第20話〔勇者の条件〕
第20話〔勇者の条件〕
僕とスラインが、国王の所に向かっている頃、
チェスハは、やっとの思いで衛兵30人を倒していた。
「ハァ、ハァ…ハァ……、ど…、どうだ!残るはお前1人だ…」
「なかなかやるな、国王の護衛として、強い奴ばかり集めたんだがな。」
「は!それが「ユーリセンチ」の最強か、どうりでオリアン達に負ける訳…だ。っとっと…」
「ん?どうしたチェスハ、足がふらついてるぞ、肩を貸してやろうか?ハハハ!」
「う、うるさい!ちょっとつまずいただけだ!!」
強がってはいるが、チェスハの体力は限界に来ていた。最後の力を振り絞り、立っているのが精一杯だったのだ。
「さて、そろそろ終わりにさせて貰おう。仲間が来たら面倒だ。」
シクサードは、大きな剣を両手に持ち直すと、水平に構えて息を整え、一気に襲いかかった。
「うおおおおおお~~~!!!」
「ガキッ!!」
「くっ……」
「ほう?まだそんな力が残っていたのか。」
チェスハは方膝をつきながらも、かろうじて棍棒で剣を受け止めていた。
「くっ…!く…く……」
「ならば、これならどうだ!」
「ドゴッ!!」
「かはっ!!ゲホッゲホッ…」
シクサードは、チェスハの腹に蹴りを入れた。
そして髪の毛を掴み、無理矢理立たせると、
「諦めて言うことをきけ、そうすれば優しくしてやるぞ。」
「ペッ!」
チェスハは血の混ざった唾をシクサードめがけて吐くと、
「ヤルときは気を付けてヤれよ、お前の粗末な物を噛み切ってやるからな!」
「まだ、へらず口を叩くか!」
「ドガッ!!」
「ぐっ!!!」
もう1度蹴りを食らったチェスハは、後ろに吹き飛んだ。
「手足の骨を、へし折ってくれるわ!!」
シクサードは、もう一度剣を振りかぶった。
「く…くそっ…も、もう…から…だ…が…」
チェスハが、諦めかけたその時、チェスハの目に、黒い塊が落ちて来るのが見えた。
「ドッゴッ~ン!!!!」
その黒い塊は、ちょうどチェスハとシクサードの間に落ちてきた。
「な!なんだ!?」
シクサードは2、3歩後ずさりをし、落ちてきた塊を見た。
その塊は、すぐにもぞもぞと動き出し、ゆっくりと立ち上がった。
するとチェスハが、
「…オリアン…か?」
オリアンはすぐにチェスハの側に行き、
「ハデにやられたな、大丈夫か?」
「遅い!!!女を待たせるなんて、最低だぞ!」
「お前と待ち合わせをした覚えはないんだがな。まあいい、立てるか?」
「ちょ、ちょっと待て、少し…休ませろ…。」
「わかった、ちょっと待ってろ、アイツを片付けて来る。」
オリアンは立ち上り、シクサードの真正面に立った。
するとシクサードは剣を構えて、
「オリアン、今度はお前が相手か。」
するとオリアンは、
「バカヤロウ!今の衝撃で、身体中の骨がミシミシ言ってんだよ!立っているだけで精一杯だ!!!」
それを聞いたチェスハは、
「ハァ~??お前、一体何をしに…あっ…」
一瞬、呆れ返ったが、自分が殺られそうになったのを見て、無謀な高さから飛び降りたのだと悟った。
「ハハハハ!たかが女1人の為に命を投げ出すとはな、望み通りにしてやるよ。」
シクサードは再び剣を構えた。
「バ~カ、慌てるんじゃねぇ、お前の相手は俺じゃねぇ、コイツだよ。」
と、オリアンが言ったと同時に、ラウクン王子を乗せた『黒龍』が舞い降りた。
「こ、こ、黒…龍…だ…と?」
シクサードの驚きはハンパではなかった。
黒龍から降りてきたラウクン王子は、
「シクサード!!これは一体何の真似だ!
オリアン達が言っている事は本当なのか!!」
そう言いながら、ラウクン王子はシクサードに詰め寄った。
少し前、オリアンは、計画通りに僕とチェスハを降ろしたあと、そのまま飛んで、ラウクン王子の所に行っていたのだ。
橋の上に追いやられたラウクン王子の軍勢だったが、それでもなお抵抗を止めず、まだ戦いは続いていた。
そんな時、空からオリアンの乗る黒龍が現れた。
そして、オリアンが空から叫んだ。
「ラウクン王子!!これ以上抵抗するなら、橋ごとお前たちを焼き尽くす!
それにだ、お前達が命を懸けて守っている『国王』は、お前達を見捨て、国を捨てた!!」
「ゴオォォォ~~!」
黒龍は、空にめがけて、おおきな炎を吐いた。
王子は、最後まで剣を離さなかったが、他の者は黒龍が現れた時点で、戦意を失い、武器を湖に投げ捨てていた。
それでも、なかなか剣を離さないラウクン王子にオリアンは、
「これ以上戦っても、お前の仲間が死ぬだけだぞ!お前は国を守りたいのか、国の民を守りたいのか、どっちだ!!
一緒に来てみろ!国王の本当の姿を見せてやる!」
オリアンの叫びにラウクン王子は、ついに剣を置き、
「わかった、一緒について行こう…」
ラウクン王子は、黒龍に乗り、国王の所に向かう途中、オリアンから国王のやっていた悪事をすべて聞かされた。
シクサードに詰め寄った王子は、
「お前も、国王とグルだったのか!お前もすべて知っていたんだな!!」
胸ぐらを掴み、詰め寄って来る王子に、シクサードは、王子の手を掴み払い除けると、
「ドガッ!!」
チェスハと同様に、王子を蹴り飛ばした。
「ぐはっ!!」
オリアンの足元まで吹っ飛んだ王子は、
「もう許さん!腐った性根を叩き直してやる!!」
その言葉を聞いたシクサードは、
「ハハハハ!!誰が誰を叩くって?
お前に剣を教えたのは、この私だ!まだまだヒヨッコのお前が、私に勝つつもりか?
それにな……ぷっ、アッハハハハハ!
お前は、丸腰で戦うつもりか?笑わせるな!!」
「あ!し、しまった!」
ラウクン王子は、橋の上に剣を置いてきたままだったのだ。
慌てるラウクンを宥めるかのように、オリアンが肩に手をかけた。
「まあ、待てラウクン王子、俺達の本当の敵は、あの馬車の中に居る国王だ。
ここは俺に任せろ。」
すると再び、シクサードの前に立ったオリアンは、
「お前、ちょっと邪魔だ!空の散歩でも楽しんで来い。」
そう言うと、オリアンは黒龍に「アイツをつまんで、空で振り回せ。」というようなジェスチャーを指を使って見せた。
すると黒龍は、「ガオッ!」と一言鳴き、ドスンドスンと、シクサードの前までやって来た。
「ひ、卑怯だぞ、オリアン!せ、正々堂々と、た、戦え…」
「ふん!何が「正々堂々」だ、先にドラゴンを使ったのはお前らじゃねえか。」
「お、俺達の使ったのは「赤い」ドラゴンだ!「黒」じゃない。」
「色なんて関係ねえ、ドラゴンはドラゴンだ。
つべこべ言わず、空の景色を楽しんで来い。」
そしてオリアンは「パチン」と指を鳴らした。
その瞬間、黒龍はヒョイと、シクサードを摘まんだかと思うと、あっという間に、空高く舞い上がった。
「う…うわぁぁぁぁ~~~!!!
は、離せ!離せ!あ!い、いや、離すな~!わぁぁぁぁぁ~~~…」
そして、その黒龍を目印に、バラバラに散らばって人質を救出していた、ファン達が集まってきた。
その中には、ミウの乗っている馬車もあった。
ミウは、倒れているチェスハを見つけると、馬車を降り、駆け寄った。
「チ、チェスハ!大丈夫!?」
「ああ、ミウか…良かった無事だったんだな…」
「もう、無茶して…ほら、お水飲んで。」
ミウは持っていた水をチェスハに飲ませた。
「プハ~、ありがとう。生き返ったよ。ところでタロンは一緒じゃないのか?」
するとミウの表情は、一気に暗くなり、
「うん…私を助けてくれたあと、ジプレトデン王国の軍隊が来て、それを止めに行ったの…」
「なに!ジプレトデンのヤツがもう来てやがったのか!?って、1人で止めに行っただぁ?3万人いるんだぞ?
おい!オリアン!」
チェスハはオリアンに急ぐよう促した。
するとオリアンは、
「おい!国王!隠れていないで出て来い!!
お前の味方は誰も居ない!このままここで八つ裂きにしてやってもいいが、命だけは助けてやる!
国に連れて帰って、晒し者にしてやるからな。覚悟しろ!!」
するとラウクン王子も、
「父上!仮にも一国の王なら、責任はきちんと取って貰います。最後に国王らしい事をしてください。」
ラウクン王子の話が終わると、馬車の扉が静かに開いたかと思うと、そこから慎妙な面持ちの国王が姿を現した。すると国王は、
「す、すまなかった…、ラウクン。私が悪かった…で、でも聞いてくれ、私も脅されていたんだ!ジプレトデンの国王に「言うことを聞かねば、王子を…お前を殺す」と。」
「な、なんだって?」
ラウクンは絶句した。
「ラウクン!そんなヤツの言うことを真に受けるな!
そうやって、みんなを騙していたんだぞ!」
すると国王は、土下座をしながら、
「ほ、本当なんだ!信じてくれ!シクサード、そう!シクサードが、ジプレトデンの密偵なんじゃ!
あいつはいつもわしの側に居て、わしが裏切らないか監視をしてたんだ!
か、金は受け取ってない。ひ、人質は、王子を、国を守るため、泣く泣く差し出したんだ!」
「そう…だったんですか…」
ラウクン王子は、国王の側に行き、
「父上、お立ち下さい…。私を国を守るためとはいえ、国民を犠牲にしたのは事実です。その責任は取らなければなりません。
もう1度、我々がひとつになって、人質を取り返しましょう。」
国王は、涙を流しながら、
「おお~…わしを許してくれるのか?
わかった!力を合わせて、売り飛ばした人質を助けようではないか。」
国王はラウクン王子の手を取り、握手をした。
「ん?」
その時、オリアンの耳がピクリと動いた。
「おい!じじい!今、「売り飛ばした」って言ったよな!」
すると国王は、「しまった」と言う表情と共に、「チッ」っと舌打ちをし、隠し持っていた短剣をラウクン王子の首に押し付けた。
「これだから、獣は好かん!すぐに挙げ足を取りおる。
ラウクン、お前もじゃ、お前の甘さは国の指導者には向かん!
街で死んでおれば、国王を命を懸けて守った英雄として死ねたものを。つくづくバカな王子じゃ。」
国王は王子を人質に、ジリジリとオリアンから離れて行った。
するとラウクンは、
「オリアン!構わん、私ごと国王を倒してくれ!
こんな一族の血が流れているかと思うと、生きているのが恥ずかしい!
この腐った一族をここで終わりにしてくれ!頼む、オリアン!!」
「ええい!うるさい!黙れ!!」
「ガンッ!!」
国王は、持っていた短剣の柄で、ラウクン王子の後頭部を殴った。
するとオリアンの耳が、またピクリと動いた。
「ヤバイ、来やがった…」
オリアンが振り向くと、土煙と共に、「ドドドド」と、馬の大群の音が聞こえて来た。
土煙はどんどん大きくなり、地平線を埋め尽くしながら、こちらに近づいて来た。
するとチェスハが、
「くそ!タロンでも止められなかったのか…」
その大軍を見た国王は、もう一度、ラウクン王子を殴り、その場に置き去りにして、大軍に向かって走って行った。
「お~い!ここじゃ!ここじゃ!待っておったぞ。早くあいつらを殺ってくれ!」
ラウクン王子の側に駆けつけた、チェスハは、
「どうする?オリアン、相手は数千、いや数万はいるぞ。」
「仕方ねえ、やるしかねえだろうな。黒龍に雑魚を任せて、俺はスラインとやる。
お前は、無理せず見てろ。王子はお前に任せるぞ。そいつはこの国に必要だ。
ミウとか言ったな、猿姫を見張っててくれ!そいつはすぐ無茶をするからな。」
オリアンは立ち上がると、
「ピィ~~~!」
指笛で飛んでいる黒龍を呼び寄せた。一緒に飛んでいたシクサードは、失禁をし、気絶していた。
「気を付けろよ、オリアン…」
「ああ、任せろ、この国は俺が必ず守る!」
オリアンとチェスハは、再び拳を合わせた。
「よし!動ける者は俺と一緒に来い!他の者は1ヶ所に固まっていろ!行くぞ!!!」
「おお~~~!!!」
オリアンを先頭に、一斉に走り出した獣族だったが、オリアンの足がいきなり止まった。
「ちょっと待て!みんな!」
両手を広げ、みんなを制止したオリアンを不思議に思ったチェスハは、王子をミウに任せ、オリアンの側に行った。
「どうしたオリアン?なにかあったのか?」
「あれを見てみろ。」
オリアンの指差した方向を見てみると、明らかに様子のおかしい国王の姿があった。
王子を殴り倒し、一目散にジプレトデンの軍隊の前まで走った国王は、スラインの姿を見つけるなり、
「おお~、スライン。待っておったぞ、早く早くヤツラを倒してくれ!」
するとスラインは、
「すいません、国王。それは出来かねます。」
「なんじゃと!?お主らはユーリセンチを攻めに来たのじゃろ!アイツらはユーリセンチの人間じゃ、早くヤツラを倒してくれ!」
そこに、僕が口を挟んだ。
「はじめまして国王様。」
「なんじゃ、お主は?見ない顔じゃな、スラインの新しい部下か?」
「いいえ、ユーリセンチの使いの者です。
先ほど、ユーリセンチ王国とジプレトデン王国は、兄弟国の約束を交わしました。」
「な、なに!そんなバカな!本当なのか?スライン?」
「本当ですよ国王、貴方の味方は、もう誰もいません。」
すると国王はスラインから視線を外し、僕を見ると、
「き、貴様はいったい…」
国王がすべてを言い終わらないうちに、
「ミウと一緒に、この国に来た『タロン』ですよ!」
僕は国王を睨み付けながら言った。
「な、なに!き、貴様があの『タロン 』か!?」
国王は、シクサードから僕の話は聞いていたが、お互い顔を会わせるのは、これが初めてだった。
僕は馬車を降りると、
「ミウに酷いことをしたみたいですね、これはそのお返です!!!」
僕は持っていた鞄を振り回し、国王をぶん殴った。
「ドッゴッ~ン!」
「グハッ!!!」
まともに鞄を食らった国王は宙を舞い、オリアンの足もとまでぶっ飛んだ。
僕は、大きく手を振り、オリアンとチェスハの名を呼んだ。
「お~い!オリアン~!チェスハ~!」
するとオリアンとチェスハは、僕に気付き、
「お、おい、あれって?」
「あ、ああ…」
「タロウ?」
「タロン?」
そして、僕はジプレトデンの大軍を引き連れ、みんなの前まで歩いてきた。
ポカーンとしているオリアンとチェスハをよそに、ミウが僕に抱き着いて来た。
「ただいま、ミウ。」
「お帰りなさい。タロン…」
まだ驚いているチェスハは事態が飲み込めず、
「お、おま…な、なん…ジプレトデンデン…」
そんなチェスハを見かねたオリアンが、
「お前はなんで、ジプレトデンの軍隊と一緒にいるんだ?しかもスライン将軍の隣に座っていただろ?」
「さっき、友達になりました。」
僕があっけらかんに言うと、オリアンが少し間を開けて、
「プッ!アッハハハハハハ!!
おい、聞いたかチェスハ、こいつ軍隊を止めるどころか、と、友達になりやがっただと。アハハ!」
すると馬車の上から、スラインが、
「藍色のオオカミ…お主が『最凶オリアン』か、その隣に居るのが、『真紅の猿姫』だな。2人の噂はよく耳にする。」
すると負けじとオリアンも、
「貴様が、あの『豪剣スライン』か、異国の「ゲンワー王国」を、殆ど1人でぶっ潰して、傘下にしたそうじゃねえか。
1度手合わせしたいと思っていたんだよ。」
するとスラインも、
「私も、お主とは会いたいと思っていた。最凶の腕がどれ程のものか試してみたいとな。」
「ほう、話が早いな、幸い回りには何も無い、思いきり暴れるには絶好の場所だ。」
「ふふふ、お主も相当な戦闘バカだな!わかった!
と、言いたい所だが、見ての通り武器がない。」
オリアンは改めてスラインや他の兵士を見たが、誰一人として、武器らしい物は持っていなかった。
「はあ?お前ら、武器も持たずに、ユーリセンチを攻める気だったのか?」
「いいや、さっきも言ったろ、『タロウ』と友達になったと。
それに、我がジプレトデン王国とお主達のユーリセンチ王国は兄弟国の約束を交わした。
今回は『表敬訪問』だ、武器は途中で置いてきた。
まあ、ほとんどは、この男に叩き壊されたがな。」
「なに!?アイツまたやりやがったな?」
オリアンは、僕を見ながら呟いた。するとチェスハが、
「また?」
「あ、いや、なんでもねえ。
それにしてもタロウよ、よくスラインと仲良くなれたな?」
オリアンの問いかけに僕は、
「え?ちゃんと話をしたら、わかってくれましたよ。」
するとスラインが、
「実はな、俺の娘がこの『ジャム』とやらを気に入ってしまってな。」
スラインは空になった瓶を、懐から取り出し見せた。
するとチェスハが、
「あ!そ、それは!…コノヤロウ、やっばりまだ持っていやがったのか!」
と、フラフラになりながらも、僕に詰めよって来た。
「切り札は、最後まで取って置かないとね。」
僕はチェスハに、ウインクをしながら言った。
すると、スラインの乗っている馬車の後ろに居た馬車の窓から、ニーサが顔を出した。
それを見たチェスハは、
「ダシール??」
ニーサを見て、目をパチクリさせているチェスハに僕は、
「違いますよチェスハさん、スライン将軍の娘さんで「ニーサ」ちゃんです。」
改めてニーサちゃんを紹介した。するとスラインは、
「娘がこの男を気に入ってしまってな。友達にならなければ、「キライになる」とまで言われてしまったんだよ。」
するとオリアンが
「『豪剣スライン』も娘には勝てないか。ハハハハ。」
「それにな『ジャム』より美味い飲み物があるとも聞いたのだが、オリアン、お主知ってるか?」
「飲み物?『オサケ』のことか?」
「ほう?それはどんな飲み物だ?」
「口じゃ説明出来ねえよ、とにかく身体中に「ガツン!」とくる飲み物だ。あれを飲んだら、『サタン』なんて、ガキの飲み物だ。」
すると、隣で話を聞いていたチェスハが、
「なんだ?なんだ?ジャムより美味しい飲み物だと!!
タロン!そんな物まで作っていたのか?」
「ハハハ…まあ、ドラゴンを仲間にするためにね。」
「おい!オリアン。あたしにも飲ませろ。」
「ああ、いいぜ。みんなで飲もうぜ、人質を取り返した祝いだ!ただし、ぶっ倒れても、知らないからな。
タロウなんか、二口でぶっ倒れたんだ。ハハハ!」
と、そこに、ファン達の肩を借りて、ラウクン王子がやって来た。すると、スラインが、
「ラウクン王子、久しぶりだな?傷は大丈夫か?
済まなかったな、国王の口車に乗せられてたとはいえ、酷いことをした。」
「お久しぶりです。スライン将軍、話はこの者達から聞きました。
『兄弟国』の約束を交わしてくれたそうで。」
「ああ、追って正式な文書を渡す。
ところでラウクンよ、お前の国は『黒龍』のみならず『悪魔』とも契約を交わしたのか?」
「は?悪魔…?ですか?」
「そこにいる『タロウ』とか言う男よ。悪魔でないなら、バケモノよの。」
すると、オリアンが、
「アハハハハハ!違いねえ、バケモノだ!アハハハハハ…」
すると、ミウが、
「違います!タロンは、私の勇者です!」
と、僕の手を握ったまま言った。それを聞いたオリアンは、
「ああ、悪い悪い、そうだったな。でも、ちょっと違うぜ、お嬢ちゃん。
タロンは、この国全体の勇者だ。そして俺達の仲間、いや家族同然だ!」
と、その時!
「う…う~…ん…」
僕に鞄で吹っ飛ばされて気絶をしていた国王が目を覚ました。
すると、オリアンは、
「なんだ、生きてたのか。まあいい、すぐに「ここで死んでおけばよかった」と、思うようになるぜ。
おい!こいつを縛り上げろ!」
そして国王は、両手を後ろ手に縛られ、捕まった衛兵たちが乗る馬車に連れて行かれようとしたその時!
「ちょっと待ってくれ!」
チェスハが声をかけ、引き止めた。
そして、国王の前まで行くと艶かしい声で、
「なあ、国王、そんなにあたしとヤりたかったのか?」
すると、国王は、
「ふん!せっかく甘美な夜にしてやろうと思っていたのにな!」
「ふ~ん、そんなに刺激が欲しかったんだ。
それじゃ最後にサービスしてやるよ。」
そう言うと、チェスハは国王の股間に手を伸ばすと見せ掛けて、
「これでも食らいな!!!」
「ゴッ!!!」
チェスハは、ありったけの力を込めて、国王の股間を蹴りあげた。
「ぐがっ!!!」
小太りながら、80キロはあるであろう国王の体が宙に浮いた。
股間を蹴りあげられた国王は、白目をむき、口から泡を吹きながら地面に倒れこんだ。
その光景を見ていた、回りの男達は、震えながら股間を押えチェスハを見た。
それに気が付いたチェスハは、
「ん?なんだお前ら、お前らも刺激が欲しいのか?」
「ふるふるふる……」
男達全員が首を振った。
「ふ~っ……」
チェスハは、大きく息をつくと、地面に座り込んだ。
「お、おいチェスハ、大丈夫か?」
オリアンは、心配そうに声をかけた。するとチェスハは、
「ダメだ、さっきので残ってる力を全部使った…もう、動けない…悪いが肩を貸してくれ…」
「まったく無茶ばかりしやがって…世話のやける…」
そう言うと、オリアンは、いきなりチェスハの体を引き起こすと、
「よっと!」
「お、おいオリアン?」
オリアンはチェスハをお姫さま抱っこした。
「こっちの方が楽なんだよ。」
「そ、そうか…」
チェスハは赤くなりながらも、オリアンに寄りかかった。
「よし、帰るか。」
オリアンの一言で各馬車はゆっくりと走り出した。
僕はミウの乗っていた馬車に乗り、ラウクン王子はスライン将軍と一緒に、国王達を連れ1度街に戻り、
オリアンは黒龍にチェスハと乗り、オオカミ族の村に向かった。
僕が乗る馬車を先頭に、続々と馬車が連なり、村に帰ると、村の前で待っていたイムサプが走り寄ってきた。
「お兄ちゃん~!」
「お兄ちゃん~ !」
と、そこに後ろの馬車に乗っていた女性が飛び降り来て、
「イム~!サプ~!!」
「あ!レンカお姉ちゃん!!」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
イムとサプはレンカと抱き合い、再会を喜んだ。
そこにレンカの母親のストリアが駆け寄って来た。
「お母さ~ん!!」
「レンカ!無事で良かったよ。」
レンカとストリアも抱き合い再会を喜んだ。
ほかの馬車からも次々と降りて来て、家族と再会していた。
すると、ストリアが僕に向かって、
「お兄さん、本当にありがとう!あんたのおかげだよ。」
「ハハ…この子達と約束しましたから。」
するとイムとサプが、
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんて、ホントに勇者だったんだね。」
「え?いや~…」
と言葉を濁していると、頭の上を黒い影が横切った。それはオリアンとチェスハを乗せた黒龍だった。
黒龍はたまに炎を吐きながら飛んでいた。
その時ふいに、ロコナじいさんの言葉が頭に浮かんだ。
「『言い伝え』は、所詮人の言葉だ。それをどう受け止めるかは、聞いた人次第じゃよ。」
僕は飛んでる黒龍を指差し、
「ねえ?イム、サム、あれは何に見える?」
するとイムが、
「え?あれは黒龍に乗っているオリアンおじちゃんじゃない?」
サプも、
「うん!オリアンおじちゃんだよ。」
僕はおもむろに、村に伝わる「言い伝え」を話した。
『湖の水が飲み干される時、黒い鎧を身に纏い(まとい)漆黒の翼で空を駆け抜け、紅蓮の炎で悪を討ち滅ぼさん』
オリアンの体は、逆光で真っ黒になり、黒龍の羽もさらに黒く、炎だけは真っ赤に見えた。
イムとサプは、最初僕が何を言ってるのか、わからなかったが、少し経つと、
「あ!」「あ!」
と、同時に顔を会わせた。
「勇者だ!!」
「オリアンおじちゃんが勇者だったんだ!」
それはまさに、村に伝わる「言い伝え」通りの光景だった。
僕は2人の肩を抱きなから、
「そうだよ。オリアンが伝説の勇者なんだ。
だって、僕が来る前からずっとお姉さん達を取り返そうと戦ってきたんだからね。」
「じゃあ、お兄ちゃんは?」
「う~ん、勇者の仲間かな?勇者には必ず仲間が居るんだ。オリアンおじちゃんにも仲間がたくさんいるでしょ?」
するとイムが、
「僕も勇者になれるかな?」
つられてサプも、
「僕も勇者になりたい!」
僕は2人の頭を撫でながら、
「うん!きっとなれるよ。家族を、友達を大切にする心があれば、誰だって『勇者』になれるんだ。
あ!そうだ!お兄ちゃんも勇者だ!この人のね。」
僕はそう言い、ミウの肩を抱き寄せた。
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