第16話 新生魔王と新たなる家族


 転移魔法のゲートを展開させ、俺が悠然と野原に降り立った瞬間。


「ジュノ!」

「ジュノ様!」

「魔王様ぁ!」


 三人の仲間たちが、安堵するような声を投げかけてきた。

 かわいそうに。スピカ、アルテミス、リリスは、今も野原の真ん中で小さな魔導監獄に囚われてしまっている。


「おい、すぐに三人を解放するのだ」


 俺が誰にともなく命じると、


「はっ、はひぃぃぃっ!」

「か、かしこまりましたぁ!」

「まおうジュノさまにえいこうあれぇ!」


 グルヴェイグの天使兵――いや、俺の堕天使兵となった少女たちは、あたふたと魔導監獄の解除作業に取りかかった。

 女神と天使兵の魔道経絡はリンクしている。

 女神が魔族に堕ちた時点で、部下の天使兵は俺の仲間となるのだs。


 ガシャン――! ガシャン――! ガシャン――!


 重厚な金属音が三回響き、忌まわしき魔導監獄がパックリと二つに割れる。まるで発動前のトラバサミのような形態だ。


「ふぅ……さ、災難だったわ……。ありがとう、ジュノ」

「あぁんジュノ様ありがとうございますぅ~!」

「魔王様、よくぞご無事で……。リリス、助かりましたっ♪」


 スピカ、アルテミス、リリスが、ヨロヨロとこちらへ近づいてきた。

 三人ともゲッソリとやつれている。小さな魔導監獄に囚われ、さらに魔力を吸われ続けていたのだから無理もないが。


 俺は両腕を広げ、三人を抱きしめた。


「グルヴェイグに掠われた俺を助けようと、ここまで追いかけてきてくれたようだな。……感謝するぞ。……また逢えて、よかった」


 転移魔法で掠われた瞬間を思い出す。

 かつて神聖空間に封印されたときの光景が、そこへ重なる。

 どこか遠くへ連れ去られたとき、そんな自分を助けようと、必死で足掻いてくれる仲間たちがいる――。

 その幸せを噛みしめながら、俺はスピカたちの背中をポンポン叩いた。


「も、もぅ、ジュノったら……。私、どこまでだってついていくんだから」

「わたくしがジュノ様から離れるわけがありませんよぉ!」

「どんなことがあっても、リリスは魔王様を追いかけますっ♪」


 三人とも、俺の想いに気づいてくれたようだ。

 三者三様の笑顔を前に、俺は不覚にも目頭が熱くなってしまった。


「お前たち……!」


 愛する家族たちのまなざし。

 俺が心の真ん中で、その尊さに感じ入っていると――。



『んぐっああぁぁぁぁんっ! 申し訳ごじゃいましぇん魔王様ぁぁ……いえ、ダンナ様ぁぁっ……! わたひっ……グルヴェイグはぁ……んんぅぅぅっ! ダ、ダンナしゃまに忠誠を誓いぃぃんっ! お、お国をお捧げいたひまひゅぅぅぅぅううううっ!!』



 遠見の魔法陣に、グルヴェイグの痴態が大写しになった!

 拷問室の床にしゃがんだまま、秘所を見せつけるように開脚し、

 豊かな※乳をぶるんっ、とさらけ出したまま、

 和平の証として両手でピースサインを掲げつつ、

 快楽にとろけきっただらしない表情で、俺に縋るように喘ぎ声を張り上げている。

 もちろん顔や身体には白濁※がたっぷりだ。

 知的な美貌が、四角いメガネが、半開きになった口内が、ゼリーのごとく濃厚な大量の魔王汁でドロドロにデコレーションされているのである。

 もちろん尻には、例のネコしっぽが根元までずっぽりハマっている。

 異端審問の女神による、心からの謝罪。そして完全なる服従宣言である。


 だが、まあ……。

 ……うむ。少々やりすぎてしまったような気もする。



『んぐっああぁぁぁぁんっ! 申し訳ごじゃいましぇん魔王様ぁぁ……いえ、ダンナ様ぁぁっ……! わたひっ……グルヴェイグはぁ……んんぅぅぅっ! ダ、ダンナしゃまに忠誠を誓いぃぃんっ! お、お国をお捧げいたひまひゅぅぅぅぅううううっ!!』



 なんと。

 魔法陣の中のグルヴェイグが、先ほどと同じセリフを口にしたのだ。

 どうやら遠見の魔法の術式が壊れてしまったようだ。

 魔導調律と大人のネコしっぽによって、グルヴェイグが快楽を感じすぎたせいだろう。

 ……む?

 儀式の最中に魔法陣が壊れたということは、俺がここに来るまでの間に、彼女の痴態は延々とリピートされていたのでは……。


「この恥ずかしい声と映像、何回見せられたと思ってるのかしら?」

「さすがのわたくしも、おしりはちょっと……心の準備が必要です……」

「リ、リリスは頑張りますよっ? あ、ですけど、おしりは……ノーコメントで」


 愛する家族たちのまなざし。

 俺が心の真ん中で、その気まずさを受け止めていると――。


「はぁっ、はぁ……! ダンナ様ぁ!」


 背後で転移魔法のゲートが開いた。

 青く透きとおった魔法陣だ。

 ただし聖性は霧散し、今や邪悪な青色に輝いている。


「ダンナ様ぁ~!!」


 ドシン! と俺の腕に勢いよく抱きついてきたのは、“元”異端審問の女神・グルヴェイグである。

 黒曜石のごとく艶のある髪。

 切れ長の瞳と四角いメガネは知的さを演出し、丈の短い修道服とガーターベルトは色気をムンムン発している。


 ……身だしなみを整え、白濁液はしっかり拭き取ってきたようだが、淫らなネコしっぽは今も装着中だ。


「グ、グルヴェイグ! お前も来たのか」

「もちろんですよダンナ様ぁ! ダンナ様のいらっしゃるところにグルヴェイグあり! これから一生、離れませんからぁ!」


 そう言って、豊満な乳※をズリズリと擦りつけてきた。

 これに物申すのはスピカたちである。


「ちょ、ちょっとあなた! そういえば『ダンナ様』ってどういうことかしら!?」

「そうですそうです! ジュノ様の正妻はわたくしだというのに!」

「あの~? 『ダンナ様』の件はともかく、アルテミスさんが正妻って決まったわけじゃありませんからね~?」


 リリスがアルテミスの妄言を牽制する中、グルヴェイグはうっとりと告げた。


「だって、あんなコトまでされてしまったんですよ? はぁ、はぁ……いま思い出しても夢のような快楽で……。もはやダンナ様とお呼びするしかありません!」


 頬を紅潮させたまま、四角いメガネをクイッと直す。


「先ほどは見栄を張ってしまいましたが、私……男性と交際したことも、手を繋いだこともありません。もちろん、その先のコトもまだ……。ですからダンナ様、ご安心くださいっ! グルヴェイグに、これからいろいろ教えてくださいね……?」

「う、うむ……」


 なんということだ。

 あまりの変貌ぶりに、俺が圧されてしまうとは……。

 冷たかった切れ長の瞳には、今やキラキラとした星とハートが輝いている。

 口調も表情もトロトロにとろけ、異端審問の女神の面影は完全に崩壊してしまった。

 我ながら、恐るべし――魔導調律ッッ!


「さ、さて、話は後だ」


 まずは現状を打破しなければ。

 俺は身を翻し、獣臭い野原を見渡した。


「ガルルルルルルッ!!」

「ギェェェッ! キエェェェッ!!」

「シャアアアアァァッ!!」


 そうだ。

 グルヴェイグの件で忘れかけていたが、今も俺たちの周囲では、ペルヒタの魔獣と神獣が威嚇の声を発しているのだ。

 俺の堕天使兵たちが食い止めているものの、突破されるのは時間の問題である。


 スピカがゴクリと喉を鳴らした。


「ジュノ……こいつらと戦うつもり?」

「数は五十あまり……。戦うとすれば、なかなか骨が折れますね」

「魔王様、ご決断をっ!」


 アルテミスとリリスの頬にも、うっすら冷や汗が浮いている。

 たしかに、この大群と真正面から戦うのは得策ではない。

 だとすれば――。


「グルヴェイグよ。お前の力で、こやつらを抑えることはできないか?」

「す、すみませんダンナ様。この獣たちはペルヒタさん……いえ、ペルヒタの命令によって動いていて、私が制御することはできないんです」

「クッ――、ならば仕方ないな」


 俺は奥歯を噛みしめ、別の手段を模索した。

 相手は魔獣と神獣の大群。

 戦うには数が多すぎる。

 スピカの武器は剣。アルテミスの武器は杖。グルヴェイグの武器は…………。


「ククク……!」


 そうだ。この手があるではないか!

 俺は勢いよくマントを翻し、背後のスピカたちに宣言した。



「――これより新たな告解武装を手に入れる! いったん城へ戻るのだ!!」



 すかさずグルヴェイグが転移魔法を展開させる。

 そこへ飛び込み魔空間を移動しながら、俺はほのかに口角を上げた。


 告解武装――。

 魔導調律を発動させた状態で、俺を含む全員が同時に絶頂することで、強力な武装を生み出すことができるのだ。

 グルヴェイグをメインにした告解武装ならば、必ずや現状を打破できるだろう。

 だが、俺はふと疑問を抱いた。


「スピカ、アルテミス、グルヴェイグ……そして俺。……はて、四人同時に絶頂するには、いかなる体位を用いればよいのだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る