第62話フェルトとイフリート



「ふぅ、ここが最下層か」


 今我は、城の最下層にいる。周りには誰もいない。


「そろそろ出て来たらどうだ」


 我は真っ暗な部屋の中に声を響かせる。


「・・・・・・・・」


 何も聞こえてこない。


「出てこないか。ならば燃やすだけだ!」


 我を中心に炎の波が地面を伝わって広がっていく。


「ちっ!」


 舌打ちが聞こえた直後、我の後ろにあった岩陰から一人に男が出てくる。


「そこか!」


 我は手のひらを男に向け、炎を放つ。


「グアッ!」


 炎が男に当たる。


「そろそろ、次の龍の力を解放したらどうだ?」


 我は男を挑発するかのように上から目線で言う。


「しょうがないなぁ。4体以上解放すると体に負担がかかるんだけどな」


 男はいつのまにか生成していた水で炎を消しながら言う。


「闇龍解放」


 男の目の眼球が紫色になる。


影混ミックスシャドウ


 男の体があたりの影と一体化する。


「影と同化する能力か。ならば影をなくせば」


 我は男が潜った場所めがけて炎を放つ。


「これでどうだ」


 男が潜った場所には影はもうない。


「効かないよ」


 男の声が後ろから聞こえた。我は後ろを振り返るが。


『グサッ』


 我の腹に紫色の爪のようなものが刺さる。


「グハッ」

「さすがの君でも猛毒龍の爪は効くでしょ」


 我は男の姿を捉える。

 男はいつのまにか解放したのか、右手が人間の手の大きさと同じ大きさの龍の手になっていた。


「カハッ!」


 我はその場で地面に向かって血を吐く。


「やっぱり、イフリートだね。この毒を普通の生物が食らったら1秒で死ぬのに。君はもうすでに10秒は耐えてるよ」


 男は楽しそうにニコニコしながら我を見る。


「体よ燃えろ」


 我の体が燃え始める。


「もしかして炎で毒をなくそうとしてる? 無理だって、この毒の解毒方法はかけた本人を殺すしかないからね」


「ならば話が早い。ようは貴様を倒せば良いのだろう?」


 我の体に緑色の炎、青色の炎、黒色の炎、金色の炎、赤色の炎、白色の炎、合計6つの炎に覆われる。


「これが我の全力だ。全力には全力をぶつけてくれるよな」


 地面から出ている紫色の爪のようなものを破壊して、毒で意識が飛びそうになるのをこらえて男に言う。


「やっぱり、君は面白いよ!」


 男の体もいろいろな光に覆われる。


「岩龍解放、白龍解放、翼龍解放、金龍解放」


 男の左腕が岩を何個も組み合わせたようにゴツゴツになり、男の体が真っ白くなり、男の両腕から翼龍固有の羽が生え、男の腰から金色の龍の尾が生える。


「我の本気を喰らえ! 炎矢連射インフィニティーフレイムアロー


 男に向かって様々な色の炎の矢が放たれる。


雷風水炎白金毒岩息吹セベラルブレス


 男はそれらをたった一度の攻撃で全て防ぐ。


「まだだ!」


 我はさらに炎の矢を生成し、男に放つ。


「意味がないんだよ!」


 またしても男の攻撃一回によって全て塞がれる。


「今度はこちらから行かせてもらうよ!」


 男はそう言って一瞬で我との間合いを詰めてきた。


「打ち上がれ!」


 目で追えない男のアッパーが我の体を捉え、上に打ち上げられる。





 地面が壊れ、僕はあの男が来たのだと思った。だが、それは違った。

 地面から打ち上げられて来たのはイフリートの方だった。


「おい! 大丈夫か!」


 僕は今までためていた炎を全て消し、イフリートの腕を掴む。


「あつっ!」


 イフリートの体は熱かった。僕の体は炎の熱では熱いと感じない体になっている。だから、イフリートの体に触っても平気のはずだった。なのに僕は熱いと感じた。


「フェルトか、すまん、お主にあんなでかい口を叩いておきながら、失敗してしまった」


 イフリートは苦しそうな声で僕に謝罪してくる。


「それはいい、それよりお前のその熱どうしたんだ」


 僕がイフリートに向かって強く、心配するように言うとイフリートわ。


「毒を食らってしまった。我の命はもう残りわずかだ、だから、我にかまわず力を溜めていろ」


 イフリートはそう強く言い放つ。


「それは無理だ」


 僕は即答する。


「何故だ!」

「お前を助ける時に、溜めていた炎を全て消してしまったんだ。今から溜めてもあの男には勝てない」


 僕が深刻な顔で言うと、イフリートは悔しそうな顔をする。


「何か、何か方法はないのか」


 僕はその場で吐き捨てる。


「あの、フェルトさん」


 後ろからエトの声が聞こえる。


「なんでお前ら出て来てんだよ」


 アクアたちがいる場所を守っていた壁が消えて、アクアたちが僕の近くに来ていた。


「フェルト一人に戦いを任せたくない。それにみんなの体力も戻ったから」


 アクアが悲しそうな顔をして僕に言う。


「僕だってあの男に一回殺されたんだ。やり返さなきゃ気が済まないよ」


 ジルが悔しそうな顔をして言う。


「「私たちも、時間稼ぎぐらいはできます」」


 ムイにハイドも決心を決めた顔で言う。


「フェルト、僕・・・いや、俺だってあいつに一回負けた。だけど、お前のおかげでもう一度戦える。だから、エトの作戦を聞いてくれるか?」


 エルからそんな言葉が聞こえる。


「作戦?」


 僕がエトに聞くと。


「私の能力でフェルトさんとイフリートの力を融合します。アクアさんたちにはその間の時間稼ぎをしてもらいます」


 エトがそう言って地面に何か書き始める。


「でも、そんなことをしたらイフリートが死ぬんじゃ」

「もうすぐ死ぬと言っておるだろう。それに、我の死が無駄にならないならいいことだ」


 イフリートはそう言って笑う。笑ってる姿からは苦しさはあまり感じられなかった。


「わかった。・・・・エト、よろしく頼む」


 僕はエトに頭を下げてお願いする。


「任せてください!」


 エトはそう言って、地面に書くのをやめ、地面に手を当てる。


「私にも時間稼ぎ手伝わせてください」


 スズが僕の手を握って言う。


「「我らも手伝わせろ!」」


 ライとスイも僕に指をさして言う。


「はは、やっぱり仲間はいいもんだな。じゃあ、よろしく頼むよ」


 僕がそう言うと、アクアたちはみんなそろって。


「「「「任せろ!」」」


 と言って、みんな戦闘態勢に入る。


「フェルトさん、私の能力を最速で使います。皆さんは1分だけ耐えてください」


 エトがそう言った瞬間、男が落ちて言った穴から宙に浮いて僕たちの目の前に出て来た。


「フェルトの準備ができるまで、私たちで時間を稼ぐ!」


 アクアたちは男に攻撃を仕掛けた。



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