第54話『告白と告白-後編-』
──レイ君、あたしと付き合ってください!
琴葉は僕に告白をし、僕のことを抱きしめてキスしてきた。
言葉だけでも心に染み渡ったのに、抱きしめられてキスされると……琴葉の好意がどれだけ強いものなのか、温もりや匂いでしっかりと伝わってくる。
唇を離したときの琴葉は今までの中で最も女性の顔に見えて。それは僕に対する好意からなのか。それとも、女子高生と言える年齢になったからなのか。
「ちなみに、今のがあたしのファーストキスだから。レイ君にあげることができて凄く嬉しい。でも、レイ君と付き合えるようになったらもっと嬉しいな」
はにかみながら言われたその言葉で、心がぎゅっと掴まれた感じがした。ただ、そこには確かな痛みもあって。
楽しかったことも。悲しかったことも。色々なことがあった琴葉との日々を思い出す。これまでに思い描いていた琴葉との未来も。琴葉はとても魅力的な女の子であり、幼なじみだと想っている。
しっかりと僕に想いを伝えてくれたんだ。それにちゃんと返事を言わないと。
「ありがとう、琴葉。僕を好きだって言ってくれて嬉しいよ。正直、告白されて凄くドキドキした」
「……うん」
「だけど……ごめん。僕には他に好きな人がいるんだ。だから、琴葉とは恋人としては付き合えない」
僕にとって、琴葉は大切な可愛い『幼なじみ』なんだ。出会ってからずっと、それが変わることはなかった。
「そう……なんだね。ちなみに、レイ君の好きな人って……如月さん?」
「うん、そうだよ」
「……やっぱり。悔しいな……」
琴葉に告白されたとき、沙奈会長の悲しげな笑顔が頭をよぎったんだ。
琴葉は崩れそうな笑みを精一杯に保とうとしている。溢れそうな涙を必死に堪えようとしている。それだけ僕のことをずっと好きである証拠だと思う。
「玲人、くん……」
沙奈会長の方に振り返ると、彼女は顔を真っ赤にして僕を見ていた。本当に可愛らしい人だ。
最初は本当に嫌だと思っていたのに。生徒会に入って、ミッションを通して……気付けば、沙奈会長がずっと側にいてほしいと思うようになった。一緒にいると安心して、温かい気持ちが湧き上がっていくばかりなんだ。
認めることに悔しさもある。僕は沙奈会長に恋をしているんだ。
沙奈会長はあの猫を助けた僕のことを一目見てから、ずっと心に好きだっていう気持ちを抱いてくれていたんだよな。
会長は今まで数え切れないくらいに好きだと言ってくれていて、琴葉だって今…、頑張って告白したんだ。僕も沙奈会長への好意を自覚したんだから、その想いをちゃんと言葉にして伝えないと。それが沙奈会長と琴葉に示せる誠意だろう。
「僕は沙奈会長のことが好きです。しつこいし、嫉妬深いし、僕のことを全然考えずに行動するときもありますけど……優しくて、温かくて、可愛らしくて、ずっと一緒にいてほしくて。そんな沙奈会長のことが大好きです。沙奈会長、僕と恋人として付き合ってくれませんか」
僕は生まれて初めての告白をした。ドキドキはするけど、どこか清々しくもあって。沙奈会長と琴葉も告白したときはこういう感じだったのかな。
すると、意外にも沙奈会長は涙を流していた。それを右手で拭い、
「もちろんだよ、玲人君。初めて見たときから玲人君のことが好き。だから、ずっとずっと見てきた。これから恋人としてよろしくお願いします」
にっこりとした笑みを浮かべた。沙奈会長と恋人同士になったんだと思うと、いつも以上にその笑顔が可愛らしく思える。
「おめでとう、レイ君。如月さん」
琴葉は涙を流しながらも、笑顔を浮かべて僕達に拍手を贈ってくれる。その拍手はアリスさん、副会長さん、姉さんへと伝わっていく。
そういえば、琴葉だけじゃなくて彼女達の前で告白したんだな、僕。段々と恥ずかしくなってきた。
「でも、本当に悔しいな。レイ君が最近出会ったばかりの如月さんと付き合うなんて。あたしの方がレイ君のことをたくさん知ってるのに。たくさん遊んだのに。たくさん……一緒にいたのに。ただ、如月さんとなら上手くやれそうだって勘が当たったのは嬉しいな。如月さん、あたしが時間をかけて育ててきたレイ君と幸せになれなかったら、あたしは絶対に許しませんからね! レイ君をあたしの彼女にしちゃうかもです」
「分かったよ。でも、玲人君と一緒に末永く幸せに過ごす未来は、一目惚れをした日からずっと描いていることだからね。玲人君とならそうなれる気がする。そうなるためにも頑張るね」
今までの沙奈会長を思い返すと、実際にそうなるだろうなって自然と思えてしまうから凄い。ただ、僕もしっかり頑張らないと。
「2人ともおめでとう。じゃあ、将来は妹ができるんだね。義理だけど。でも、昔から知っているからか琴葉ちゃんの告白は胸にくるものがあったよ。キュンとして」
「あの告白からのキスですもんね。もし私が逢坂君の立場だったら、琴葉ちゃんに心を奪われていたかもしれないなぁ。素敵な告白だったと思うよ。ただ、沙奈ちゃん……おめでとう。逢坂君のことを好きだってずっと言っていたもんね。頑張ったね」
「そうですね。恋が……実りました。ありがとうございます」
姉さんは会長のことを気に入っていたし、副会長さんは沙奈会長のことを最も近くで見守っていた。僕と付き合うことになって非常に喜んでいる様子だ。ただ、僕に真摯な告白をした琴葉の姿には感動した模様。
一方で、ずっと琴葉の恋を応援していたアリスさんはどうだろう。さっきは拍手を贈ってくれたけれど。
「以前から琴葉の恋を応援した身としては複雑ですが、逢坂さんに想いを伝えたいということをしっかりと果たせて良かったと思います。逢坂さんと付き合えれば最高でしたが、それでも嬉しく思います。逢坂さん、如月さん。琴葉のためにも2人で幸せになってくださいね」
アリスさんはそう言って、爽やかな笑みを見せてくれる。良かった、何か変なミッションを課せられることもなくて。
「……そうだ。レイ君が如月さんと付き合うことになったんだから、2人がキスするところを見てみたい!」
アリスさんじゃなくて琴葉がミッションを課してきたか。正確に言えばお願いなんだけれど。
「あたしだってキスしたんだし。それに、2人がキスするところを見れば、気持ちもスッキリできるかもしれないと思ってさ。ショックを受けちゃうかもしれないけど」
「そういうことなら。しよっか、玲人君。みんなの前だと恥ずかしいけれど」
「そう……ですね」
僕も2人きりじゃないところでキスするのは恥ずかしいけれど、琴葉が気持ちを整理できるかもしれないなら。
「じゃあ、玲人君の方からしてほしいな」
「……分かりました」
すると、沙奈会長は僕のことを抱きしめてゆっくりと目を瞑った。
「玲人君、好き」
「僕も好きですよ」
僕の方から沙奈会長にキスする。あのときと同じ感触なのに、今の方が凄く心地よく感じられて。比べてしまっていいのか分からないけれど、沙奈会長の唇の方がいいな。
唇を離すけれど、周りの反応が恐くて沙奈会長と至近距離で見つめ合う。沙奈会長も僕と同じような気持ちなのかはにかんでいる。
「玲人君と2人きりだったら、そこにベッドもあるし押し倒しているところだけど、恩田さん達がいるからさすがにできないね」
「……2人きりなら押し倒していたんですね」
「たぶん。もちろん、玲人君が押し倒してくれてもいいんだけれどね」
今までのことを振り返れば、絶対に沙奈会長が僕を押し倒すと思う。でも、2人きりになると気持ちが大きくなって、沙奈会長をどうにかしちゃうのかな。
「何か、レイ君と如月さんの世界が見えた気がした。悔しい気持ちは残っているけど……とても清々しくなったよ。幸せになってね。でも、あたしとは幼なじみとして、これからもずっと仲良くしてくれると嬉しいな」
「ああ、もちろんだよ」
「……ありがとう」
琴葉はにこやかな笑みを浮かべながらそう言った。どうやら、今のキスを見て琴葉にいい影響を及ぼしたらしい。アリスさんはさっきから変わらず落ち着いた様子でいてくれるけれど、
「生徒会の副会長として、沙奈ちゃんと逢坂君を近くで見ていたからか何だか感動しちゃうな……」
「あの小さくて可愛かった玲人が、お姉ちゃんから離れるときがついに来たんだね……」
副会長さんと姉さんは号泣。僕と沙奈会長がキスしただけだけれど、見る人によって想うことは違うんだな。
「ここまで反響があると責任重大だね、玲人君」
「そうですね」
「さっそく私達の愛の結晶を作った方がいいんじゃない? そこにベッドもあるし……」
「それは追々考えましょうね」
沙奈会長と一緒に幸せな時間を過ごしていって、会長と付き合って良かったよねと言われるようにならないと。それが琴葉に対する精一杯の誠意だと思う。
「でも、これでようやく玲人君を心身共に私のものになってくれた。……嬉しい。でも、いつかはこうなるって信じてたよ。ずっと見てきたもん。私、玲人君のためなら全てを捧げる覚悟があるからね」
そう言って、沙奈会長は僕のことをぎゅっと抱きしめてくる。
「そうですか。……逆に言えば、沙奈会長だって心身共に僕のものですよ」
「……凄くキュンときちゃった」
よほど嬉しかったのか、沙奈会長からキスしてくる。しかも、舌まで入れてきて。2人きりならまだしも、みんなの前でここまでのキスをするのは恥ずかしいから正直しないでほしい。
「私の心も体も玲人君のもの。だから……好きにしてくれていいんだよ?」
「分かりました。ずっと僕と側にいてくださいね」
「うん! 浮気したらぶっ殺すから!」
ここまで可愛らしく「ぶっ殺す」と言う人は他にいないだろう。
高校生になってからおよそ1ヶ月。色々なことを経て、濃密な時間を過ごし……僕は沙奈会長という恋人ができた。彼女の愛はとても重い気がするけれど、好きな人からの気持ちだ。彼女の想いを抱きしめられる人間になっていこう。そう心に誓うのであった。
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