第66話 Bye Bye Friend ②


 メンバー全員が格納庫に集まって、コーチの恵美が最初に命令したのが新メンバー2人による機体紹介だった。

 11番ハンガーにかけられた機体を見上げる。小さい機体だった。

 おそらく宇佐美のハミルトンと同じくらいではないだろか、銀色を基調としたカラーリングであり、チームカラーの赤は肩と腰周りと肘膝にペイントされている。

 小柄な機体だが細身というわけでもなく、脚部が一回り太く設計されてるためドレスを着ているような印象を受ける。

 そして普通のラガーマシンと違い、ブースターが腰と足首についていた。

 

「ほお、これが澄雨ちゃんの機体でありやすか」

「はい、カルサヴィナといいます。主に相手の動きを妨害するのとパス繋ぎのために動きます」

「あ、扱いが難しそうでありやすね」

 

 枦々のヘイクロウはマルキヤブランドの最新機種より一つ前の型を改造したもので、操作方法や機体スペックは従来通りの扱いやすいものになっている。そのためクセが強く運用方法も異なるカルサヴィナを見てやや戸惑っている。

 実際、傍目にはわかりづらいが関節が異様に多く不可思議な動きを可能とするので扱いづらい。

 むしろ速いだけのハミルトンの方が楽かもしれない。

 

 カルサヴィナの紹介はここまで、次は涼一の機体だ。 

 

「こ、これはマジっすか」

「攻めすぎちゃう?」

 

 クイゾウと武尊が辛うじてツッコミをいれる。

 12番ハンガーにかけられた涼一の機体はとても危ないものだった、主に著作権的な意味で。

 大きさは6mちょうどぐらいと大きい、元々フロント機体として改造してるため当然といえば当然である。また構造はシンプルなブロックを積み重ねた物なため整備がしやすい。

 そこまではいい、だが。

 

「なんで胸にライオンつけてんだよ」

 

 健二が突っ込んだ、突っ込まずにはいられなかった。そうこの機体には胸にライオンのシンボルが付いていたのだ。

 それだけではない。

 漣理が前に出て得意げに説明を始める。

 

「ふ、下等市民はこれだから目のつけどころが甘い、よくご覧なさい、両肩に新幹線がついてるではありませんか、まさにエレガント。平民ですがその美的感覚は評価に値します」

「当然だ」

「いやいやいや、これどうみてもガ○ガイガーのパチモンじゃねぇか!」

「いや待つんだ健二君」

「瑠衣先輩! 瑠衣先輩からも何か言ってやってください!」

 

 瑠衣は神妙な面持ちで機体を見上げ、しばらくそれを観察したあと何かに気付いたような、どちらかといえば何かの確証を得たかのようなスッキリした顔つきになった。

 どこか嫌な予感がした健二は一歩後ずさる。

 

「胸のライオンの形はどちらかというとエ○スカイザーだ!」

「くっそこまけぇこたぁどうでもいいんだよぉ!!」

 

 今日も健二のツッコミはキレてる。

 

「でも正直勇者要素といえるのはライオンと新幹線だけなのよね。膝にドリルついてたら一発アウトだったけど」

 

 腕を組んで冷静に見やっていた祭が言う。それにこの機体には独特のものもある。

 

「首に巻いたマフラーのおかげで多少はマシに見えるでしょ?」

「せ、せやな」

 

 青いマフラーを巻いているのだ。このマフラーは自在に動かす事ができ、オールレンジ攻撃を可能としている。加えて手には大きな手甲をつけており、指まで隠している。

 これは単純にボールをとることや掴み合いをする事を前提としておらず、ただ相手を殴り倒してバックスの道を作るためにこうなっている。

 

「ちなみに名前はなんて言うんだ?」

 

 その問いに待ってましたと言わんばかりに涼一が声高らかに宣言する。一言発する度に大仰な仕草をつけて。


「聞いて刮目せよ! 我が分身となりしサーヴァントの名は! そう! 風の勇者ソルカイザーだ!!」

「やっぱ勇者パクってんじゃねえか!! 思っきりパチモンじゃねえか」

「しかもマフラーが青いせいで寒そうにみえんで」


「さしづめ、風の勇者ならぬ……風邪の勇者でありやすね」

「中々上手いこというね、座布団あげようか?」

「気持ちだけ受け取りやす。瑠衣先輩」

 

 と、カッコよくキメた筈なのに方々からディスられ、笑われてしまった風の勇者ソルカイザー。

 当のパイロットである涼一はそれらの言葉を受けて。

 

「うっ……ぐずっ……うぅぅ、 風邪じゃ、ひっ……うぅ……ないもん、ぐすっ」

 

 ガチ泣きしていた。

 これには流石の彼等も反省したようで、慌てて全力謝罪を繰り返して涼一をなだめ始めた。

 

「ほ、ほら下等市民がイジめるのがいけないんですよ!」

「わ、悪かったよ、ソルカイザーめちゃくちゃカッコイイな!」

「せ、せやせや。パワフルで頼もしいわあ」

 

「あっしもこんなカッコイイのは初めてでありやす」

「ごめんね涼一君、言いすぎたよ」

「う、嘘だ……そんな事思ってないんだあ……うぅ」

 

 どうも涼一はすっかりイジけてしまったらしい。

 100%健二達が悪いのでここは彼等に任せて他のメンバーは先にコーチの元へ。

 恵美のところへ戻る最中、ふと祭が思い出したように足を止めて心愛と須美子と澄雨とクイゾウに尋ねてみた。

 

「さっきから宇佐美君の姿が見えないけどどうしたのかしら?」


 実を言えば常に健二と武尊と宇佐美のトリオが見られてないのだ。彼らはいつも一緒にいるイメージだが、今は宇佐美だけ見当たらない。

 答えたのはクイゾウだった。格納庫の隅の方を指さして言う。

 

「ウサミンならあそこっすよ」

 

 指し示した場所にはパイプ椅子にぐったりと座る宇佐美の姿があった。

 心無しか少し白い。

 

「さっきから燃え尽きたって言ってる」

 

 須美子が耳を澄ませてそう言った。結構な距離があるのだが、どうやら彼女は聴力が凄くいいようだ。

 

「灰になったのか」

「ぐったりしてるけどホントに大丈夫かな宇佐美」

 

 心の底から心配する心愛を横目に、元凶である澄雨は彼女達から一歩引いた場所で胸の前で合掌して。

 

「ごめんなさい、宇佐美先輩」

 

 と心にもない謝罪をした。

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