第71話 Bye Bye Friend ⑦


「こいつ急にヘタレおってのぉ」

「健二にはガッカリだよ!」

「おめぇらボロクソだな! クソ!」

 

 チーム脱退を祭に告げられなかった健二は、親友の二人から散々な扱いを受けている。

 

「ともかくこのヘタレに正攻法は無理ってのはわかったね」

「せやな、ここはプラン2でいくで」

 

 というわけで再挑戦である。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 Take2 何の変哲もない話題からさりげなく。

 

 三人が事務所に戻ると、ちょうど書類作業が終わったところらしく祭が出てくるところだった。

 一仕事終えた後なら祭も話を聞きやすいだろう。

 

「よし行ってくる!」

 

 意気込んで歩き進める健二を、宇佐美と武尊は後方から見守る。

 事務所に鍵を掛けた祭の背中にまずはお決まりの話題を振った。

 

「よお九重、今終わったのか?」

「えぇそうよ、何か用?」

「いや、用て程でもないんだけどさ。実は」

「あっ、もしかしてお母さんの事? 聞いたわよ、大変じゃない」

「おう」

 

 これはチャンスである。祭の方から健二の母親についての話題が出るのなら、そこをとっかかりにして淡々と状況説明するだけで脱退の話に持っていける。

 それに気付いた宇佐美と武尊が後方で内心ほくそ笑んだ。

 

「手術すれば大した事ないってさ、まあそれで東京の方の病院に」

「こっこのえさああああん!! 高貴な私とエレガントなデートしながら帰りましょう!!」

 

 唐突に南條漣理が現れて奇っ怪な言葉を発しながら健二の言葉を遮った。

 

「いや、お断りするわ」

「これは手厳しい、僕の高貴オーラがまだ足りないと言うんですね。でしたら今日は九重さんを後ろからこっそり見ながら帰るとしましょう」

 

 人それをストーカーという。

 

「ちょいそこの貴族空気読めや」

「おやおや?」

「ガムテープでいいかな」

 

 漣理が叫んでる間に武尊と宇佐美が彼の両側に立って険しい表情を浮かべていた。宇佐美に至っては杖の他にガムテープがその手にあった。

 もれなく整備棟に漣理が連行されていく。

 数時間後、整備士長の聖によってガムテープで緊縛放置プレイ中の漣理が発見された。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「今のは貴族が悪いで」

「うん、事前に始末しておくべきだったね」

 

 辛辣である。

 

「気を取り直して次行くぜ!」

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 Take3 外堀を埋めていく。

 

「これはワイと宇佐美でメンバーに脱退するかもと言ってく作戦や」

「これで辞める雰囲気を作りやすくするよ!」

 

 というわけで二人は早速、他のメンバーに健二の近況を伝えつつ、健二が辞めるかもしれないと唆していった。

 その結果。

 

「健二! いやアニキ! 何か必要な物があったらあっしに言ってくだせぇ!」

 

 と炉々の兄貴分にされてしまい。

 

「一般市民では苦労しますねぇ、ほらここに電話すればボクの父上の傘下にある金融会社から無利子でお金を借りれるようにしておきますから感謝してください」

 

 貴族からは想像以上の気遣いがおこなわれ。

 

「これ! 私のバイト先の割引券。ごめんね、私これくらいしかしてあげられなくて」

「自分からは愛用してるガソリンスタンドの割引券っす、使って欲しいっす」

 

 心愛とクイゾウからは割引券。

 

「僕達からはお金を、治療費の足しにしてほしい」

「健二君、頑張って、お母さん早く治るといいね」

 

 瑠依と須美子からは諭吉先生が数枚入った封筒が渡された。


「お母さんの事聞いたよ、健二だけ練習は自由参加にしておくから。お母さんの事大事にしてやんな」

「私からは何もしてあげられないのは残念ですが、早くよくなるよう願います」

「ぐっ、我の右手に神の治癒能力が宿っていない事を今ほど悔いた事はない!」

 

 恵美からは練習の調整、澄雨からは労いの言葉、涼一は何故か強まった厨二発言を。

 三者三様、宇佐美と武尊の裏工作はこのように健二への気遣いで溢れかえる結果となった。

 

「めちゃくちゃ言い辛くなったんだけどぉ!?」

「ごめんて」

「反省」  

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