3 tenas ci foy zertigazo resa polbowa yu.(女が妊娠しやすい法力を使えるかもしれない)

 以前、ラクレィスといわゆる「魔力」について話したことを、ふと思い出した。

 魔術師も、僧侶も、魔術や法力を使う際、必ず心身が消耗する。

 それを「魔力」として表現することもある。

 いまティーミャが取り出したのは、その魔力、なかでも「水系統の術の魔力」が封じられたものだという話だった。

 一見した限りでは、普通の人間には小粒なサファイアにしか見えないだろう。

 しかし、このなかに膨大な魔力が封じられているのだと聞くと、なんとなくゲーム的なものを想像してしまう。

 もっとも、この世界の魔術の恐ろしさは、コンピューターゲームなどのそれとは、本質的に異なるものだったが。

 実際に自分も魔術を使い、また使われた身としては、爆弾や銃器といった極めて物騒なものを扱っている感覚に近い。

 ある意味で、ティーミャが持っている魔力の封じられた石は「大量の弾丸がこめられた銃器の弾倉」のようなものにしか思えなかった。

 だが、今はティーミャ自身がかなり衰弱しているのが気になる。

 レクゼリアも、エィヘゥグも、そしてモルグズもかなり疲れていた。

 なにしろあれだけの嵐に揉まれ、翻弄されたのだから無理もない。

 モルグズ以外の三人は、ひどい船酔いにより胃液を吐くまで嘔吐していたほどだ。

 病の女神、病魔の女王であるエグゾーンの秘密寺院で休息をとるというのは、あまり気分の良いものではないが、贅沢は言っていられない。

 ただ、問題はレクゼリアだった。

 彼女はすでにかなり、憔悴している。

 しかし、神から与えられた自らの使命をいまだに果たしていないのだ。

 もっとも、いくら一般の人間に比べれば桁違いの造精機能を持つ半アルグであっても、やはり限界というものがある。

 そもそもああした行為は、かなりの体力を使うのだ。

 いまはとにかく、力を温存しておきたいモルグズにとって、今のレクゼリアは決して笑い事ではない、悩みの種となっていた。

 さらにいえば、スファーナとティーミャも、こちらの隙をうかがっているような思えるのは自意識過剰と思いたいが、やはり半アルグの性フェロモンの強力さは、洒落にならない。

 もし現代日本にこのフェロモンを抽出して持ち帰ったら、世の男性たちにさぞかし感謝されるだろうと馬鹿げたことを思いながら、モルグズは少し眠った。

 さすがに、女たちもモルグズに警告されたので、寝ている間に気がつけば、などということはなかった。

 なにかひどく混乱した夢を見た気がするが、よく内容を思い出せない。

 気がつくと、すでに夜が開けていた。

 どうやら外の嵐も収まったらしい。

 ウォーザ神としても、これ以上、嵐を引き起こす理由はないのだろう。

 それでも、迂闊に外に出れば危険なことにかわりはない。


 ers ma:su.mo:yefe magboga.(ご飯よ。可愛い怪物)


 スファーナが、碗を差し出してくる。

 途端に、レクゼリアとティーミャが鋭い目を向けてくるのを見て、この問題はそろそろ真剣に考えなければならない気がしてきた。

 仲間たちは一心同体とはいかぬまでも、やはりこのままではまずい。

 他の二人はともかく、レクゼリアはかなり深刻だ。

 彼女は愛情や欲望以前に、自ら仕える神からの使命を果たすつもりなのだ。

 おそらく、レクゼリアもこちらの命は、そう長くないと冷徹に考えている気がした。

 ウォーザ神にとっては、イシュリナス寺院の権威を地の底にまで落とすことより、モルグスの血をひく子孫を獲得するほうが、遥かに大事なのだろう。

 要するに種馬扱いなのだが、ウォーザにも助けてもらっているので無下にもできない。

 ウォーザ、エグゾーン、リアメス、そして自分の思惑がいろいろとすれ違っているのがすべての原因だが、どれもこれも実現できるわけではない。

 そもそも子供をつくれといっても、こればかりはそれこそ神々の領域の話、という気がする。

 神々。

 そういえば、シャラーン系の神々に、妙なのがいたはずだ。

 シャラーンの神々が信仰されているグルディアで聞いた、オルダスという名の神である。

 かの神は荒淫と情欲を司り、その象徴はなんと男性器そのものだというのだから、なかなかに凄まじい。

 そこで、気づいた。

 ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。

 本当にオルダスというのは「ただの荒淫と情欲を司るだけの神」なのだろうか。

 地球でも、男性器が豊穣の象徴とされている例は多いが、最も有名なのはヒンドゥー教のシヴァ神だろう。

 シヴァ神はヴィシュヌと並んでヒンドゥー教の重要な神であり、破壊と再生を司る神である。

 そしてこの神は、男性器を象ったシヴァリンガと呼ばれるものをシンボルとしている。

 より正確にいえば、女性と交合している男性器だ。

 そもそも、性というのはただ愛情や快楽のためだけでなく、子供をつくるというある意味では神聖な行為なのだから、古代人がそこに根源的な豊穣の神秘を感じたとしても、なにも不思議はない。

 あるいは、オルダスという神ももともとは、そうした豊穣を司る神だったのではないだろうか。


 sufa:na.sxalto oldasma zereys cu?(スファーナ、オルダスの僧侶を知ってるか?)


 一瞬、スファーナがあっけにとられたような顔をした。


 wam ers cu?(なんで?)


 tenas ci foy zertigazo resa polbowa yu.(女が妊娠しやすい法力を使えるかもしれない)


 そこで、ようやくスファーナが納得したようだ。


 ers mig van na:fa!(すごくいい考えねっ!)


 スファーナが物凄い勢いで階段を外にむかって飛び出していった。

 レクゼリアは、落ち着かない様子だ。

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