第29話
しかし、俺の希望はあっけなく砕かれた。
『え……いない……?』
俺はフードの男を探すため、まずはホールで受付を担当していたギルドメンバーに男の特徴を伝えた。しかし、受付にそんな人物は来ていないと言われてしまう。
『え、こう……身長はスティードくらいで……すこし細身で……整った顔をした……』
俺はフードの男の特徴を口頭で伝えつつ、タブレットのお絵かきアプリを使い、服装の色や雰囲気も伝える。しかし、それでも『いや……そんな特徴の人も、服装の人もいなかったな……』と返される。
その後、受付に残っていたホール当選者の名簿も貰い、自分が名前や顔を知らない人を全員見て回ったが、フードの男らしき人はいなかった。
……
『何で……いないんだ……』
『……と、トワ……そ、そんなに気を落とさないで……』
肩を落とす俺を見て、フードの男探しを手伝ってくれていたティミドが励ましてくれる。
因みにフレドは肉屋の手伝いがあるため『ティミドに変なことすんなよ!』と俺に失礼なことを言いながら去っていった。
俺は心配するティミドにお礼を言いつつ、必死に思考を巡らせる。
―― フードの男が何故いないのか。
一番可能性が高いのは、フードの男はたまたまホールを通りかかっただけで、ホール当選者ではない可能性だ。
しかし、ホールが立っている場所は先が行き止まりとなっており、ホールに行く以外でたまたま通りがかるとは思えない。
更に、ホールの先が行き止まりであることから、あの時ホールから出て来た人達と同じ方面から歩いて来たフードの男は、ホール側から歩いて来たとしか考えられない。ホール当選者以外でホール側から歩いてくることなどあるのだろうか?
次に可能性が高いのは、服装が異なる、または変装している可能性だ。
フードの男は服装的に顔がよく見えず、フードの印象ばかりが強い。フード付きの外套を脱ぎ、髭を付けたり顔の印象を変えられたら、恐らく同一人物だと結び付けられない。
しかしこれも、何故変装する必要があるのか分からない。意図的な変装ではなく、外に出たら寒さを感じて外套を着たのだろうか?
「いや……全然寒くないし、フードまで被る意味が分からない……」
自分で自分の思考に突っ込みを入れてしまう。
「あーーー! 分っかんねぇ! 俺、推理物とか絶対犯人外すタイプなんだよ!」
『と、トワ!? 大丈夫!?』
俺が頭をがしがしと掻き毟り思わず日本語で叫べば、横にいたティミドが驚いてビクッと身体を震わせる。
『……わ、私も、考えてたんだけど……フードの人……ホールの当選者じゃ、なかったんじゃないかな……?』
ティミドはビクビクしつつ、考えを述べてくれる。どうやらティミドも横で考えてくれていたらしい。
『やっぱりティミドもそう思う? でもあの道の先にはホールしかないし、当選者以外行かなくないか?』
『んー……"バングミヒョウ"、見に行った、とか……?』
『んん?』
俺の問いに対し、ティミドがさらりと衝撃的な言葉を吐く。
―― 番組表。
直近どんな動画を流すか予定書いてある、ホールの前に立てられた看板だ。
「……あ」
ティミドに言われるまで、番組表の存在を完全に忘れていた。ホールに当選しなかった人でも、番組表は見に来るだろう。
動画が終わり、ホールから出て来た人達と共にホール側から歩いて来たため、当選者だと勝手に思い込んでいたが、ティミドの言う通り番組表を見に行くだけの人もいるだろう。
番組表はホールの外に立てられていて、受付からは見えにくい位置だ。フードの男が番組表を見に来ただけなら、受付の人がフードの男を見ていないのも頷ける。
『番組表かああああああーーーー…………』
俺はその場にガックリとしゃがみ込む。その可能性に気付かなかった俺は馬鹿だ。
『と、トワ……! えっと……"ドンマイ"、だよ……!』
指摘したティミドは何と声を掛けたらいいのか迷っているようで、あわあわとした様子で考えた後、ちょっと気の抜ける励ましをくれた。
俺が笑いながらお礼を言えば、ティミドも笑顔で『……でも、よかったね! バングミヒョウが新しくなる時、フードの人にきっと会えるね……!』と言ってくれる。
確かにティミドの言う通り、一度番組表を見に来たなら、番組表が新しくなる時に再び番組表を見に来る可能性が高い。
『確かに……! そっか、そうだよな……!』
『うん……!』
『今日はずっとフードの男探しに付き合ってくれてありがとう、ティミド』
『き、気にしないで……! 私、力になれたかな?』
『なった! なったよ! ティミドがいなきゃ番組表のこと、気付かなかった!』
『本当?……なら、よかった……!』
ティミドに再度お礼を言いつつ、笑顔でティミドと別れる。
……
『ただいまー』
『トワ、おかえりー!』
家に帰ると、ここ最近めきめき言葉を覚え、喋りたい盛りのレイが飛び付いて来てくれる。
『あはは、レイ、ただいまー』
飛び付くレイを抱きとめ、よしよしと頭を撫でながら床に卸す。
『トワ、タブレット!』
『はいはい、待ってねー』
レイはタブレットが欲しいと手を伸ばしてくる。俺は笑いながら充電中のタブレットを渡す。
物語が大好きなレイは、驚くことに家にある絵本を全て読み終えてしまい、俺のタブレットに入っている電子書籍にまで手を出し始めた。
日本語は俺の読み聞かせや独り言を聞いて覚えたらしく、平仮名と片仮名を教えたらルビの振ってある漫画や簡単な本は読めるようになった。
勿論分からない言葉も沢山あるため、いつも俺が横にいて意味を教えたりしているが、凄い吸収速度だ。
「子供の成長って早いなー……」
俺は黙々とタブレットで本を読むレイを眺めながら、感慨深く呟く。
「……レイはきっと頭がいいんだな」
凄い集中力で本を読み進めるレイを見ながら、俺は今日の自分の頭の悪さが恥ずかしくなる。勝手にフードの男をホール当選者だと思い込み、ティミドをほぼ一日中フードの男探しに付き合わせてしまった。
「はぁ……結局またフードの男に話聞けなかったしな……」
俺は溜息をつきつつ「次こそ絶対に話を聞いてやる……!」 とフードの男への闘志を燃やす。
異世界生活341日目、待ってろよ、フードの男!
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