第58話 第三共和国軍、襲来。

 ―――アンビュランス要塞、地下儀式祭壇でネクローシスによって捕らえられたレオ・フレイムスはアーマネス・ネクロウルカンに連れられて地上へと赴こうとしていた。

 道中のレジスタンス戦闘部の隊員が行く手を何度も阻むも、その命はアーマネス・ネクロウルカンによる『勝敗を制す槍』によって残酷なまでに容易く葬られていく。

 彼女の存在は不完全体であるにも関わらず、もはや人間の行使できる様々な力を以てしても到底敵う事が出来ないと思わせてしまう程に圧倒的であった。

 もはや人の力では彼女の歩みを遅らせることも出来ない。


 やがて地上へ出ると、ネクロウルカンは久方ぶりに浴びる眩い陽光に手をかざす。そして徐々にそれに目が慣れていくと、ネクロウルカンは地上で自らを取り囲む様に待ち受けていたその存在達に気づく。


「―――そこから動くなレイシス!お前達は完全に包囲されている、無駄な抵抗をする事なく投降せよ!」


 薄暗く煙のような物を纏う異様な雰囲気を放った共和国軍兵士が、ネクロウルカンにそう告げる。

 そしてその兵士たちの周りには第十一枢騎士団の面々の姿があった。


「なんだ......、彼女から放たれているネガヘラクロリアムの濃度は......。枢爵クラスを全部合わせても到底及ばない......」


 ダグネス・ザラはネクロウルカンを見て畏敬の念を抱き、傍にいたベルゴリオは言葉を失う様子でそれを見る。


「ふーん?あれが裏ボスかなぁー?何者なのかは知らないけど、とっとと終わらせちゃおうよ。それに私が前に取り逃がした鎌持ちのネクローシスとかも居るし!これを機に一気にあの時の借りを返させて貰うよー!レオ君もなんかちゃっかり奴らに捕まっちゃってるし」


 ネクローシスによって捕えられているレオの方へと指を伸ばし、調子よくそう言ったのは第三共和国軍の空挺部隊と共にやって来ていたレフティアだ。


「あぁそうだなレフティア、レオの顔を見るのも少し久しいな。だがあの時のネクローシス連中とは数が合わないようだが。うむ、あの真ん中の奴があの時大剣を振りかざしていた奴の正体なのか......?」


 そう言うのはレフティアと同様に空挺部隊と共に訪れていたレイシア隊の隊長、レイシア少佐だ。

 そしてレイシア少佐の周りには、レイシア隊に所属する部隊員の顔ぶれがあった。


「攫われちまってどんな面してやがるんだろうなぁと思ったらー、随分元気そうじゃねぇかレオ、また捕まっちまってるみたいだがな」


 そう言ったのは重火器を背負った大男のルグベルク・ドナーだ。


「ったく面倒をかけさせやがってよ」


 そう言ったその男はスナイパーライフルを背負ったマド・ササキ、銃口をネクロウルカンへと向けている。


「それで、あのレイシス達に僕たちは一度負けているわけですけど何か勝算はあるんですかね......」


「さぁね......。話に寄ればレジスタンスの攻撃の地点で大抵のレイシス達は倒されているはずだったと思うんだけどね」


 フィン・ホンド―は怖気着いたような様子を見せ、ホノル・リリィも同様の様子を見せる。




 ネクローシスによって捕まれているレオは、共和国軍やレイシア隊の面々を見て安堵すると同時に大きな懸念を抱く。

 それは先ほどのネクロウルカンの力を見て、とても現状の共和国軍の通常戦力でどうこうなるとは思えなかったからだ。

 イニシエーターと思わしき人物を見ても、レフティアやレイシア少佐を含めて十数人わずかと言ったところだった。

 それにダグネス・ザラが率いる枢機士団を合わせても、ネクロウルカンという存在の前では如何なる戦力も心もとない物のように思えていた。


 しばらくすると、数人のイニシエーターがネクロウルカンを拘束しようと近づいてくる。

 レオは近づいてくるイニシエーターに対し大声で警告しようとしたその瞬間、そのイニシエーター達は地下祭壇で見た時と同様の現象がその身に起きていた。

 どこからか現れた謎の槍のような物に心臓部位を貫かれ、そのイニシエーター達は瞬く間に地に倒れ込む。


 そしてそれがまるで合図でもあるかのように、ネクローシス達は共和国軍に対し牙を剥き次々と薄暗く煙のような物を纏った共和国軍兵をなぎ倒していく。

 その共和国軍兵達はネクローシスによる一撃を受けると、まるで塵にでもなったかのように姿をたちまちと消していく。

 どうやらその現象は何れかのネクローシスによって成されている物の様ではなかった。


「レヴェナス・デュプリケートされた空挺兵がどんどんやられていってますよ!?」


 フィンがそういうと、レイシア少佐はソレイスを顕現させてそれを構える。


「彼らがここに戻ってくるまでに少し時間がかかるな、私たちもやるぞ!あの双剣のフルプレート野郎にリベンジといこうか」


 レイシア少佐は笑みを浮かべながら双剣のネクローシス、シュベルテン・ハウグステンを見る。

 それに合わせるかのようにレイシア隊の面々も武器を構える。


「レイシア達にあれは任せるわ、私もあの鎌持ちネクローシスに再戦を申し込んでくるから!」


 レフティアはそう言った。


「じゃあ我々はあのガントレットを嵌めたネクローシスのお相手でもするか」


 レフティアの言葉に続くように、ダグネス・ザラはそう言って二本のイレミヨンを引き抜いた。




 ネクロウルカンはネクローシス達が戦いに身を投じる中、地形操作を操作でもするかのようにガレキの塊から玉座のような席を作り出し、周りをかつて枢爵の部下であった枢騎士達に囲まれながらそこに腰を下ろした。

 レオはネクロウルカンによって生み出された謎の鎖状の物によって身動きを制限され、ネクロウルカンの座るすぐ傍まで枢騎士によって連れていかれると、その場で膝を着かさせられる。


「力が足りぬ、奴らが余に死を献上しネガヘラクロリアムを蓄えられるのをここで待つ」


 ネクロウルカンは右手で頬をつきながらそう言った。









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