第23話『大観覧車』
絶叫アトラクション3連続で楽しんだときにはお昼時になっていたので、テーマパーク内にあるフードコートに行ってお昼ご飯を食べた。
午後になると、さすがに絶叫系以外も行きたいという話になり、コーヒーカップやメリーゴーランドなどの定番のアトラクションを楽しんだ。
沙奈会長はもちろんのこと、みんな楽しそうにしていて笑みが絶えなかった。写真や動画にも収めているので、今後も幾度となく楽しかった思い出として語られることになるだろう。
そういえば、琴葉もすっかりと仲良くなったのか、副会長さんや真奈ちゃんと一緒にいることが多くなり、楽しそうに話している様子も見られた。この旅行を通じ、新たな友情が生まれたことは間違いないだろう。
夕方になり、ホテルに戻ることも考えると、アトラクションは残り1つくらいがいいということになった。
「最後はやっぱりあれがいいなって思うんですけど、どうですか?」
沙奈会長が指さした先にあるのは観覧車。そういえば、観覧車も遊園地の定番だったな。
「いいね、お姉ちゃん。何だか観覧車って遊園地の締めって感じだよね」
「締めって……何だか鍋とかすき焼きみたいな気がするよ、真奈ちゃん。でも、2人が言うように最後に乗るイメージはあるかな」
「観覧車は乗りたいです。そういえば、レイ君や麻実ちゃんと一緒に遊園地に行ったときも、最後に観覧車に乗ることが多かったよね」
「そうだったね。ぐったりとした玲人がソファーにずっと横たわっていたこともあったな」
思い返してみると、琴葉や姉さんに絶叫系アトラクションに連れ回され、観覧車に乗ってようやくゆっくりと休み、家に帰っていくという流れが多かった気がする。2人の言うように、観覧車の中で横になって寝たこともあったっけ。
「玲人君はどう?」
「僕も行きたいです。遊園地には観覧車だな……と思って」
「ふふっ、じゃあ……あの観覧車に行きましょう!」
僕達は最後に観覧車へと向かう。
パンフレットによると、正確には『大観覧車』というアトラクション名。高さは100mと日本有数の大きさであり、およそ15分で1周するとのこと。ゴンドラには大人なら6人まで乗れるらしいので、みんなで一緒に乗ることができるか。
大観覧車に到着すると、待機列には10人くらいの人が並んでいるだけだった。これなら数分もすればゴンドラに乗ることができそうだな。
「楽しみだね、玲人君」
「そうですね」
100mまで上がったら、きっといい景色を見ることができるだろうし。あと、個人的に富士山は何度でも見たくなる美しい山であると思っている。
「それでは、次の方どうぞ」
気付けば、僕達が乗る番になっていた。
「さあさあ、レイ君と沙奈さんは2人きりで乗ってください」
「……うん。お言葉に甘えさせてもらうね、琴葉ちゃん」
僕は笑顔の沙奈会長に手を引かれる形で、彼女と2人きりでゴンドラに乗ることに。琴葉達は次のゴンドラにでも乗って、2人きりの僕らのことをニヤニヤしながら見るんだろうな、きっと。
さすがに大人6人乗ることができるだけあって、ゴンドラの中は結構広い。今の僕でもこの椅子の家で横になれるんじゃないだろうか。
隣に座ってくるかと思いきや、沙奈会長は僕と向かい合うようにして座っている。こうして見てみると、本当に綺麗で可愛い人だな。
「沙奈会長、写真を撮ってもいいですか?」
「……もちろん」
僕がデジカメのレンズを向けると、沙奈会長は笑顔でピースサインをしてくれた。そんな素敵な彼女の姿をデジカメとスマホで撮影する。
「ありがとうございます」
「ふふっ、じゃあ私も撮っちゃおうかな。ほら、はいチーズ」
小さい頃は何も気にせずにできたピースサインも、今は何だか気恥ずかしい。それが顔に出てしまったのか、沙奈会長はスマホで僕の写真を撮りながらクスクスと笑っていた。
「いい写真が撮れた。じゃあ、次は」
そう言うと、沙奈会長は僕の隣に座ってきて、顔を物凄く寄せてくる。2人きりというのもあるけど、彼女の匂いや温もりが感じられてドキドキしてくる。
「よーし、ツーショット撮ろうよ!」
「はい」
沙奈会長のスマートフォンの画面には僕達が映っている。個人的にはニヤけているように思えるけど、沙奈会長にとって今の僕の笑みは好きだろうか。好きだといいな。
「はーい、チーズ」
そう言って、沙奈会長は撮影ボタンを押した。
「じゃあ、もう一枚」
その瞬間、沙奈会長は僕の頬にキスをしてきて、その写真を撮ったのだ。
「うん、いい写真がもう一枚撮れた!」
「……良かったですね」
これも沙奈会長にとって旅行の思い出の1つになれば何よりだ。
ゴンドラが少しずつ頂上に近づいていくにつれて、景色も段々と広くなっていく。それを沙奈会長と一緒に見られてとても幸せに思う。
「それにしても、2人きりだね。玲人君」
「そうですね」
沙奈会長は目を輝かせながら、隣から僕のことをじっと見ていた。彼女は景色よりも僕のことを見たいのかな。
「ただ、2人きりだけど、そうじゃない気がして。それって2人きりのときよりも色々な意味でドキドキしない?」
「言いたいことは分かるような気がします」
前方に見えている1つ前のゴンドラには女性のグループが乗っているし、後ろのゴンドラには琴葉達が乗っていると思われる。後ろに振り返ってみると、副会長さんがしっかりとビデオカメラをこちらに向けており、琴葉や姉さん、真奈ちゃんはニヤニヤしながら僕達のことを見ていた。
「沙奈会長。後ろのゴンドラから副会長さん達がガッツリと僕らのことを見ていますよ」
「あっ、本当だ。玲人君と私がイチャイチャするところでも見たいのかな?」
「……それ以外考えられないような気がします」
「盗撮は良くないけど、玲人君と私が一緒にいるところだから不問にしようかな」
以前、僕の部屋にカメラを仕掛けて盗撮していた人が何か言ってるよ。沙奈会長のことだから旅行から帰った後、副会長さんから動画のデータをこっそりと受け取って、色々な意味で楽しみそう。
「でも、はっきりとキスする瞬間が映っているのも恥ずかしい……かな」
そう言うと、沙奈会長は僕を跨ぐようにして座り、ぎゅっと抱きしめてくる。
「ごめんね、玲人君。富士山とか見たかったかもしれないけれど」
「……さっき見たので十分ですよ。それに、今の景色は富士山にも引けを取らないくらいに素敵だと思っています」
僕がそう言うと沙奈会長は顔を真っ赤にして視線をちらつかせている。日も傾き始めてきたからか、彼女の顔がより赤く思える。
「う、嬉しいことを言ってくれるじゃない。そんな玲人君にお礼でキスしてあげちゃおうかな」
「してあげちゃおうかな、って。元々、僕とキスするつもりでこんな体勢になったんでしょう?」
そう問いかけると、沙奈会長は僕のことを見つめて一度頷いた。素直で可愛らしい。
「……2人きりで乗った瞬間、観覧車の中で絶対にキスしたいって思って。だから……キスしてもいいですか?」
「もちろんですよ。僕も観覧車の中でキスしたいと思っていましたし、いい思い出になるんじゃないかなって」
「……ありがとう。玲人君、大好き」
「僕も好きですよ」
僕が沙奈会長のことを抱きしめると、彼女はにっこりと笑って唇を重ねてきた。
琴葉達に見られているだろうけれど、沙奈会長と唇を重ねた瞬間……そんなことはどうでも良くなるくらいに彼女への愛おしさが膨らんできて。これまで抱いていたちょっと嫌なドキドキも、すぐに心地よいドキドキへと変わっていく。
口を離したとき、沙奈会長の唇が煌めいていた。それが彼女自身も分かったのか、舌でゆっくりと舐め取った。それがとても艶やかで。
「ふふっ、幸せいっぱい」
「そうですか」
「……こうしていると、もっと先のことをしたくなっちゃうなぁ」
「気持ちは分かりますが、ここではキスまでですよ」
沙奈会長の気持ちは分かるけど、もうちょっと周りの状況を考えた方がいい。
「ふふっ、冗談だって。また今日も夜にたっぷりとしようね。それにしても……ここって頂上かな? 凄く高いところにあるよ!」
「そういえば、かなり上がりましたよね」
前のゴンドラも、琴葉達が乗っている後ろのゴンドラもほぼ横にあるように思える。彼女達と目が合い、お互いに笑顔で手を振り合った。
『いい景色だね、レイ君! 沙奈さん!』
SNSのグループトークに琴葉のそんなメッセージが。その後すぐに真奈ちゃんからゴンドラの中で撮ったと思われる富士山の写真と、4人で楽しそうにピースしている写真が送られてくる。
「向こうも楽しそうだね、玲人君」
「ええ。2つに分かれているのに6人全員、同じゴンドラに乗っているような気がしますよ」
「確かにそうかも! じゃあ、私も写真をアップしようかな」
沙奈会長はさっき撮った僕と一緒にピースサインをした写真と、不意に沙奈会長が頬にキスをした写真をアップする。
「どうしてキスした写真まで送るんですか! 恥ずかしいですよ!」
「ふふっ、いいじゃない。それに、2人きりにしてくれた琴葉ちゃんへのお礼も兼ねて」
沙奈会長はニコニコしながらそう言った。琴葉へのお礼なら、ここじゃなくて琴葉個人に送ればいいのに。これ、絶対に観覧車降りたら色々と訊かれるだろうな。
『ラブラブしてるね、お姉ちゃん! 玲人さん! お幸せに!』
『沙奈ちゃんはもちろんだけど、玲人も幸せそうな顔をしてるね~』
『こっちからビデオカメラで撮っていたけれど、本人達が撮影した写真には敵わないね! 保存決定』
『2人きりにして正解でした! 幸せな気分をお裾分けしてもらった感じ』
4人とも好意的なメッセージを送ってくれて良かったよ。向こうのゴンドラを見ると、4人が笑顔で手を振ってくる。2つに別れて正解だったのかなと思うのであった。
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