番外編15〔恋の形は、三角?四角?〕
番外編15〔恋の形は、三角?四角?〕
「ラウクン王子?!」
「ラウクン王子?!」
僕とミウは、イサッチと一緒に居た警備員を見て、一斉に叫んでいた。
すると、その警備員も、僕達を見て、
「アハハハ…あなた方もですか?そんなに似ている人がいるんですね。」
と、少し困ったような顔で答えた。
確かによく似ていた。服装や髪の色は違うが、体型や優しそうな表情は、ラウクン王子そのものだった。
イサッチはというと、その男性の腕をしっかりと掴み、離したくないという想いが顔に表れている。
母さんはというと、半ベソでイサッチに近寄ると、
「よかった~!伊佐江さんが居た~!!」
と、イサッチに抱き付き喜んだ。
「良かったですね。お友達に会えて。」
男性はイサッチに優しく言葉をかけると、イサッチを母さんに預けた。
「それでは、僕は失礼致します。引き続きお買い物を楽しんで下さい。」
と、男性は僕達に一礼すると、クルッと反対方向を向き、歩いていった。
僕とミウは、顔を合わせながら、
「本当にラウクン王子かと思った。」
「私も…ビックリしちゃった。」
と、改めて驚いていた。
イサッチはというと、名残惜しそうに、男性の背中を見続けていた。
「もう、伊佐江さん、いきなり居なくなるから、ビックリしちゃったじゃい。」
と、母さんが言うと、
「ごめんなさい。セラさん。知り合いにとてもよく似た人を見つけたもので、つい…」
と、シュン…とした表情で答えた。
僕はそんなイサッチが可哀想になり、
「でも母さん、あそこまで似てたら、追いかけたくなるのもムリないよ。本当にソックリだもん。」
すると母さんは、
「あら?太郎はその『ラウクン王子』に会ったことがあるの?外国の王子様でしょ?」
僕は慌てて、
「いや…写真、写真で見たことがあるんだ。ミ、ミウが持っていた写真で…」
するとミウが、僕を覗き込みながら、
「ねえ?太郎、シャシンて?」
僕は、ミウの頭をポンポンと撫でながら、
「さっきの人が『ラウクン王子』にソックリだったって事。そうだよね?」
と、自分でも何を言っているのか、わからなくなっていた。するとミウが、
「そうそう、本当によく似てました。本人かと思いましたよ。」
と、改めて母さんに訴えてくれた。
僕はなんとかその流れを変えようと、
「ほらほら母さん、早く買い物をしないと、晩ご飯が遅くなっちゃうよ。
智恵葉も帰ってくるし。」
すると母さんは、僕の困っている顔を見ながら、イタズラっぽく笑みをうかべると、
「智恵葉なら大丈夫よ、友達と晩ご飯は食べて帰るって言ってたから。」
と、僕に言ってきた。僕はすかさず、
「じゃ、じゃあ、晩ご飯をここで食べない?」
「あら!それもいいわね。伊佐江さん、ミウちゃん。晩ご飯はここで食べる?」
すると、イサッチとミウは、すぐに、
「はい!セラさん!」
「はい!お母さま!」
と、2人同時に答えた。
それから少しの間、他の店を回り、買い物をしたのだが、イサッチは落ち着かない様子で、辺りをキョロキョロしながら歩いていた。
それに気が付いた母さんは、
「あら?伊佐江さん。どうかしたの?何か気になる事でも?」
するとイサッチは、慌てて、
「い、いえ。なんでもございませんわ。何を食べようかしら?楽しみ~。」
と、洋服を手に取りながら言った。
僕は内心焦っていた。イサッチがさっきの警備員を探しているのは、あきらかだったからだ。
よりによって、ラウクン王子ソックリの男が居るなんて…
しかも、イサッチと出会ってしまうなんて…
まさかの事態に、とりあえずこの場所から離れたかったのだが、ミウも楽しみにしてたので、すぐに帰るわけにもいかなかった。
結局、それからのイサッチは『心ここにあらず』という感じだったが、レストランに入るやいなや、いつもの慌ただしいイサッチに戻った。
ミウとイサッチは、メニューを見ながら、僕にいろいろ聞いて来たが、説明するのが難しいので、とりあえず適当に頼み、みんなで別けることにした。
『カレーライス』に『グラタン』『ラーメン』に『炒飯』
ミウとイサッチは、どれも美味しそうに食べていた。『炒飯』はユーリセンチにも、似たような食べ物があるみたいだが、味が段違いに、こっちの方が美味しいと言っていた。
当然、食後のデザートを頼んだのは言うまでもない。
その日は少し遅くなったので、タクシーで帰ることにした。
タクシー乗り場に行くと、ちょうど1台のタクシーが止まっていた。
僕達が近づくと、運転席のドアが開き、運転手が降りてきた。
すると、母さんが、
「あら?あなたは…」
運転手は、母さんに一礼すると、
「お荷物をお持ちします。」
と、母さんやイサッチが持っていた紙袋を受けとるとトランクを開け、中に入れた。
僕は、母さんの様子と、車の車種を見て、ミウに尋ねた。
「ねえ?ミウ、これって、もしかしてこの間のタクシー?」
するとミウは、
「うん、そうみたい。同じ人だから。」
そして運転手は、トランクを閉めると、
「さあ、どうぞ。お乗り下さい。またお会いしましたね。」
と、後ろのドアを開けながら、イサッチに声をかけた。
母さんは助手席に、僕とミウとイサッチが後ろに座った。
さすがに3人座ると窮屈だったが、ミウと密着してるので、それはそれで嬉しかった。僕とミウは、誰にも気付かれないよう、手を繋ぎ、たまに体を寄せあった。
家に着くまでの間、運転手は、母さんやイサッチと楽しそうに雑談をしていた。確かに、この運転手も、イケメンで、優しそうな男性だった。
僕は、心の中で、
「頼むから、イサッチにちょっかい出すなよ~。」
と、思っていたのだが、その想いはあっさり裏切られた。
家に着くと、僕達が車を降り、母さんがお金を払っていた時、運転手が名刺を母さんに渡しながら、
「もし、またタクシーが必要な時には、連絡してください。」
と、言いながら2枚の名刺を母さんに渡した。
1枚は『伊佐江さん』にということだった。
そして運転手は、前と同じように、荷物を持つと、家の玄関まで運んでくれた。
家には妹がすでに帰っており、部屋の電気がついていた。
母さんが玄関を開けると、「ドタタタタタ…」と妹が駈け下りて来て、
「おかえり~…?」
と、言いながら固まった。
というのも、母さんの後ろには、荷物を持ったイケメン男性が居たからだ。
運転手は、妹を見ると、
「こんばんは。」
と、ニコリと微笑みながら、挨拶をした。
「ここここここここんばんは…」
妹は、挨拶をしながらも、恥ずかしいのか、徐々に後退りをした。
そして運転手は荷物を玄関に置くと、
「またのご利用、お待ちしております。」
と、深く頭を下げながら言った。しかし、目線はしっかりとイサッチに向いていたのを僕は見逃さなかった。
運転手が居なくなると、妹が飛び出して来て、母さんに詰め寄った。
「さ、さっきの人!誰?!カッコイイ~!」
すると母さんは、妹のハイテンションとは正反対に、
「ん?ほら、この間話したでしょ?タクシーの運転手さんよ。」
と、冷静に答えた。すると妹は、
「ど、どこが『お父さん』や『お兄ちゃんの方がステキ』なの!どう見ても、さっきの人の方がステキでしょうが!」
と少しキレぎみに母さんに言い放った。
すると母さんは、
「そう?お父さんの方がステキだったと思うんだけどな。」
と、母さんは母さんで譲らかった。そして何かを思い出したように、
「あ、そうそう、さっきの運転手さんから、これを伊佐江さんに渡してくれって頼まれてたんだ。」
と、財布から貰った名刺を出して、イサッチに渡した。
それを見た僕は、
「やっぱり…あの運転手、イサッチに気があるに違いない。
僕も男だからわかる!あの目は恋をしてる目だ!
まったく、イサッチってば、なぜか年下に人気があるんだよな。確かに綺麗だし、眼鏡を変えたらより可愛くなったし。
しっかりしてるようで、どこか抜けている所も、なんかこう『守ってあげないと』って気持ちになるんだよな。
もし、僕もミウと出会う前にイサッチに会っていたらきっと…
って、何を考えているんだ僕は!
僕の心の中に居るのは『ミウ』だけだ!ミウ大好きだよ。」
と、1人で妄想にふけっていると、いつの間にか玄関には僕だけになっていた。
まあ、冷静に考えれば、携帯を持っていないイサッチに、番号を渡そうが何をしようが、イサッチからは何も出来ないし、イサッチから連絡が無ければ、運転手もイサッチとの距離を縮める事は出来ないだろう。
この間、イサッチに運転手の事を聞いた時には、たいして気にもとめてなかったような感じがしたから、安心はしているのだが…
どちらかというと、イ○ンの警備員の方が心配だった。
僕の心配を裏付けるように、イサッチの行動が、少しずつエスカレートしていった。
母さんには、なるべくあの2人には会わせないようにと、念を押していたのだが、イサッチの素性をまったく知らない人間が、身近に居たのを僕はすっかり忘れていた。
まさかそいつのせいで、イサッチと警備員が2人きりで会うことになるとは、その時の僕は想像もしていなかった。
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