

『特訓で得たこのウィンドパンチをくらうがいい!』

 

 特訓という名のゲームでよく使っていたストレートを相手のボディにねじ込もうとするソルカイザー、しかし相手はソルカイザーの腕をバシッと叩いて回避し、カウンターでストレートをねじ込んだ。

 あえなくソルカイザーはKOされ、インビクタスアムトのフロントが崩れた。

 

『お互い激しい攻防が続いております!』

 

 辛うじてこの試合に勝つことはできた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 大会に関してはその後の試合で敗北した。しかし一勝できたので実績としては十分だ。

 新設のチームとしては上々の成績を残せている。負けたことは悔しいが、やはり実戦で得られる経験は何者にも変え難い、一つ一つの試合が自分達のスキルを向上させていると実感できる。

 

「兄さん珍しく凹んでるね」

「妹よ、我、もしかしてかなり弱いのではないだろうか」

「弱い」

「ぐはぁっ」

 

 帰路につく途中、珍しくしょんぼりしてる涼一に澄雨が声をかけた。どうやら友恵の活躍を見て奮迅したはいいものの、自分の実力不足を感じて落ち込んだらしい。

 あまりにもズバッと返されたため更に落ち込んでしまった。

 落ち込んでいたのも束の間、涼一は頭を上げて決意の目を澄雨に向ける。

 

「決めたぞ妹よ」

「なにを?」

「修行に出る」

「練習に支障がでない程度にしてね」

 

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