第19話 新生魔王のハレンチ仮装パレード


 ペルヒタ教国の王都・ペルフィーの大通りは、パニックに陥った。


 それはそうだろう。

 いきなり現れた俺――魔王ジュノが、国教として崇められている女神・ペルヒタに潮を吹かせる傍ら、魔王配下の少女たちが、ペルヒタの魔獣と神獣を次々とテイムしていったのだから。


「ククク……気分はどうだ?」


 俺はペルヒタを抱きかかえたまま白キマイラから飛び降り、大通りへと着地する。

 小さな女神を地面に降ろすと、そのままへたり込んでしまった。

 無理もない。彼女は魔導調律の真っ最中だ。

 頭のてっぺんから足の先まで、快楽という快楽が体内を暴れ回るうちに、魔道経絡が魔族色に染まっていくのである。


 ペルヒタは首から上を紅潮させ、


「ううぅっ……んぅぅ。さ、最悪に、き、決まって、る……んんぁああぁっ!」


 どう見ても最高の快楽に打ち震えながら、呼吸を荒く弾ませている。

 沿道の人々の視線が突き刺さってきた。


「ぺ、ペルヒタ様ぁ!?」

「何が起こったんだ!?」

「おのれ魔王!」

「大変だ、お助けしないと!」

「でもペルヒタ様、気持ちよさそうじゃないか?」

「ママ! ペルヒタさま、なにしてらっしゃるの?」

「シッ! 見ちゃいけません!」


 老若男女を問わず、無数の瞳が俺たちの一挙一動を見つめているのだ。

 さて、ここらが頃合いか?

 俺は沿道の人々に向き直り、両腕を広げて宣言した。



「我が名は魔王ジュノ。魔界を統べる王である! これより平和の祭典――ハレンチ仮装パレードを執行し、ペルヒタ教国と魔界のあいだに深い絆が生まれたことを諸君らに表明しよう!」



 パニックに陥っていた沿道が、一瞬だけ静まり返る。

 しかし、すぐさま大波のようなざわめきが巻き起こった。


「えっ、あれが魔王?」

「ま、顔は合格……かしら?」

「ゴクリ……なかなかイケてるじゃない」

「いい男……」

「いやいや、イケてたら何やってもいいのかよ!?」

「魔界との絆って……ペルヒタ様はどう考えてらっしゃるんだ!?」


 ほほう、じつに様々な反応が飛んでくるものだな。

 王たる者の器を見せるべく、民の声に耳を傾けていると、


「ジュノ! 前置きはいいから早く話を進めなさいよ! ハレンチ仮装パレードって……そのネーミング、他になんとかならなかったの!?」

「お急ぎくださいダンナ様! 私たちが獣を制しているうちに!」


 スピカとグルヴェイグが急かしてきた。

 いいだろう。そろそろ平和の祭典――ハレンチ仮装パレードの出発だ!

 俺はペルヒタのドレスに手をかけた。


「ひぅっ! 魔王……ゆるさない……んあぁっ、ゆるさない、からぁ……」


 悔しそうな顔。おびえた声。

 それにも構わず、俺は白と黒のゴスロリドレスを引き裂くべく、両腕に力を込め――、


「嫌ぁぁ!!」


 ――寸前で、動きを止めた。

 ペルヒタの悲鳴が、あまりにも必死だったからだ。


「このドレス……キサマにとって、大切なものなのか?」

「…………」


 無言のまま、ペルヒタがコクリとうなずく。

 こやつは確かに俺の復讐対象だ。しかし、単に持ち物や心を傷つけてしまうのは……我が邪悪なる復讐の美学に反する。


 目指すべきは、快楽による支配だ。麗しくも憎らしい女神どもを、快楽の深淵に叩き落とす――。我が復讐の原点を見失うわけにはいかない。

 よって、俺は背中のリボンを解くところからスタートした。


「ここは……こう、か。たいへん愛らしいが、なんと複雑な構造のドレスだ。さあペルヒタよ、両腕を上げよ」

「や、やだもん……。はぁ、んんぁっ……ど、どうして脱ぐのが……あぁぁっ、うぅ……ぜ、前提になってるの……?」

「やかましい! これより始まるのは、ハレンチ仮装パレードなり! 服を着たままできるとでも思っているのか!?」

「い、意味、わかんっ……なぁぁあんっ! んんっ……魔王っ、これ、やらぁ、やらぁぁ! はぁ、はぁ……お腹の奥、キュンキュンして……んあぁああぁぁっ!!」


 ぷしゃあぁぁ――ッ!

 絶頂の悲鳴を上げ、またしても群衆に潮吹きを披露するペルヒタ。

 これはチャンスだ。


「服が濡れてしまったではないか。さあ、早く脱ぐのだ! 風邪をひいてしまうぞ!」

「や、やらぁ……んんっ、魔王……手つき、やらしぃぃ……!」


 駄々をこねるペルヒタだったが、今の絶頂が効いたらしい。

 もはや脱衣に抗う力は残っておらず、俺は次々と各所のリボンを解いていった。

 最後に残ったのは、白いフリルがあしらわれた黒いブラと、お揃いの黒ショーツ。

 それらを手際よく剥ぎ取り、


「うむ、見事な裸体なり。ククク、大勢の民が見ているぞ? パレードに駆り出された獣の気持ちが、少しは理解できたか?」

「あ、あぁぁ……見てる……みんな、見てるぅぅ……」


 今や六芒の女神ペルヒタは、全裸で大通りの真ん中に放り出された少女そのもの。

 うるんだ瞳。わななく口。羞恥のあまり、赤く染まった無垢な柔肌。

 身を縮め、必死に裸体を隠そうとする仕草に、俺の股間の獣が咆哮を上げる。


 ペルヒタの身体には凹凸がほとんどない。

 乳※に膨らみはなく、脇腹にくびれはなく、尻のボリュームもほとんどない。

 しかし、しかしだ!

 そこには、なにものにも染まらぬ無垢なる地平が広がっているのである。

 新雪が降り積もった野原のように、誰にも触れられていない、誰も触れてはならない、聖域めいたなめらかな裸身が、そこにあるのだ。

 雪白の裸体を肉欲によって蹂躙するとは、いかにも魔王らしい仕事である!

 俺は懐から“ある物”を取り出した。


「さあペルヒタよ。これを穿き、早く仮装するのだ。今までキサマが従えてきたケモノのようにな……ククク」

「うぅっ、うぅぅ……みずぎ? しっぽも……」


 そう。

 俺がペルヒタに差し出したのは、ネコしっぽが付いたビキニパンツと、お揃いのネコミミである。オトナのネコしっぽと一緒に、裏通りの店で購入した品である。

 俺はペルヒタの足首を持ち、ネコビキニを穿かせた。


「さあ、尻を上げるのだ」

「うぅうぅっ……まおう……あぁん、ぁっっ……ゆ、許さないからぁ……」

「ククク……ネコミミも付けるのだ、ツルペタよ」

「……ペ・ル・ヒ・タ」


 ともあれ、ネコしっぽとネコミミの着用が完了した。

 ビキニパンツは極小で、もちろん平たい乳房を隠すものは存在しない。

 ハレンチ仮装パレードなのだから当然である。


「さあ、出発だ!」


 俺はペルヒタの身体を転がし、彼女を獣と同じポーズにさせた。


「ケモノはケモノらしく、この体勢でパレードするものである。さぁ、行くのだ!」

「うぅぅ……いやよぉ!」


 両手と両膝をついたまま、恨めしそうに俺を見上げてくるペルヒタ。

 まあ、それも仕方ない。

 なにせ沿道の民が――今の今まで自分を信仰していた者たちが、好奇の視線を向けてくるのだから。


「ぺ、ペルヒタ様……かわいい」

「だけど、これ……いいのか?」

「いや、ダメだろうけど……なぁ?」

「そ、そうね。でもペルヒタ様……かわいい」


 ネコミミとネコしっぽを装着したペルヒタの愛らしさは、絶後である。

 ゆえに、民の瞳は『かわいい!』の一点にのみ集中し、自国の女神が乳房を放り出したまま獣のポーズでパレードさせられる――という異常事態に疑問を持てなくなっているのだろう。

 まったく、なんてチョロい民だ。


「フッ、外見の愛らしさが裏目に出たな。さあ、そろそろ出発するのだ。主人の命令であるぞ!」

「だ、だれが……しゅじん? あぁぁんっ、ふ、ふざけない、で……」


 なおも抵抗するペルヒタ。

 俺は無言で、彼女のネコしっぽをグイッと引っ張った。

 ――すると。


「ぅにゃぁあああぁぁああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああっっっっ!!」


 突如、ペルヒタの小さな身体が跳ねた。

 甘ったるい声で激しく絶頂し、腰がカクカク揺れている。


「ぅにゃ……うにゃにゃ……ま、まおう!? こ、これ……な、なに!?」

「このネコしっぽを通じて、魔導調律の淫紋をキサマの体内に流し込んでいるのだ。すぐにパレードを始めれば、絶頂は控えめで済む。しかし駄々をこねるようであれば、この場で気をやってしまうほどの絶頂を与え……」

「や、やる……! やる、っからぁ……!」


 説明の途中で、ペルヒタはついにケダモノポーズのまま前進を開始した。

 まあ、ここでネコビキニを脱いだところで、彼女の体内で魔導調律が進行中であることに変わりはない。

 ――魔導調律を受けた時点で、ペルヒタは詰んでいるのだ。

 あとは彼女が、それをどう受け入れるかの話である。


「ククク……民よ、俺は魔王ジュノ! 魔王ジュノなり!」


 パレード隊の先頭を歩きながら、俺は沿道の民に悠々と手を振った。

 その傍らには、両手と両膝で歩くペルヒタ。

 まさしくペットの散歩である。これは魔界とペルヒタ教国の構図そのものだ。

 やがて民は理解するだろう。

 魔界とペルヒタ教国の間で絆が結ばれたのではなく、ペルヒタ教国が魔界に取り込まれただけだということを!


「ガオォォォ……」

「ガルルゥゥ……」


 俺とペルヒタの後ろから、テイムされた魔獣と神獣の大群がついてくる。

 華やかなファンファーレが鳴り響く。太鼓の音とネコダンスが沿道を盛り上げる。


「魔界をよろしくね!」

「魔王ジュノ様に栄光あれ~!」


 白キマイラ(テイム済み)のカゴの中には、スピカとアルテミスが収まっていた。

 彼女たちも沿道に手を振り、どこから持ってきたのか、色とりどりの紙吹雪をまいている。リリスとグルヴェイグも、隊列の後方でパレードを盛り上げていることだろう。


「魔王ジュノ~!」

「でもペルヒタ様が気持ちいいのなら、私も幸せです!」

「ペルヒタ様ばんざい! 魔王様ばんざい!」


 大衆からの声援に、俺は手を振って応えた。

 空いた片手で、ペルヒタのしっぽをグイグイ引っ張る。


「んきゃんっ! ……ど、どうして引っ張るの……? わ、わたひっ……んぁあっ、ちゃんとお散歩してるっ……の、にぃ……」

「しっぽを引っ張ると、キサマの花園に水着が食い込むのだ。その食い込み具合を堪能したい――ただそれだけである」

「へ、へんたいっ……んあぁぁあっ、へ、へんたぁい! 憲兵ぇ! こ、ここに変態がいるぅぅ……! た、たいほ……たいほぉぉぉおんっ!」


 しかし沿道の憲兵たちまでもが、こちらへ黄色い声援を送っているのを見て、ペルヒタの心はいよいよ折れてしまったようだ。

 仮装パレードも魔導調律も、着々と進行していく。


「ククク……良き食い込みだ! ほれ、ほれぇ!」

「ふにゃぁぁんっ! あぁあぁっ、あァァンッ! らめっ……らめぇぇ……! 割れ目っ、食い込んでぇぇ……お腹の奥、うずうずするぅぅう……っ!」


 ペルヒタがだらしなく舌を出し、腰を淫らにくねらせる。

 そろそろケダモノポーズにも慣れてきたのだろうか。

 なめらかな背筋を流れる、美しき長髪。玉のような小尻に、ネコビキニがいやらしく食い込んでいる――。

 主人の視点でペルヒタの痴態を観察するうち、俺の股間はパレード状態に突入した。


 だが……残念。

 ついに仮装パレードの終点が見えてきてしまった。

 大通りの突き当たりにある海浜公園。

 そこの広場にある舞台上から、ペルヒタが民にありがたい神託を授けることで、聖ペルヒタ祭は締めくくられるらしい。

 ならば、その式典を強奪するのが魔王の役目というものだ。


「三〇〇年前に俺を封印し、残された魔族を迫害したこと。魔獣と神獣に傾倒するあまり、民の心と生活を蔑ろにしたこと。きっちり謝罪し、綺麗な身体で魔界に来るのだ!」


 しっぽを引っ張る。引っ張る。引っ張る!


「にゃああぁぁあっ! ……んあぁぁあっ! はぁっ、はぁっ……ごめんなしゃいぃぃ……ごめんなしゃぃぃ……。んんうぅぅうっ、ひぁぁあぁああぁあっ!」


 ぷしゃあぁぁ――ッ!

 絶頂の声とともに、またしても潮吹きを披露するペルヒタ。

 沿道からは拍手と歓声が上がり、終演に向かうパレードを見送るような雰囲気になっていく。

 俺はしっぽを引っ張りながら言った。


「この国の民は、『お前が気持ちよければ、それでいい』という価値観を持っているようだな。一部に不満を抱かれながらも、ここまで多くの民に信頼され、愛されるのは、女神たる者の才能の一つかもしれぬ」

「ふにゃぁぁ……んんっ! あぁぁあっ……ひあぁぁっ!」


 他の女神が民のもとへ降臨して仮装パレードを行ったところで、ここまで信仰心を回復させることは難しいだろう。

 ペルヒタめ……。なかなかどうして、女神としてのカリスマ性は充分ではないか。

 たっぷり絶頂を与えつつ、俺は内心でペルヒタに拍手を送った。


 さあ、いよいよパレードも大詰めだ。

 海浜公園の広場に入った俺たちは、ついに行進をストップさせた。

 俺とペルヒタはパレード隊の列を離れ、いよいよ舞台に登壇していく。


 その間に、後続の魔獣と神獣、器楽隊、ダンス隊が列を崩し、広場に民が入るためのスペースを空けてくれた。

 沿道に詰めかけていた民が、今度はこの広場に押し寄せてくるのだ。

 これより始まるのはペルヒタの神託――では、ない。


「さあ、最後の仕上げだ!」

「うにゃにゃ……にゃにゃにゃ!?!?」


 すっかり雌ネコになってしまったペルヒタを、俺は背後から抱き上げた。

 彼女の膝裏に手を添え、ぱっくりと開脚させる。黄金聖水の放出をサポートするような体位である。


「んあぁぁっ! ら、らめぇっ……は、恥ずかしっ……んんんっ!」


 すでに広場は超満員。

 聖ペルヒタ祭の最終日に集まった、たいへん信心深い人々の視線が、国教の女神の秘所へと注がれているのだ。

 ペルヒタのネコビキニは、ぐぢょぐぢょに濡れそぼっている。

 快楽の証が絶え間なく舞台に滴り、もはや言い訳は不可能だ。

 俺はペルヒタを開脚させたまま、


「ちゅっ……れろぉぉぉ……。どうだ、耳の中は敏感だろう?」


 彼女の耳を舌先で愛撫し始めた。


「ひゃうっ!? あぁぁっ、あぁぁ……ぺろぺろ……んんぅっ、らめぇっ……うにゅぅぅ……らめっ、あぁあぁぁぁぁんっ!」


 耳の穴に舌先を突っ込むと、快楽に冒されたペルヒタがカクカクと腰を振る。

 女神にあるまじき痴態に、民も赤面を隠せない。

 中には歓声を送る者もいたが、多くの民は赤面したまま、俺とペルヒタをジッと見つめている。

 俺は彼女の耳もとでささやく。

 声音で鼓膜を愛撫するように、ねっとりとした口調で。


「――今こそ民の前で正式に謝罪し、魔界への編入を宣言するのだ」

「うぅぅっ……」

「早く! れろろっ……れろれろれろれろ……」

「んにゃぅっ!? しゅ、しゅるうぅぅ! しゅるからぁっ……あぁあぁっ、れろれろらめぇぇぇ……!」


 またもや腰を跳ねさせるペルヒタ。もはや抵抗の力は一切残っていない。

 彼女は呼吸を整えると、


「今まで……ごめんなさいぃぃ……」


 濡れそぼった恥所を晒しながらも、民に向かって謝罪の弁を述べていった。

 三〇〇年前、不可侵の盟約を破って俺を封印したこと。

 残された魔族たちを迫害したこと。

 魔獣と神獣を愛するあまり、民を蔑ろにしてきたこと。

 それらを自分の言葉で、しっかりと――。


「だ、だからぁ……このペルヒタ教国は、わたしじゃなくて、魔王ジュノ……ご、ご主人様に治めていただきますぅぅ……。わたひはご主人しゃまの雌ネコとして、一生を捧げましゅからぁぁ……!」


 もはや息も絶え絶えだ。ペルヒタは腰を痙攣させながら、群衆たちに向かって国の未来を説いたのだった。


 返ってくるのは、盛大な拍手、歓声、そして指笛。

 大群衆は再び熱狂に包まれ、海浜公園に『ジュノコール』が巻き起こった。

 ――さて、このへんにしておくか。


「グルヴェイグよ。例のアレを頼む」


 俺はペルヒタを降ろし、舞台袖に控えていた“元”異端審問の女神に声をかけた。


「はいっ、ダンナ様!」


 グルヴェイグが舞台の真ん中に立つ。

 彼女の足もとに青い魔法陣が幾重にも浮かび上がり、猛烈な魔力が立ちのぼってくる。


「――ハレンチ仮装パレードなど、ありませんでした。ペルヒタ教国と魔界の間に、和平が結ばれた……。ただ、それだけのことです!」


 グルヴェイグが右手を天に掲げると、青い魔法陣が瞬時に巨大化して、海浜公園の敷地を丸ごと包み込んでしまった。

 視界が一面の青に包まれることしばし――。

 魔法陣が霧散したときには、大群衆の雰囲気が大きく変化していた。


『熱狂』ではなく、平和を尊ぶ純粋な『祝福』に。


 ――グルヴェイグの記憶操作魔法によって、ハレンチ仮装パレードの記憶を民の心から消し飛ばしたのである。


「これを使うがよい。今のままでは寒かろう」


 俺はマントを外し、ペルヒタの身体にかけてやった。

 彼女は俺を見上げると、


「魔王……うぅん、ご主人様。どうしてわたしに、慈悲を……?」


 心の底から不思議そうに訊ねてきた。


「わたしが恥ずかしい思いをしたこと、ここにいる民は、みぃ~んな忘れちゃったよ? ……いいの? わたしに復讐……するはずだったのに……」


 彼女の髪を撫で、俺はそっと微笑みかける。


「お前はもう、俺の愛すべき家族なり。家族の痴態は――俺だけのものなのだ」


 麗しい水着姿も。恥ずかしいネコビキニ姿も。

 他の者になど、見せてやるものか!


「うぅぅ……ご主人様ぁ~!」


 ペルヒタが縋りついてくる。それこそ本当に、主人に甘える子猫のように。

 ――南海の楽園・ペルヒタ教国が陥落した瞬間である。


「ごろにゃん……ご主人様、んんん~っ」

「ククク、愛いやつめ……」


 ペルヒタの顎の下をくすぐると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。

 しばし愛撫を堪能し、俺は上空――天界を睨み据える。



「見ているか、女神王ヴィーナスよ! 残る国はあと三つ。リリアへイム魔界化計画を実現し、俺はキサマから世界を取り戻してみせるぞ!!」



 ――天界からの反応はない。だが、奴は必ず聞いている。

 感じるのだ。空の彼方に渦巻いている、不快きわまる神聖な魔力を。


 ともあれ、残す国はあと三つ。

 これよりマカイノ村に帰還し、次なる一手を練ることにしよう。

 スピカ。リリス。アルテミス。

 そして、グルヴェイグとペルヒタも一緒に――。

 民の祝福を一身に受けながら、俺はニヤリと笑みを浮かべた。


 世界の存亡を懸けた絶頂大戦。

 魔王ジュノの勝利は、もはや揺るぎないのである!!

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