第56話エト



 スズが拘束を解くと、龍人の二人はエルに言われた通りに気絶するふりをする。


「エル、見張ってる奴の場所わかるか?」


 僕は静かな声でエルに聞く。正直、キラーズのやり方にはもう限界だった。


「あの城の城壁の上」


 エルはそう言って龍人の二人が守っていた城壁の上を指差す。


「ありがとう」


 僕は炎で自分の幻影をその場に作り、僕自身は炎で姿を隠す。


「さぁ、顔を拝見しますか」


 僕はエルが指をさした城壁の上まで目指す。



 一歩そんなことに気付かないでいる城の上の見張り役は。


「やはりま12の子供だな、あんな奴らに一瞬でやられるとは」


 見張り役はそう言って笑う。


「あいつらはお前の何倍も強いぞ」


 僕は後ろから見張り役の男と思わしき人物に声をかける。


「なっ!」


 男はすぐにバックステップをとり後ろに下がり、腰にさしていたナイフを出す。


「さぁ、早くこの城についての情報を吐いてもらうぞ」


 僕は腰にさしていた刀を抜き、男に向ける。


「死ね!」


 男はそう言ってナイフで切りかかってくる。


「当たらないよ」


 僕はナイフを避けていく。


「ならこれはどうだ!」


 男は腰からもう一本ナイフを取ると僕に突き刺す。


「グッ!」


 僕はいきなりの不意打ちに避けきれず、そのナイフがわき腹に刺さる。


『グラッ』


 意識が朦朧としてくる。


「毒か」


 僕は今の自分の状況を推測し、声に出す。


「そうだ、並の人間なら1分で死に至る猛毒だ。そのままじわじわ死ね!」


 男はそう言って気味悪く笑う。


『ゲシッ!』


 僕は男に蹴りを入れる。


「なんで動けてる」


 男に蹴りは当たったもの、あまりダメージを受けていなかったようだ。


「毒はもう消したから」


 どうやら男も気づいたらしい、僕の体が緑色の光で覆われていることに。


「どうやって」

「簡単だ、治癒の能力で毒を解毒しただけだ」


 僕は殺気を出して男に刀の先を突き立てる。


「ちっ!」


 男は後ろを向き城の中に逃げようとする。


「凍れ」


 僕は静かにそう言うと男の体は凍った。


「やっぱり弱い」


 僕は男の顔の部分だけ氷を解除する。


「お、お願いだ。なんでも話すから命だけは」


『はぁ、少し助かるかもしれないからってすぐこんなことになるなんて、どんだけ根性ないんだ』


 僕は心の中でそう思いつつも表情には出さない。


「じゃあ、エトが捉えられている場所と龍を召喚する能力者について、あとお前が知っている情報を全て」


 僕は刀の先を男の首に近づけ情報を要求する。


「わかった、話す、だから許してくれ」

「いいから喋れ」


 僕は刀の先を男の首に当ててそう言う。


「エトはこの城の中層部にある一番大きな部屋にいる。我らが主人はこの城の最上階にいる」


 男はすんなりと話す。だが、それが気がかりだった。


「なんでそんなにペラペラ話す?」


 僕は男に聞く。


「主人から我らの命が尽きようとするときは教えて良いと言われたのでな」

「そうか、じゃあもういいぞ」


 僕は男の凍った部分を炎で溶かす。


「じゃあな」


 僕は後ろを向き馬車の方へ歩く。


「死ねぇぇ」


 男が動けるようになった瞬間、いきなりナイフを持って襲いかかってきた。


「ちっ!」


 僕はバックステップを踏み壁から飛び降りる。


「逃がさん」


 男はナイフを僕に突き立てたまま壁から飛び降りる。


「マジか」


 僕は驚きのあまり声が漏れる。僕はそれと同時に足に炎を生成し、空中に浮かび横にずれる。


「させるか!」


 男の能力だろうか? 男の腕が伸び、僕の体にまとわりつく。


「これで逃げられまい」


 男はそう言って笑う。だが、これだけでは僕を捕まえられない。


「こんなんで、僕を捕まえたつもりか?」


 僕はそう言って黒い炎で男の腕を燃やす。


「ぐあぁ」


 男はそう言って腕を元に戻す。そして男は地面に落下する。


『グシャッ』


 何かが潰れる黒い音とともに男の体から大量の血が出て、地面を真っ赤にする。


「はぁ、襲ってこなければ死なずに済んだのにな」


 僕はため息をついてからアクアたちがいる馬車に歩いていく。





 僕は馬車に戻ると、馬車の中で遊んでいるライとスイを交えてエトを救出するための作戦を話す。


「それじゃあ、乗り込むよ」


 僕はそう言って門を炎で爆破させる。


「作戦、開始!」


 僕は馬車を城の中に走らせる。



 僕たちは今、エトが捉えられている部屋の前にいる。


「「ここにエトがいるのであろうな?」」


 龍人の二人はそう言って聞いてくる。


「多分な」


 僕がそう言った瞬間、龍人二人は部屋の扉を突き破り中に入る。


「「助けに来たぞ我らが妹よ!」」


 龍人二人はそう言って部屋に入る。


「「「「・・・・・・・な」」」」


 この部屋の中を見た僕たち全員が声を出す。

 なぜなら、その部屋には目から上に機械が被せられ、両腕は椅子の手すりに金属製の縄でひっつけられ、膝がら下は機械で埋め尽くされている少女がいたのだ。


「やぁ、やぁ。よく来てくれたね」


 少女の横に置いてある機会を操作している紫色の髪をした身長は180センチぐらいある若い男がそう言った。


「「お、お前は。なぜだ、なぜお前がここにいる! お前はこの城の最上階にいるのではなかったのか!?」」


 龍人二人は僕と戦った時とは段違いに鋭い殺気を男に向ける。


「やっぱり君達は裏切ってたんだね。まぁ、この娘ももう用済みだし返してあげるよ、死体でね」


 男はそう言って腰から一本のメスを取り出し、少女の首を切った。


「「貴様ァァァ!」」


 龍人二人は一瞬で男との距離を詰めると男に向かって拳を振りかざす。


『バシッ』


 男はその拳を簡単に手で掴みこちらに龍人二人を簡単に放り投げて来た。そして椅子に縛られている少女も椅子から引き剥がすとこちらに投げてくる。


「エル、ジル、龍人二人は任せた」


 僕がそういうとエルとジンはこちらに投げられたライとスイをキャッチする。

 僕は殺された少女をキャッチし、すぐにアクアたちの場所に戻る。


「「エト、エト。お願いだ、目を覚ましてくれ」」


 龍人二人は目を覚まさないエトに泣いて抱きついている。僕にはそれがアクアが死んだ時の僕と同じように見えて黙って見ていられなかった。


「ライ、スイ、少し退いてくれ」


 僕がそういうとライとスイは嫌だと言わんばかりにこちらを睨んだ。


「わかったじゃあ、エトに触れさせてくれ」


 僕がそういうと、ライとスイはエトの右手を僕に向けた。


「ありがとう。じゃあ始めるね。蘇生リバイブ


 エトの体が淡く光る。そして。


「・・・ん」


 エトが目をさます。


「「エトぉぉ!」」


 龍人二人はエトが目を開けた瞬間、エトに抱きつき泣き顔をエトの体に押し付ける。


「え、お姉ちゃんたち? どうしてここにいるの? てか、後ろの人たちだれ?!」


 まぁ、当然の反応だろう。


「それは後で話すから、まずはあいつをどうにかしないといけないからね」


 僕はそう言って男の方を向く。それに続いて、アクア、スズ、エル、ムイ、ジル、ハイドも男睨む。


「全員で攻撃だ」


 僕の合図とともに僕たちは男へと向かっていく。




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